ケーススタディー
遺言作成は元気なうちに~遺言作成のすすめ~
2024年11月21日 木曜日
あなたが亡くなったら、あなたの周りにどのような変化がおこるでしょうか。法律的には相続がおきます。
弁護士の仕事の中で、遺産分割協議というは、比較的多い類型ですが、近年、家庭裁判所に出される遺産分割事件の件数は増えています。いわゆる「争続(あらそうぞく)」が増えているということで残念な事実です。
相続争いをさけるもっともポピュラーな方法は遺言です。もっとも、日本財団の調査では、60歳~79歳で遺言書をすでに作成している人は3.4%しかいません。約8割の人が加入している生命保険に比べればずっと低いです。残念ですね。
あなたには大切な家族はいますか。配偶者はいますか。子供はいますか。兄弟姉妹はいますか。それとも他に大切なものがありますか。遺言の有無によって、これらの人が助かったり、不幸になったりしますので、是非、遺言作成を検討してみてください。
遺言作成が特に必要な人がいますのでご紹介します。
①結婚しているけど子供がいないひと
②事業を経営しているひと
③不動産の資産が多いひと
④残念ながら相続人間の仲が悪いひと
⑤相続人間で遺産の配分に強弱をつけたいひと
⑥相続人以外に財産を残したいと思っているひと
⑦法定相続人がいないひと
理由としては、
①は子供がいないと法定相続人が配偶者と兄弟姉妹になり、遺産を分けることになるが、全ての遺産を配偶者に渡したいと考える人が多いため
②は事業を承継させるひとを決めておいた方がいいため
③は、不動産を分けるには工夫が必要なため
④は、予め、具体的に遺産の配分を決めてあげた方がいいため
⑤~⑦は、あなたの意思を尊重するためです。
遺言の方法は、公正証書遺言が圧倒的にオススメです。自筆証書遺言とは違い、法的に無効になるリスクが少なく、盗難、紛失、隠匿や改ざんのリスクがなく、相続発生後に家庭裁判所の検認が不要で、遺言の執行までに時間が早く、遺産がもらえない親族等と関わる必要性がぐっと減るからです。
「付言事項」というものを書くのもおすすめです。遺言書には、相続人に対するメッセージとして法的拘束力を持たない「付言事項」を書き添えることができます。これを利用し、相続人にあなたの思いを伝えてみてはいかがでしょうか。残された人へのラブレターのようなものです。
また、遺言作成は元気なうちにお早めが鉄則です。高齢や病気になると意思表示が怪しくなったり、字が書けない、読めない、話せない、必要書類が揃えられないなど、いろいろな問題が起きてきます。遺言作成が難しくなったり、費用がかかったり、時には不可能になったりします。
遺言書は、15歳以上であればいつでも作成でき、古すぎるために遺言書が無効になることはありません。またいつでも内容を変えられます。遺言が無くて困ることは多いですが、作成が早すぎるということはないので、是非、お早めの作成をオススメします。
遺言書作成についてわからないことや、手伝って欲しいことがある場合、是非、われわれ弁護士にご相談ください。あなたの思いを教えてください。
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|よりより遺言書を作るために~「遺言執行者」をご存知ですか?~
2024年11月21日 木曜日
■昨今の「終活」ブームの中、よりよい最期を迎えるために、残された家族のために、遺言書を準備しようと考えている方が多くいらっしゃると思います。弊所にも多数の方から遺言書作成のご相談が寄せられています。その際、「遺言執行者」を定めておくことをお薦めする場合があります。この「遺言執行者」、どういう役割を持つ人か、みなさんご存知ですか?
■「遺言執行者」とは?
