トピックス
遺言作成は元気なうちに~遺言作成のすすめ~
2024年11月21日 木曜日
あなたが亡くなったら、あなたの周りにどのような変化がおこるでしょうか。法律的には相続がおきます。
弁護士の仕事の中で、遺産分割協議というは、比較的多い類型ですが、近年、家庭裁判所に出される遺産分割事件の件数は増えています。いわゆる「争続(あらそうぞく)」が増えているということで残念な事実です。
相続争いをさけるもっともポピュラーな方法は遺言です。もっとも、日本財団の調査では、60歳~79歳で遺言書をすでに作成している人は3.4%しかいません。約8割の人が加入している生命保険に比べればずっと低いです。残念ですね。
あなたには大切な家族はいますか。配偶者はいますか。子供はいますか。兄弟姉妹はいますか。それとも他に大切なものがありますか。遺言の有無によって、これらの人が助かったり、不幸になったりしますので、是非、遺言作成を検討してみてください。
遺言作成が特に必要な人がいますのでご紹介します。
①結婚しているけど子供がいないひと
②事業を経営しているひと
③不動産の資産が多いひと
④残念ながら相続人間の仲が悪いひと
⑤相続人間で遺産の配分に強弱をつけたいひと
⑥相続人以外に財産を残したいと思っているひと
⑦法定相続人がいないひと
理由としては、
①は子供がいないと法定相続人が配偶者と兄弟姉妹になり、遺産を分けることになるが、全ての遺産を配偶者に渡したいと考える人が多いため
②は事業を承継させるひとを決めておいた方がいいため
③は、不動産を分けるには工夫が必要なため
④は、予め、具体的に遺産の配分を決めてあげた方がいいため
⑤~⑦は、あなたの意思を尊重するためです。
遺言の方法は、公正証書遺言が圧倒的にオススメです。自筆証書遺言とは違い、法的に無効になるリスクが少なく、盗難、紛失、隠匿や改ざんのリスクがなく、相続発生後に家庭裁判所の検認が不要で、遺言の執行までに時間が早く、遺産がもらえない親族等と関わる必要性がぐっと減るからです。
「付言事項」というものを書くのもおすすめです。遺言書には、相続人に対するメッセージとして法的拘束力を持たない「付言事項」を書き添えることができます。これを利用し、相続人にあなたの思いを伝えてみてはいかがでしょうか。残された人へのラブレターのようなものです。
また、遺言作成は元気なうちにお早めが鉄則です。高齢や病気になると意思表示が怪しくなったり、字が書けない、読めない、話せない、必要書類が揃えられないなど、いろいろな問題が起きてきます。遺言作成が難しくなったり、費用がかかったり、時には不可能になったりします。
遺言書は、15歳以上であればいつでも作成でき、古すぎるために遺言書が無効になることはありません。またいつでも内容を変えられます。遺言が無くて困ることは多いですが、作成が早すぎるということはないので、是非、お早めの作成をオススメします。
遺言書作成についてわからないことや、手伝って欲しいことがある場合、是非、われわれ弁護士にご相談ください。あなたの思いを教えてください。
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|よりより遺言書を作るために~「遺言執行者」をご存知ですか?~
2024年11月21日 木曜日
■昨今の「終活」ブームの中、よりよい最期を迎えるために、残された家族のために、遺言書を準備しようと考えている方が多くいらっしゃると思います。弊所にも多数の方から遺言書作成のご相談が寄せられています。その際、「遺言執行者」を定めておくことをお薦めする場合があります。この「遺言執行者」、どういう役割を持つ人か、みなさんご存知ですか?
■「遺言執行者」とは?
