ケーススタディー

2025年10月21日 火曜日

酒酔い、赤信号無視… 起死回生の逆転劇(弁護士 西村隆雄)

西村隆雄弁護士については、こちらをご覧下さい。 

 

はじめに

 事故が起きたのは、7月下旬深夜1時過ぎでした。川崎区の幹線道路上で、自転車に乗って道路を横断していたNさんに乗用車が衝突。Nさんはその場で救急搬送され、骨盤骨折、左足骨折、左前十字じん帯損傷などの重傷を負って、入院2か月、通院11か月の長期加療を余儀なくされました。

 ご相談を受け、早速相手方との交渉を持ったのですが、相手方は、横断歩道上での当方赤信号無視の事故で、酒酔いの上でのものと主張してきました。

 当方はお酒が入っていたことは事実ですが、酒気帯び程度で酒酔いには至っておらず、交差点から20m以上離れた地点での衝突とのことで、お互い主張がかけ離れています。

 そこで裁判を提起することとなりました。双方とも川崎在住で、事故現場も川崎ですので、当然横浜地方裁判所川崎支部での裁判となるところでしたが、あえて横浜地方裁判所(本庁)に提訴することにしました。その心は、私は弁護士になる前の修習で、本庁第6民事部に配属されました。ここは交通専門部で、交通事故を一手に扱うこととなっており、当時から交通事故に関してはしっかりした審理を行い、また被告側につく保険会社の代理人に対してもはっきりとモノを言っていく傾向があったのを見てきたからです。

 案の定、なんで川崎支部ではないのですかと聞かれましたが、事案複雑なのでお願いしたいと話して、受け付けてもらえました。

 

事故態様

 夜間の事故で、第3者の目撃者、ドライブレコーダー映像等の客観的な証拠も存在しない中、双方の主張は大きく対立しました。

 交差点の手前20m以上離れた地点を横断していて衝突したとの当方の主張に対して、相手方は、横断歩道上を赤信号で進行してきた当方に衝突したと主張。ここで問題なのは、本来であれば双方立ち会いの下で作成されるはずの実況見分調書が、当方は重傷を負い搬送されてしまったので、相手方立ち会いのみで作られ、その後当方立ち会いでの調書が作られていない点です。相手方はこの実況見分調書に基づいて主張を展開してきました。

 さてここで重要なのが、過失割合です。当方(被害者側)にどれだけの過失があったかというのが問題になり、例えば80パーセントの過失ありとなれば、全体の損害が1000万円であったとしても、1000万円×(1-0.8)=200万円しか賠償が認められないのです。これを過失相殺といいます。

 ここで本件についてみると、衝突地点が横断歩道上となれば当方の基本過失割合は80パーセントとなるのに対して、交差点外での衝突となれば基本過失割合は30パーセントとなり大きく異なってくるため、ここが最大の争点となってくるのです。

 

当方の主張

 客観証拠が限られている中、現場に残されていた被害者のものとみられる血痕の位置(片側2車線の外側車線の外側)と相手方車両の破損状況(左前部フロントガラスに同心円状のひび割れ破損)を重視すべきと主張しました。

 すなわち当方は相手方車両のバンパー等で跳ね飛ばされることなく、相手方車両の前部左側ボンネット上に持ち上げられ、左前部フロントガラスに衝突し、その後落下しそのまま倒れて流血し、外側車線の外側に血痕が残された。この血痕の位置は、中央車線を走行して交差点内で衝突し、その後中央車線上で停止したとの相手方主張とは明らかに矛盾することを強調しました。

 一方当方が搬送された病院のカルテに、医師による「赤信号で横断歩道を渡り受傷」などの記載があると、相手方が主張してきました。これに対して、当方は、事故直後は意識レベルが悪く聴き取りは不能であり、一般に搬送されてきた場合、受け入れ医師は救急隊員から事故状況を聞き取るのが普通であり、救急隊員は現場に居合わせた関係者、本件でいえば相手方から事故状況を聞き取っている可能性が大であると主張しました。