「遺言執行者」とは、遺言の内容を実現することを職務とする者のことです。具体的には、遺言の内容にしたがって、相続財産を管理したり、預金を払い戻して分配したり、不動産を売却したり、証券の名義を書き換えたり、相続人や受遺者へ遺産を引き渡したりといったことを行います。
「遺言執行者」は、遺言によって予め決めておくことができるほか、遺言に定めがない場合や、遺言で定められた遺言執行者が死亡したり、辞退した場合など不在になってしまった場合に相続が発生した後に利害関係人の申立てによって家庭裁判所で選任してもらうことができます。
■手続を円滑に進めるために
遺言に、認知が定められていたり、推定相続人の廃除(被相続人が相続人の権利をはく奪する手続き)や取消しが定められていたり、一般社団法人の設立が定められている場合には、「遺言執行者」が必須になります。
上記のように「遺言執行者」が必須な場合以外でも、ご自身が亡くなった後、その遺志を確実に実行し、手続がスムーズに進むように、遺言書を作る際に「遺言執行者」を定めておくようお薦めするケースは多いです。
例えば、亡くなった後に不動産を売却して、お金に換えてから相続人に分配して欲しい場合、遺言執行者を定めておかないと、不動産の売却などを相続人全員で行う必要があるので、非協力的な相続人が出てくると支障をきたしてしまいます。「遺言執行者」を定めておけば、「遺言執行者」は単独で遺言を執行できるため、相続人の非協力的を気にする必要がないのです。上記のとおり、相続発生後に家庭裁判所に申立てをして「遺言執行者」を選任してもらうこともできますが、遺言で予め「遺言執行者」を定めておいた方がより簡便でスムーズです。
そして、「遺言執行者」には、相続人の一人や受遺者を指定することもできます。「遺言執行者」になれないのは、未成年者と破産者だけです。
■「遺言執行者」に弁護士を定めておくのをお薦めします
「遺言執行者」は相続が開始されたら、
☑戸籍謄本などを取り寄せて、相続人の調査をして相続人を速やかに確定する
☑全ての相続人に遺言執行者に就任した旨の通知をする
☑遺産を調査して、正確な財産目録を作成して、全ての相続人に交付する
☑遺産を適切に管理する
☑預金の解約や証券等の売却、名義変更などの手続をして、相続人や受遺者に相続財産を引き渡す
☑遺言執行が終了した場合、相続人や受遺者に遅滞なく経過や結果を報告する
といった業務を行うことになります。
また、「遺言執行者」は、遺言執行業務について善管注意義務を負っており、職務を行うにつき過誤があった場合、相続人から善管注意義務違反として損害賠償請求を受けることがあり得ます。
相続人の1人を「遺言執行者」に定めることができますが、このような職責を負うことから、相続財産が多項目にわたったり、高額であったり、不動産があったりと、遺言執行が簡単に進まなさそうなケースには、専門家である弁護士を「遺言執行者」に定めるようお薦めしています。
また、高齢の配偶者に遺産を残したいが、配偶者自身で相続の手続を行うことが困難であると考えられる場合や、遺産が県外など遠隔地に分散している等手続自体が煩雑になる場合にも、専門家である弁護士を「遺言執行者」に定めるのがお薦めです。
■さいごに
家族が亡くなった後は、悲しみの中、葬儀や納骨といった故人を弔う儀式のほか、年金の受給停止や公的保険の資格喪失届の提出等の公的手続きを行うなど、たくさんの手続きをすることになります。
さらに相続手続を行うことはご家族・親族に大きな負担となりえます。残されたご家族のために、「遺言執行者」として、専門家である弁護士を定めておくことをお薦めします。
遺言書を作成したい、遺言執行者について詳しく知りたいという方は、是非、ご相談にいらしてください!
