ケーススタディー
ある派遣労働者の労災事件(弁護士 三嶋 健)
2018年3月25日 日曜日
1 事件の概要
この事件は、派遣労働者の被災事件でした。
事故があったのは、2001(平成22)年12月16日の午前です。依頼者は、山中で急な斜面を、重量物を天秤棒にぶら下げて二人で運んでいたときに、足を滑らせて被災しました。足を滑らせたのは、依頼者は上背があるにもかかわらず、会社が背の低い人と組ませた結果、天秤棒が傾き、吊った重量物が安定しなかったためです。
2 派遣労働者の置かれた立場
会社は、依頼者を派遣労働者として見下したのか、作業服も靴も支給せず、被災後も、苦しむ依頼者を医師に診せませんでした。労災なので、十分に補償すべきなのですが、対応は冷淡でした。依頼者の正当な補償請求に、言いがかりをつけられたかのような対応をしました。
依頼者は、そのような会社の対応に非常に傷ついていました。
3 必勝の体制で法廷に臨む
依頼者の相談を受けたのは、当時新人だった川岸卓哉弁護士でした。同弁護士は、これはぜひ救済しなければばらないと決意し、必勝を期すために、私を誘い、複数体制で裁判に臨みました。
4 裁判所の対応と逆転
私達は、裁判官が、「不当請求だ」と自信満々の会社の態度に幻惑されたのか、原告に対する対応が冷たいように思いました。
私達は、当事者の生の声を直接裁判官に届けて、事件の本質を理解してもらおうと考え、尋問に勝負をかけました。私達は、依頼者と用意周到に打ち合わせをして、詳細に事実を聞き取り、会社側の主張の矛盾点を探りました。依頼者にとっては、事実に迫るためとはいえ、私達から厳しく質問されるので、過酷な打ち合わせだったと思います。しかし不平もいわず協力してくれました。
尋問当日、依頼者は、主尋問に対し事実を生々しく語り、詳細に事件を再現してみせました。他方で、私たちは、落ち度はないと開き直る会社側の証人を厳しく問い質して真実に迫りました。依頼者は悔しい思いをしていたためが、私たちの尋問に満足し、尋問終了後握手を求めてきました。
裁判所も、尋問をきっかけとして、理解を示して下さり、最終的に依頼者勝訴の判決を下しました。
5 私たちの決意
ただ、意外だったのは、判決は、依頼者にも落ち度があったとして、賠償額を減らしたことです。天秤棒を担いで、危ないと思った時点で、その作業を止めなかった点に過失があるとしました。
派遣労働者は、会社から睨まれれば、いつもで排除されます。「危ない」と思っても、会社の指示に逆らえる訳がありません。
裁判所は、起きた事態は理解をしましたが、派遣労働者の弱い立場への理解は不十分でした。
私たちは、裁判終了後、今後も、裁判と社会運動を通じて、派遣労働者の実態を訴えその権利を守りたいと、新たに決意を固めなおした次第です。
以上
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