ケーススタディー

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「業務委託契約」と言われても,実質的に「労働者」であれば,労働法による保護を受けられます。(弁護士 山口毅大)

2017年3月23日 木曜日

 1 相談に至る経緯

 相談者は,約1年半もの間,勤務していた勤め先から,突然,解雇され,求職者給付等を受けようと思って,ハローワークに行きました。

 ところが,そこで,雇用保険に加入していないことが発覚しました。

 そこで,勤め先に連絡したところ,勤め先から,「あなたと結んだ契約は『労働契約』ではなく,『業務委託契約』だから雇用保険に加入する義務はない」と言われてしまいました。

 また,相談者がこれまでの未払い賃金を請求すると,勤め先から逆に,経費を不正請求した等と身に覚えのないことで損害賠償すると脅されました。

 相談者は,労働局に相談しながら,勤め先と交渉してきましたが,勤め先は,相談者に対し,「業務委託契約」であると頑なに主張し,話し合いになりませんでした。

 そこで,相談者は,弁護士に相談しました。

 

2 本件の主な争点

 「労働契約」であるか「業務委託契約」であるかは,労働基準法,労働契約法,雇用契約法の「労働者」にあたるかどうかで決まります。

 

3 相談後の経緯

 相談者のお話を伺うと,勤め先の具体的な作業指示を受けて,仕事を行っていたこと,勤め先からいつどこで働くかを決められていたこと,労務の対価として報酬が支払われていること等から,「労働者」と認められる可能性が高いことがわかりました。

 まず,相手方に内容証明郵便を送って,未払い賃金等の支払いと雇用保険の加入手続を行うことを請求しましたが,相手方に弁護士が就き,これを拒否しました。

 そこで,法的措置をとることになりました。訴訟という手段もありましたが,相談者が早期に解決したいとの希望がありましたので,労働審判手続を選択しました。訴訟ですと,訴え提起してから第一審判決が出るまで,1年~2年程度かかります。他方,労働審判手続では,申し立ててから原則3回の期日で,審判を出しますし,その間,和解も試みられますので,1~4か月程度で解決することが多いです。もっとも,訴訟であれば,厳格で緻密な証拠調べがなされますが,労働審判だと限られた期日しかなく,第1回目の期日で裁判所の心証(請求が認められるかどうかの判断)が形成されるので,複雑な事案等では,希望通りにならないこともあります。

 「労働者」であることを立証するために,勤め先からの業務指示や場所や時間の指示のメール,報酬の支払い実態のわかる通帳,相談者が作成していた勤務表,そして,実際の就労実態がわかる陳述書等を証拠として提出しました。特に,陳述書の作成にあたっては,現場の写真等もご相談者にご持参頂き,時間をかけて,しっかりと就労実態を聴き取りました。

 その結果,第1回の期日で,裁判所は,ご相談者が労働基準法,労働契約法,雇用契約法の「労働者」にあたり,「業務委託契約」ではなく「労働契約」が成立したとの心証を持ち,それを前提として,勤め先がご相談者に解決金を支払う内容の調停が成立しました。

 

4 さいごに

 実質的には,労働基準法,労働契約法,雇用保険法上の「労働者」であるのにもかかわらず,形式上「業務委託契約」や「業務請負契約」として,労働法規の適用を免れようとする使用者は多いです。

 労働法規の適用があると,会社は,労働者を簡単に解雇できませんし,残業があれば割増賃金を支払う義務等,労働者を保護するルールが適用されます。

 会社や使用者からの仕事を断れなかったり,指揮命令があったり,時間的,場所的拘束性があったりして,実質的「労働者」にあたると思われた方は,諦めずに,ご相談ください。

投稿者 川崎合同法律事務所

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