「遺言執行者」とは、遺言の内容を実現することを職務とする者のことです。具体的には、遺言の内容にしたがって、相続財産を管理したり、預金を払い戻して分配したり、不動産を売却したり、証券の名義を書き換えたり、相続人や受遺者へ遺産を引き渡したりといったことを行います。
「遺言執行者」は、遺言によって予め決めておくことができるほか、遺言に定めがない場合や、遺言で定められた遺言執行者が死亡したり、辞退した場合など不在になってしまった場合に相続が発生した後に利害関係人の申立てによって家庭裁判所で選任してもらうことができます。
■手続を円滑に進めるために
遺言に、認知が定められていたり、推定相続人の廃除(被相続人が相続人の権利をはく奪する手続き)や取消しが定められていたり、一般社団法人の設立が定められている場合には、「遺言執行者」が必須になります。
上記のように「遺言執行者」が必須な場合以外でも、ご自身が亡くなった後、その遺志を確実に実行し、手続がスムーズに進むように、遺言書を作る際に「遺言執行者」を定めておくようお薦めするケースは多いです。
例えば、亡くなった後に不動産を売却して、お金に換えてから相続人に分配して欲しい場合、遺言執行者を定めておかないと、不動産の売却などを相続人全員で行う必要があるので、非協力的な相続人が出てくると支障をきたしてしまいます。「遺言執行者」を定めておけば、「遺言執行者」は単独で遺言を執行できるため、相続人の非協力的を気にする必要がないのです。上記のとおり、相続発生後に家庭裁判所に申立てをして「遺言執行者」を選任してもらうこともできますが、遺言で予め「遺言執行者」を定めておいた方がより簡便でスムーズです。
そして、「遺言執行者」には、相続人の一人や受遺者を指定することもできます。「遺言執行者」になれないのは、未成年者と破産者だけです。
■「遺言執行者」に弁護士を定めておくのをお薦めします
「遺言執行者」は相続が開始されたら、
☑戸籍謄本などを取り寄せて、相続人の調査をして相続人を速やかに確定する
☑全ての相続人に遺言執行者に就任した旨の通知をする
☑遺産を調査して、正確な財産目録を作成して、全ての相続人に交付する
☑遺産を適切に管理する
☑預金の解約や証券等の売却、名義変更などの手続をして、相続人や受遺者に相続財産を引き渡す
☑遺言執行が終了した場合、相続人や受遺者に遅滞なく経過や結果を報告する
といった業務を行うことになります。
また、「遺言執行者」は、遺言執行業務について善管注意義務を負っており、職務を行うにつき過誤があった場合、相続人から善管注意義務違反として損害賠償請求を受けることがあり得ます。
相続人の1人を「遺言執行者」に定めることができますが、このような職責を負うことから、相続財産が多項目にわたったり、高額であったり、不動産があったりと、遺言執行が簡単に進まなさそうなケースには、専門家である弁護士を「遺言執行者」に定めるようお薦めしています。
また、高齢の配偶者に遺産を残したいが、配偶者自身で相続の手続を行うことが困難であると考えられる場合や、遺産が県外など遠隔地に分散している等手続自体が煩雑になる場合にも、専門家である弁護士を「遺言執行者」に定めるのがお薦めです。
■さいごに
家族が亡くなった後は、悲しみの中、葬儀や納骨といった故人を弔う儀式のほか、年金の受給停止や公的保険の資格喪失届の提出等の公的手続きを行うなど、たくさんの手続きをすることになります。
さらに相続手続を行うことはご家族・親族に大きな負担となりえます。残されたご家族のために、「遺言執行者」として、専門家である弁護士を定めておくことをお薦めします。
遺言書を作成したい、遺言執行者について詳しく知りたいという方は、是非、ご相談にいらしてください!
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|【11/21開催】78期司法修習予定者向け学習会・事務所説明会に参加しませんか
2024年11月11日 月曜日
第78期司法修習予定者のみなさま、合格おめでとうございます!
弊所では、第78期司法修習予定者向け学習会・説明会を開催しております
【第2回企画】として、下記のとおり開催致しますので、ふるってご参加ください!
