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保育の「質」及び保育労働者の就労環境の向上をめざして―川崎市保育問題交流会の調査から(弁護士 川岸卓哉)
2023年1月20日 金曜日
弁護士 川岸卓哉(川崎市保育問題交流会代表)
川崎市保育問題交流会は、保育関係の経営者・労働組合・研究者・法律家などが集まり、「保育の質」の向上をテーマに活動してきました。2019年は、関東学院大学中西新太郎教授と共同で、川崎市内の全認可保育所を対象としたアンケート調査を実施しました。調査結果からは、特に、株式会社立保育職員の場合、20代、30代の回答者が多く、年収250万円未満の数が半数(51.1%、法人立職員では35.4%)、75%が300万円未満の結果となり、株式会社立保育所の若年層職員が深刻な低賃金状態にあり,「この給料では、子どもも育てられません。安心して結婚もできません」と賃金の低さに対する不満,不安が訴えられていました。そこで、川崎市に対して、認可保育園の収支計算分析表の情報開示請求を行い、社会福祉法人立保育所(75園)、株式会社立保育所(67園)計142園のそれぞれの人件費率を算出しました。
調査結果からは、株式会社立保育所の人件費率は法人立保育所とくらべ低いことが明らかとなりました。株式会社立では人件費率60%台が34園と半数を占め最大のヴォリュウムゾーンとなっているのに対し、法人立では70%台の32園(42.6%)が最大となりました。のみならず、株式会社立19園(28.3%)が人件費率50%台以下となっています。株式会社立保育所の人件費率の低さは低い処遇実態を反映していると考えられます。
人件費率にこのようなバラツキが生まれたのは、保育分野への株式会社の参入にともない「委託費の弾力運用」を国が認めたことによります。この結果、たとえ委託費の設定時点で処遇改善を行ったとしても、それが実際の処遇向上につながる保障はありません。個々の保育所の弾力運用によって、想定される処遇改善を削ることが可能になっています。したがって、行政として、株式会社立保育職員の適正な処遇を実現するよう、一定の人件費比率以下の園には指導をする等が望まれます。川崎市保育問題交流会では、この間の調査結果を踏まえて、国及び川崎市に対して、保育所職員の処遇の改善のため、
① 国基準の保育士の賃金水準を引き上げ、川崎市公契約条例の対象に認可保育園の業務委託に加えるなどによって、すべての保育所職員の賃金を最低生活費を担保するため最低限時間給1500円以上にすること
② 保育所職員の賃金を全ての年齢層で全産業平均賃金以上の賃金水準とすること
等を要求しています。保育分野では、待機児童が社会問題化した後、現在は保育士の低処遇の問題を顕在化し、国としても改善する方向に進んでいますが、根本解決にはほど遠いものです。大人のための「保育の量」追及の結果「保育の質」が蔑ろにされる政策によって、最も犠牲になるのは「子どもの権利」です。「子どもの権利」を中心に、保育士、保護者が連携した運動を引き続き追及していきます。
(自治体問題研究所「住民と自治」2022年7月号に寄稿した内容です)
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