 

裁判所和解案

 以上の審理を踏まえて、裁判所は事故態様と過失割合についての所見を示したうえで、和解案を提示しました。概要は以下のとおりです。

 「実況見分調書の相手方車両の停止位置と血痕の位置が離れすぎており、この停止位置、ひいては相手方主張の衝突位置が必ずしも正確とは認められない。そもそも相手方は当方自転車に気づかなかったからこそ衝突したのであり、相手方が当時衝突地点を正確に認識できたとは認めがたく、本件事故の衝突地点は、横断歩道の付近であったという程度では採用できるものの、横断歩道上で衝突したとまでは認めがたい。」

 上記カルテの記載についても、「当方に事故の記憶がない以上、この記載は相手方の説明に基づくものと認められ、相手方は衝突地点を正確に把握していたとは認められないので、この記載も採用できない」

 「以上から本件事故の衝突地点が横断歩道上であったとまでは認めがたく、当方の基本過失割合は30パーセントと認めるのが相当である。」

 なお当方の酒酔い運転についても、「酒酔い運転に至らなかった可能性があるとしても、酒気帯び運転の状態であった可能性は否定できず過失修正するのが相当」と提示しました。

 相手方はこの所見と和解案を全面的に受け入れて、和解成立に至りました。

 

健康保険の適用

 ところで当方が加入していた健康保険組合は、途中まで、本件は酒酔い運転で、かつ横断歩道上での赤信号横断であるので、健康保険法116条により、健康保険は適用できないとの見解でした。

 しかし裁判所の上記所見が出たため、健康保険組合は見解を改め、酒酔い運転、横断歩道上の赤信号横断はいずれも認定できないとして、健康保険適用の判断となりました。

 このため非適用であれば約400万円となっていた医療費が、適用となったため自己負担分のみの約120万円に減縮できたばかりでなく、限度額適用認定申請による高額療養費制度を利用できることとなったため、さらに医療費を大幅に縮減できることとなったのは大変に大きかったといえます。

 

私は弁護士経験40年以上となりますが、交通専門部での修習をきっかけに、多く交通事故案件を扱ってまいりました。今回もその経験が生かされたと思います。どうぞ、交通事故でお悩みの方、ご相談ください。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

2025年10月2日 木曜日

離婚した後、旧姓に戻る? それとも夫の姓をそのまま使う?子どもが大きくなった後、旧姓には戻れるの?という疑問にお答えします(弁護士 川口彩子)

川口彩子弁護士については、こちらをご覧下さい。 

kawagishi  

結婚するときには、夫か妻のどちらかの姓を選ばなければなりません。その夫婦が離婚するときには、姓を変えた側が、旧姓に戻るか、婚姻時の姓をそのまま使うか選ぶ必要があります。日本では、妻側が姓を変えるケースが大半なので、ここでは、結婚のときに妻が姓を変えたケースでご説明します。

まず、婚姻時の姓をそのまま使う場合です。お子さんが慣れ親しんだ姓なので、そのまま名乗らせてあげたいというケース、子どもたちは独立したが、結婚してから長年使ってきたので、もはや旧姓に戻るつもりはないというケースが多いですね。
その場合は、離婚届を提出する際に「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出してください。用紙は役所に備え付けてあります。
 (ちなみに、協議離婚ではなく、裁判所で調停離婚や裁判離婚した場合にも、役所には離婚届を提出する必要があります。調停離婚や裁判離婚の場合、夫のサインや証人のサインは不要です。)

離婚時に旧姓に戻る場合ですが、結婚前の戸籍に戻る場合と、ご自身が筆頭者となって新しく戸籍をつくる場合があります。新しく戸籍をつくる場合には、離婚届に新しい本籍地を記載する際、筆頭者の氏名の欄に旧姓でフルネームをご記入ください。