【日時】2024年11月21日(木)18:30~
【場所】川崎合同法律事務所
※ZOOMも併用しますが、できるだけ現地参加をお願いします。
【テーマ】DVモラハラ被害者を念頭においた離婚事件の実務
【講師】川口彩子弁護士(55期)
20年以上離婚事件を中心に手がけ 離婚成立実績は150名以上にのぼる
□これまで手がけた主な弁護団事件□
東京日の丸・君が代関連訴訟、神奈川こころの自由裁判、トータルネット詐欺商法被害事件、東京大気汚染訴訟、資生堂・アンフィニ非正規切り事件等
★要事前申込★
【お申し込み】
maeda@kawagou.org(担当弁護士:前田ちひろ)
※件名に「学習会申込み」と記載の上、メールにてご連絡ください。
※ZOOM参加希望の方は、申込みの際にその旨も併せてお知らせください。
【アクセス】
・JR「川崎駅」より徒歩約9分
・京浜急行「川崎駅」より徒歩約5分
TEL:044-221-0121
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|孤立出産による乳児死体遺棄・殺人事件で執行猶予判決を獲得!(弁護士 長谷川 拓也)
2024年9月30日 月曜日
1 はじめに
昨今、全国各地で乳児死体遺棄事件は後を絶たず、弊所弁護士においても、乳児死体遺棄事件の弁護人を務めた経験が複数あります。
とくに2022年、神奈川県では、乳児死体遺棄事件が4件も発生しました(うち、1件は、弊所長谷川弁護士が担当、もう1件は、弊所川岸弁護士及び長谷川弁護士が担当しました。)。
今回は、2022年、神奈川県で発生した乳児死体遺棄・殺人事件において、異例の執行猶予判決を獲得し、各種報道でも取り上げていただきましたので、そのご報告をさせていただきます。少しでも、この記事が孤立出産に関係する事件で悩んでいらっしゃる方の助けになることを望んでいます。
2 事件内容等
事件は、2022年4月、神奈川県川崎市にあるマンションで発生しました。マンションのごみ捨て場に出生したばかりの乳児が遺棄してあることが発覚、その後、乳児を出産したという成人したばかりの若い女性(以下「Aさん」と言います。)が死体遺棄の被疑事実で逮捕となりました。
Aさんは、一人で自宅の浴槽で乳児を水中出産したものの、出産後、気を失ってしまったことから、Aさんが意識を取り戻したとき、乳児は、出生後、水中に沈んだ状態のままになっており、すでに亡くなっていたのです。
しかしながら、捜査機関は、もともと、Aさんが乳児を殺害するつもりで、実際に乳児を水中に沈めて殺害したとして、殺人の被疑事実で逮捕しました。そして、その後、Aさんに対し、乳児に対する死体遺棄と殺人の被疑事実で起訴、市民の皆様も裁判員として参加する、裁判員裁判になりました。
3 孤立出産の問題
さて、この事件は、どうして起きてしまったのでしょうか。もっと言えば、どうして、Aさんは、たった一人、自宅で出産することとなったのでしょうか。
妊娠した女性が病院等における検診を受けず、未受診のまま、したがって、医療機関が介入しないまま、一人出産することを「孤立出産」と呼んでいます。まさに、今回のケースも、この孤立出産にあたるものと言えますが、この孤立出産の背景には、次のようなものがあります。
つまり、妊娠した女性が幼少期に家族から虐待を受けたことがあるなどして、家族、とくに妊娠や出産について、先輩であり、一番の模範となるべきである母親との関係が良くないこと、女性に発達、知的な障害があることなどです。
こうした特徴を抱えた女性においては、妊娠や出産に直面した際、周囲の人に対して、そのことを相談することができず、一人で抱えこんでしまい、かといって、自身で解決することもできずに、現実逃避してしまう結果、行き辺りばったりの出産を迎えてしまうことが多く、孤立出産に繋がるという訳です。
そして、残念なことに、結果的に、こうした孤立出産が乳児死体遺棄や殺人事件に繋がってしまうことも少なくありません。
一般的には、「周りへの相談くらい、普通はできるでしょう。」という感覚があり、こうした女性に対する理解は難しいと思いますが、乳児死体遺棄事件で逮捕勾留となった女性と対面した際、実際に、こうした特徴を持っている女性は多いのです。
4 Aさんの抱えていた問題
こうした孤立出産に繋がってしまう女性の特徴については、今回のケースのAさんにもよく当てはまるものでした。
Aさんは、幼少期から、シングルマザーの母親の元で育ちましたが、母親は、昼夜、働いており、Aさんの面倒を見ることはできず、Aさんの面倒は、母親の友達が交代で見ている状態でした。もっとも、面倒を見ているとは言っても、Aさんに対する教育などは一切なく、Aさんは、日本語の勉強などは、テレビを見て、自然に覚えるという状態でした。そのうえ、母親は、Aさんの出生届について、Aさんが小学5年生になるまで出せておらず、結果、Aさんは、そのころまで、法律上はしない子でした。当然、Aさんは、幼稚園(保育園)には通えておらず、小学校についても、小学5年生から通いはじめるという、極めて特殊な生い立ちでした。