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|孤立出産による乳児死体遺棄・殺人事件で執行猶予判決を獲得!(弁護士 長谷川 拓也)
2024年9月30日 月曜日
1 はじめに
昨今、全国各地で乳児死体遺棄事件は後を絶たず、弊所弁護士においても、乳児死体遺棄事件の弁護人を務めた経験が複数あります。
とくに2022年、神奈川県では、乳児死体遺棄事件が4件も発生しました(うち、1件は、弊所長谷川弁護士が担当、もう1件は、弊所川岸弁護士及び長谷川弁護士が担当しました。)。
今回は、2022年、神奈川県で発生した乳児死体遺棄・殺人事件において、異例の執行猶予判決を獲得し、各種報道でも取り上げていただきましたので、そのご報告をさせていただきます。少しでも、この記事が孤立出産に関係する事件で悩んでいらっしゃる方の助けになることを望んでいます。
2 事件内容等
事件は、2022年4月、神奈川県川崎市にあるマンションで発生しました。マンションのごみ捨て場に出生したばかりの乳児が遺棄してあることが発覚、その後、乳児を出産したという成人したばかりの若い女性(以下「Aさん」と言います。)が死体遺棄の被疑事実で逮捕となりました。
Aさんは、一人で自宅の浴槽で乳児を水中出産したものの、出産後、気を失ってしまったことから、Aさんが意識を取り戻したとき、乳児は、出生後、水中に沈んだ状態のままになっており、すでに亡くなっていたのです。
しかしながら、捜査機関は、もともと、Aさんが乳児を殺害するつもりで、実際に乳児を水中に沈めて殺害したとして、殺人の被疑事実で逮捕しました。そして、その後、Aさんに対し、乳児に対する死体遺棄と殺人の被疑事実で起訴、市民の皆様も裁判員として参加する、裁判員裁判になりました。
3 孤立出産の問題
さて、この事件は、どうして起きてしまったのでしょうか。もっと言えば、どうして、Aさんは、たった一人、自宅で出産することとなったのでしょうか。
妊娠した女性が病院等における検診を受けず、未受診のまま、したがって、医療機関が介入しないまま、一人出産することを「孤立出産」と呼んでいます。まさに、今回のケースも、この孤立出産にあたるものと言えますが、この孤立出産の背景には、次のようなものがあります。
つまり、妊娠した女性が幼少期に家族から虐待を受けたことがあるなどして、家族、とくに妊娠や出産について、先輩であり、一番の模範となるべきである母親との関係が良くないこと、女性に発達、知的な障害があることなどです。
こうした特徴を抱えた女性においては、妊娠や出産に直面した際、周囲の人に対して、そのことを相談することができず、一人で抱えこんでしまい、かといって、自身で解決することもできずに、現実逃避してしまう結果、行き辺りばったりの出産を迎えてしまうことが多く、孤立出産に繋がるという訳です。
そして、残念なことに、結果的に、こうした孤立出産が乳児死体遺棄や殺人事件に繋がってしまうことも少なくありません。
一般的には、「周りへの相談くらい、普通はできるでしょう。」という感覚があり、こうした女性に対する理解は難しいと思いますが、乳児死体遺棄事件で逮捕勾留となった女性と対面した際、実際に、こうした特徴を持っている女性は多いのです。
4 Aさんの抱えていた問題
こうした孤立出産に繋がってしまう女性の特徴については、今回のケースのAさんにもよく当てはまるものでした。
Aさんは、幼少期から、シングルマザーの母親の元で育ちましたが、母親は、昼夜、働いており、Aさんの面倒を見ることはできず、Aさんの面倒は、母親の友達が交代で見ている状態でした。もっとも、面倒を見ているとは言っても、Aさんに対する教育などは一切なく、Aさんは、日本語の勉強などは、テレビを見て、自然に覚えるという状態でした。そのうえ、母親は、Aさんの出生届について、Aさんが小学5年生になるまで出せておらず、結果、Aさんは、そのころまで、法律上はしない子でした。当然、Aさんは、幼稚園(保育園)には通えておらず、小学校についても、小学5年生から通いはじめるという、極めて特殊な生い立ちでした。