なお、現在の戸籍の制度では、親子三代が同じ戸籍に入ることはできません。戸籍に入れるのは二代までです。なので、離婚後にお子さんと同じ戸籍になりたい場合には、お子さんを連れて親の戸籍に入ることはできませんので、ご自身が筆頭者となって新しく戸籍をつくることになります。

離婚後の氏をどうするか決めて離婚届を提出すると、ご自身は元夫の戸籍から抜けて元の戸籍に戻るか、ご自身が筆頭者となった新しい戸籍がつくられます。元夫の戸籍のご自身の欄には「除籍」という表示がなされ、元夫の戸籍から抜けてどこの戸籍に異動したのか、新しい本籍地が表示されます。

一方、お子さんの戸籍は、親権者が戸籍から抜けた妻だったとしても、自動的に親権者の戸籍に移るわけではありません。お子さんの戸籍を母親の戸籍に移すには、お子さんの住所地を管轄する家庭裁判所で「子の氏の変更」の手続をする必要があります。

家庭裁判所で「子の氏の変更許可申立書」の書式をもらってくるか、裁判所のHPから「子の氏の変更許可申立書」の書式をダウンロードしてください。

※ダウンロードはこちらから

申立書を提出すると後日「審判」が送られてきますので、それを役所にご提出ください。

ここで注意が必要なのは、元夫の氏を名乗ることにした場合でも、お子さんと一緒の戸籍になりたい場合には、「子の氏の変更」の手続が必要となるということです。「申立人の氏『鈴木』を、母の氏『鈴木』に変更することを求める」という申立てになりますから、違和感はありますよね。ただ、「子の氏の変更」は、あくまでも戸籍を異動させるための手続なので、この申立てが必要となるのです。

なお、15歳未満のお子さんの「子の氏の変更」は、親権者が法定代理人として手続を進めることができますが、15歳以上のお子さんについては、お子さん自身に申立書を記載していただく必要があります。

裁判所への提出は、郵送もしくは持参となりますが、15歳以上のお子さんの申立書を親権者がお子さんに代わって持参することは構いません。

あるいは、離婚のときに、ご自身だけ旧姓に戻り、お子さんはそのまま元夫の戸籍においておくこともできます。そうすると、母と子で苗字が違うことになりますが、ご自身は旧姓を名乗ることができ、お子さんたちはそのまま今までの姓を名乗ることが可能です。元夫が筆頭者となっている戸籍のお子さんの欄には、親権者が母であることの記載はありますので、戸籍が別々でも問題ありません。

ただ、この場合、元夫が再婚すると、お子さんと同じ戸籍に新しい妻も入ってきますから、それは気になる方もいらっしゃるかもしれません。

お子さんが成人しているような場合には、ご自身だけ夫の戸籍から抜けるケースが多いように思います。もちろん、お子さんが成人していても、「子の氏の変更」の手続により、母の戸籍に入ることを希望する方もおられます。

離婚から何年も過ぎて、お子さんも独立し、いよいよ旧姓に戻りたいという方もいらっしゃいます。

その場合は、家庭裁判所で「氏の変更」の手続をし、裁判所の審判を得れば、旧姓に戻ることができます。離婚のときに旧姓を選ぶのであれば、家庭裁判所の手続は不要ですが、いったん元夫の姓を選んでしまうと、旧姓に戻るために家庭裁判所の手続が必要です。事情聴取のため、裁判所から呼出しがあることもあります。

※申立書の記載例はこちら

お子さんが結婚して、自分一人の戸籍になっている場合は、単独で手続ができますが、お子さんがまだ戸籍に残っている場合には、その戸籍ごと氏が変更されてしまいますので、15歳以上のお子さんについては、氏の変更についてお子さんの同意書が必要となります。

戸籍のことで疑問がございましたら、ぜひ法律相談をご利用ください。 

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

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