まして、Aさんの母親は、シングルマザーの重責から、精神的に不安定な時期があり、Aさんに対し、ひどい言葉を浴びせることも多く、ときには、叩いたりすることもありました。また、母親は、外国籍であり、日本語の理解が乏しかったことから、Aさんとのコミュニケーションも少なく、ほとんどネグレクトの状態でもありました。
こうした生い立ちのAさんにおいては、知的な課題もありました。裁判前、Aさんの知能指数を診断したところ、Aさんは、ほとんど軽度知的障害にあたる境界知能の状態であったことが分かったのです。
この境界知能というのは、数値上、軽度知的障害ではないものの、知能指数的には、その状態に近いというものであり、臨床的には、軽度知的障害として処理することもあるものです。境界知能は、軽度知的障害とは異なり、見た目には、あまり分からず、周囲からは、「内向的」などと、性格の問題として、問題を理解してもらえないことも多く、社会生活において、孤立出産のように、大きな事態になってからはじめて明らかになることも少なくありません。
Aさんにおいては、こうした生い立ちや境界知能の特性として、妊娠出産を母親含め、周囲の人に相談することができず、乳児の父親(以下「お父さん」)などに気付いて、何とかして欲しいという受け身の状態でいることが精一杯な状態でした。しかしながら、実際には、Aさんは、誰からも、妊娠の事実に気付いてもらうことができず、結果、行き辺りばったりで、自宅にて孤立出産をしてしまい、結果として、乳児が亡くなってしまったのです。
5 裁判の焦点
さて、今回のケースでは、Aさんが乳児を水中出産したこと、亡くなった乳児を遺棄したことに争いはなく、裁判では、Aさんが乳児に対し、殺意をもって水中に沈めたのかどうかという点に争いがありました。
裁判では、この焦点を判断するべく、弁護側からは、赤ちゃんポストや裁判への専門家証人としての出廷などのご活動により、孤立出産の問題に精力的に取り組んでいらっしゃる、熊本県の慈恵病院の蓮田健医師や同県の人吉こころのクリニックの興野康也医師に出廷、証言をいただき、医学的な観点から、Aさんの行動を裏付けていただきました。
また、今回のケースでは、Aさんの抱えている問題に即して、今後、孤立出産など、悩みを一人で抱え込まず、同じようなことが起きないようにすべく、罪を犯してしまった方への更生支援などを行っている、社会福祉法人UCHIの川瀬悦副理事長にもお越しいただき、Aさんに対する社会復帰後の更生計画を示していただきました。
更には、Aさんの母親や、当時Aさんの交際相手(乳児のお父さん)にも出廷、証言いただき、、Aさんの生い立ちや、今後は、上記更生支援計画に沿ってAさんの更生を支えていくことなどをお話いただきました。
裁判では、裁判員の方々や傍聴の方々などがすすり泣く姿もあり、まさに、孤立出産の問題について、少しでも、ご理解いただけたものと思っています。
6 裁判の結果
こうしたご家族、専門家のご協力の下、2024年7月18日、Aさんに対する判決がありました。
結果としては、冒頭のとおり、執行猶予判決であり、死体遺棄、殺人の事件では、異例のことであったため、各種ニュースや新聞でも、大きく取り上げていただきました。
残念ながら、判決では、死体遺棄だけではなく、殺人の点についても認めるものでしたが、一方で、殺人を認めたうえで、執行猶予判決という異例の判断になったのは、まさに、孤立出産の問題をきちんと理解していただいたことによるものです。その点では、全国各地、社会で起きている乳児死体遺棄事件に対し、今後、大きな影響を及ぼす重要な判断であったと確信しています。
7 社会を変えていくためには
本件で、Aさんが孤立出産に追い込まれた背景には、日本で出生した外国籍の子どもやシングルマザーの問題、境界知能に対する社会的認知や支援の問題、そして孤立出産に追い込まれる女性の問題など、多くの重要な社会問題が重なった結果、不幸な事件が起きてしまいました。逆に言えば、このような問題が社会に十分に認知され、これに対する社会的支援が広がっていれば、本件のような最悪の結果は、どこかで回避することができたといえます。
そのような想いで、本件をただの事件として終わらせず、社会に伝えたいと、熱心に取材・報道してくれた記者の方々もいて、私たち弁護団もその想いに応えるべく、弁護活動を尽くしてきました。
刑事事件で被告人とされた個人を罰するだけでは、事件の再発を防ぐ社会を作るには不十分です。事件を事件で終わらせず、背景・原因を理解し、多くの方と協力して事件のを再発を防ぐ社会をいかに作っていくかが問われています。