まして、Aさんの母親は、シングルマザーの重責から、精神的に不安定な時期があり、Aさんに対し、ひどい言葉を浴びせることも多く、ときには、叩いたりすることもありました。また、母親は、外国籍であり、日本語の理解が乏しかったことから、Aさんとのコミュニケーションも少なく、ほとんどネグレクトの状態でもありました。
こうした生い立ちのAさんにおいては、知的な課題もありました。裁判前、Aさんの知能指数を診断したところ、Aさんは、ほとんど軽度知的障害にあたる境界知能の状態であったことが分かったのです。
この境界知能というのは、数値上、軽度知的障害ではないものの、知能指数的には、その状態に近いというものであり、臨床的には、軽度知的障害として処理することもあるものです。境界知能は、軽度知的障害とは異なり、見た目には、あまり分からず、周囲からは、「内向的」などと、性格の問題として、問題を理解してもらえないことも多く、社会生活において、孤立出産のように、大きな事態になってからはじめて明らかになることも少なくありません。
Aさんにおいては、こうした生い立ちや境界知能の特性として、妊娠出産を母親含め、周囲の人に相談することができず、乳児の父親(以下「お父さん」)などに気付いて、何とかして欲しいという受け身の状態でいることが精一杯な状態でした。しかしながら、実際には、Aさんは、誰からも、妊娠の事実に気付いてもらうことができず、結果、行き辺りばったりで、自宅にて孤立出産をしてしまい、結果として、乳児が亡くなってしまったのです。
5 裁判の焦点
さて、今回のケースでは、Aさんが乳児を水中出産したこと、亡くなった乳児を遺棄したことに争いはなく、裁判では、Aさんが乳児に対し、殺意をもって水中に沈めたのかどうかという点に争いがありました。
裁判では、この焦点を判断するべく、弁護側からは、赤ちゃんポストや裁判への専門家証人としての出廷などのご活動により、孤立出産の問題に精力的に取り組んでいらっしゃる、熊本県の慈恵病院の蓮田健医師や同県の人吉こころのクリニックの興野康也医師に出廷、証言をいただき、医学的な観点から、Aさんの行動を裏付けていただきました。
また、今回のケースでは、Aさんの抱えている問題に即して、今後、孤立出産など、悩みを一人で抱え込まず、同じようなことが起きないようにすべく、罪を犯してしまった方への更生支援などを行っている、社会福祉法人UCHIの川瀬悦副理事長にもお越しいただき、Aさんに対する社会復帰後の更生計画を示していただきました。
更には、Aさんの母親や、当時Aさんの交際相手(乳児のお父さん)にも出廷、証言いただき、、Aさんの生い立ちや、今後は、上記更生支援計画に沿ってAさんの更生を支えていくことなどをお話いただきました。
裁判では、裁判員の方々や傍聴の方々などがすすり泣く姿もあり、まさに、孤立出産の問題について、少しでも、ご理解いただけたものと思っています。
6 裁判の結果
こうしたご家族、専門家のご協力の下、2024年7月18日、Aさんに対する判決がありました。
結果としては、冒頭のとおり、執行猶予判決であり、死体遺棄、殺人の事件では、異例のことであったため、各種ニュースや新聞でも、大きく取り上げていただきました。
残念ながら、判決では、死体遺棄だけではなく、殺人の点についても認めるものでしたが、一方で、殺人を認めたうえで、執行猶予判決という異例の判断になったのは、まさに、孤立出産の問題をきちんと理解していただいたことによるものです。その点では、全国各地、社会で起きている乳児死体遺棄事件に対し、今後、大きな影響を及ぼす重要な判断であったと確信しています。
7 社会を変えていくためには
本件で、Aさんが孤立出産に追い込まれた背景には、日本で出生した外国籍の子どもやシングルマザーの問題、境界知能に対する社会的認知や支援の問題、そして孤立出産に追い込まれる女性の問題など、多くの重要な社会問題が重なった結果、不幸な事件が起きてしまいました。逆に言えば、このような問題が社会に十分に認知され、これに対する社会的支援が広がっていれば、本件のような最悪の結果は、どこかで回避することができたといえます。
そのような想いで、本件をただの事件として終わらせず、社会に伝えたいと、熱心に取材・報道してくれた記者の方々もいて、私たち弁護団もその想いに応えるべく、弁護活動を尽くしてきました。