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|学習会・事務所説明会
2024年9月11日 水曜日
学習会・事務所説明会を開催します。
【日時】2024年9月17日(火)18:30~
【場所】川崎合同法律事務所
※ZOOMも併用しますが、できるだけ現地参加をお願いします。
【労働法学習会】
警備員感電死訴訟~息子の死 無駄にしないで~
講師
山口 毅大 弁護士
藤田 温久 弁護士
【お申し込み】
maeda@kawagou.org(担当弁護士:前田ちひろ)
※件名に「学習会申込み」と記載の上、メールにてご連絡ください。
※ZOOM参加希望の方は、申込みの際にその旨も併せてお知らせください。
【アクセス】
・JR「川崎駅」より徒歩約9分
・京浜急行「川崎駅」より徒歩約5分
TEL:044-221-0121
市民と共に歩んで55年
これからを共に歩む仲間を待っています
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|かわさき市民オンブズマンによる川崎市市民ミュージアム住民訴訟(弁護士 渡辺登代美)
2024年4月4日 木曜日
渡辺登代美弁護士については、こちらから
1 川崎市市民ミュージアム
川崎市市民ミュージアムは、「都市と人間」を基本テーマに掲げ、1988年11月に開館した複合文化施設である。川崎市の成り立ちと歩みを考古、歴史、民俗などの豊富な資料で紹介する博物館と、市ゆかりの作品のみならず、都市に集まる人々の刺激から生み出されたポスター、写真、漫画、映画、ビデオなど、近現代の表現を中心に紹介する美術館の2つからなり、その両面から収集された多彩なコレクションと独自性のある企画を館の特色とした。とくに漫画・写真分野に関しては、日本の公立施設でもっとも早く収集・展示をスタートした美術館として発展してきた。
2 市民ミュージアムの収蔵品
収蔵品には、以下のとおり、市民ミュージアムにしかない貴重なものが多数含まれている。
① 文化勲章受章者の安田靫彦の「草薙の剣」(8千万円)、ロートレック等1890年代以降の欧州のポスター925点(4億9千万円)、企業のポスター600点余り(1260万円)
② 寄贈された「法隆寺観音像の下絵」や「大観先生」の試作等150点。江戸期の肉筆画帳や諷刺漫画家、清水崑等の原画、貴重な雑誌。藤原鎌足の筆など著名な書跡(国宝級)。膨大な数の昔の民具や生活道具等2度と収集できない民俗資料等
③ 寄託されている岡本太郎の母、岡本かの子の直筆原稿、父、一平の肉筆画等。写真界の芥川賞と言われる朝日新聞社主催の木村伊兵衛賞の受賞作品の写真全部(寄託)。ソビエト時代のドキュメンタリー映画(エイゼンシュタインの「メキシコ万歳」も)、日本映画美術監督協会の創立者の一人、黒澤明監督の美術を担当した久保一雄のスケッチ、映画セットの原画
3 指定管理者制度の導入
市民ミュージアムの入館者は、開館2年目の1989年には30万人を超えたが、2000年には8万人台と大幅に減少し、2004年2月には、包括外部監査から、「民間であれば倒産状態」と指摘されていた。
このような状況の下、2017年、「民間事業者としての柔軟な発想及び独創性、さらにはこれまで蓄積してきた研究成果を引き継ぎ、サービスの向上や魅力ある企画の実現など、事業の充実と新たな来館者の創出に向けて創意工夫するとともに、効率的な運営に努めること」などが期待されて、指定管理者制度が導入された。
指定管理者に選定されたアクティオ・東急コミュニティ共同事業体は、大規模な博物館等の運営経験がなく、本社の管理職は、収蔵品を見ることさえしなかった。アクティオの関心は、イベントと外部の企画による展示数及び集客数の増加にしかなく、収蔵品の活用、維持管理、水害等に対する減災には興味がなかった。
アクティオは、学芸員の給与を7割減額し、大半の学芸員が辞めていくままにしたばかりか、これに抗した副館長を雇止めにした(副館長は提訴し、勝利的和解解決を勝ち取った。辞職した学芸員の中には、他都市の博物館の館長や大学教授に就任した者もいた。
4 かわさき市民オンブズマンの問題意識
かわさき市民オンブズマンは、専門職である学芸員不在の状況を作出する指定管理者制度に問題があると考え、果たして指定管理者に適正な収蔵品の管理ができているのかどうかを検証すべく、情報公開請求によって収蔵品及び保管場所のリスト等の公開を求めた。
上記元副館長の協力を得て、収蔵品リスト等を検討していったところ、様々な不備が発見され、それらについて、再度川崎市に対して質問状を出してやり取りしていたところ、次の水没事故が発生した。
5 収蔵品の水没事故
市民ミュージアムが設置されていたのは、多摩川の旧河道で、川崎市が策定した2018年版ハザードマップでは、想定浸水深5~10mとされていた。そのような浸水が予想されるエリアにあって、収蔵庫は、何ら防水対策を施されることなく、地下に設置されていた。
2019年10月12日、1958年の狩野川台風に匹敵すると予報されていた台風19号により、市民ミュージアムの地下1階に推定16,000㎥の水が流入し、収蔵室の床上1.95m~2.55mが浸水した。
このため、収蔵品約26万点のうち、22.9万点が水没するという壊滅的な被害を蒙った。川崎市によれば、被害額は、収蔵品42億円、設備30億円と推計されているが、発表時に被害の全容が把握されていたわけではない。
凄まじい被害を目の当たりにし、1997年のかわさき市民オンブズマン設立以来代表幹事を務めてきた故篠原義仁弁護士が中心となって、事故の責任を問う裁判を提起した。
6 損害賠償請求住民訴訟
住民訴訟では、川崎市および関係職員等には、そもそも収蔵品の地下収蔵をすべきでなかったこと、地下収蔵をするなら浸水対策をすべきであったこと、台風が近づくときには収蔵品の避難移動をすべきであったこと、降雨時には土のうの設置等の応急措置をすべきであったのにしなかったことの管理上の過失があるとして、川崎市に対し、管理に対して責任を持つ、①市長②担当局長③担当課長④指定管理者の4者に対して損害賠償請求を行うべきとの請求をした。
台風の襲来に際し、地域住民は、玄関の前に土のうを積む、1階の貴重品を2階に上げる、地下駐車場の車を移動させるなどの被害予防措置をとった。ところが市民ミュージアムでは、関係職員等が収蔵品の保全について検討した形跡は全くない。市も指定管理者も、入館者の増加ばかりを追い求め、市民の重要な文化財の保管を託されているという本来の重要な任務を疎かにしていた。経験のある学芸員には、自分たちが集め、展示している収蔵品に対する「愛」がある。指定管理者には、それがない。
川崎市市民ミュージアムには、学芸員、総務、事務職等、常勤職員が約31名おり、設備として超大型エレベーターが2台、超大型台車4台、中型台車6台常備されている。従って、職員を早期から現場配置し、エレベーター等の機材を利用して、収蔵品を地下から上層階へ移動することが可能であった。セーヌ川沿いにあるルーブル美術館やオルセー美術館では、洪水の危険がある場合、事前に収蔵品を上階や他の場所に避難させている。
裁判所は、現地進行協議を行なうなど、原告の主張を丁寧に聞いたものの、2024年2月28日の判決では、洪水のハザードマップはあるが当時は内水氾濫のハザードマップがまだなかったとして予見可能性を否定した。
しかし、当該市民ミュージアムが低湿地にあり、水害の危険が予想されたのは、内水でも外水でも同じである。裁判所は水害の危険を内水氾濫の予見可能性という意味に狭く捉え、行政の責任を不当に狭くしている。
2024年3月18日、かわさき市民オンブズマンは控訴を行なった。
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|<77期弁護士の募集を開始しました>
2023年11月16日 木曜日
77期の弁護士採用のため、学習会・説明会を開催します。
たくさんの方のご応募をお待ちしております。
募集要項・応募方法はこちら⇒<採用情報>
採用の決定は、随時行う為、決まり次第応募を締め切りますので、ご了承下さい。
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|神奈川県弁護士会川崎支部のホームページに掲載されました(弁護士 畑福生)
2023年7月24日 月曜日
畑福生弁護士については、こちらをご覧下さい。
神奈川県弁護士会川崎支部のホームページに、畑福生弁護士の弁護士コラム「ボードゲームで法律問題を学びましょう!」が掲載されました。
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|労働判例(2023年7月1日号)に掲載されました(弁護士 藤田温久)
2023年6月28日 水曜日
藤田温久弁護士については、こちらから。
労働判例(2023年7月1日号) の遊筆(労働問題に寄せて)に、藤田温久弁護士の「メンタル疾患充満の元凶方」が掲載されました。
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|季刊「人間と教育」118号(2023夏号)に掲載されました(弁護士 畑 福生)
2023年6月12日 月曜日
畑弁護士については、こちらをご覧下さい。
民主教育研究所発行 季刊「人間と教育」118号(2023夏号)に、畑福生弁護士の「法案に盛り込まれなかった子どもコミッショナー/オンブズパーソン制度とは」が掲載されました。
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