刑事事件で被告人とされた個人を罰するだけでは、事件の再発を防ぐ社会を作るには不十分です。事件を事件で終わらせず、背景・原因を理解し、多くの方と協力して事件のを再発を防ぐ社会をいかに作っていくかが問われています。
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|追突事故の後遺障害につき、後遺障害等級12級該当として解決した事例(弁護士 小林展大)
2023年10月3日 火曜日
小林展大弁護士については、下記をご覧下さい。
1 受任に至る経緯
依頼者は、自動車を運転して一時停止している時に、後方から追突される交通事故(以下「本件事故」といいます。)に遭いました。依頼者は、すぐに病院に行って診察、治療を受け、その後も継続して通院し、治療を受けていました。そのような経過の中、依頼者から相談を受け、受任することとなりました。
2 受任後から後遺障害等級の認定の申請までの動き
依頼者に交通事故証明を取得してもらうと、人身事故になっていましたので、警察署及び検察庁に問い合わせをして、刑事記録の一部を謄写しました。また、依頼者の傷害は、いわゆるむち打ち症でしたので、被害者請求により後遺障害等級の認定の申請を行うこととし、後遺障害診断書等の必要書類を取得しました。
必要書類の準備ができたところで、後遺障害等級の認定の申請をしました。
3 異議申し立て
しかし、結果は後遺障害等級非該当でした。
そこで、依頼者と協議し、この結果に対して、異議申し立てをすることとしました。依頼者には通院していた医療機関からカルテ開示をしてもらい、協力してもらえる医師(以下「協力医」といいます。)を探しました。
そして、協力医が見つかり、後遺障害診断書、意見書等の書類を作成してもらいました。このような追加資料を準備した上で、異議申し立てを行いました。
その結果、依頼者は後遺障害等級14級に認定されました。
4 さらなる異議申し立て
しかしながら、従前から依頼者のカルテ一式等の資料を検討していると、依頼者については後遺障害等級12級に該当する可能性があるのではないかと考えられました。
そこで、さらに追加の医証を準備した上で、さらに異議申し立てをしました。
しかし、その結果は、前回の異議申し立てにより認定された後遺障害等級14級のままでした。
5 訴訟提起
ここで、2回の異議申し立ての結果に記載された理由、依頼者に取得していただいた診療記録一式、謄写した刑事記録、協力医から今後得られそうな協力等を踏まえて、依頼者とその後の方針について協議しました。
訴訟であれば、被害者請求により認定された後遺障害等級に拘束されるわけではないものの、一般的にむち打ち症で後遺障害等級12級に認定されることは少ないこと等も踏まえて、依頼者と協議した結果、訴訟提起することとしました。
訴訟では、後遺障害等級については、証拠として提出した診療記録一式、CT・MRI等の画像資料、医師意見書、後遺障害診断書等をもとに立証していきました。加えて、医療過誤事件と同様に医学文献の収集につとめ、医学文献も証拠として提出していきました。
また、損害については、逸失利益につき、いくつか対応が必要な問題点があったことから、その都度、依頼者に証拠資料の有無を確認し、援用できそうな証拠資料の準備をお願いして、立証につとめました。
そして、裁判所の考えが開示され、後遺障害等級については12級該当を認めてもらうことができました。その後は、裁判所の考えをもとに、少し交渉をした上で、解決に至ることができました。
6 最後に
本件は、むち打ち症につき、当初は後遺障害等級非該当との判断がされたものの、異議申し立てにより後遺障害等級14級該当が認められ、訴訟では後遺障害等級12級該当が認められて解決に至ったものです。
診療記録に、依頼者の主張を裏付ける記載があっただけでなく、協力医の適切なサポートがあったこと、依頼者が迅速に証拠資料の収集、確保につとめたことも良い結果につながった要因ではないかと考えられます。
以上
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|性暴力が性暴力と認められた─Aさんの5年間のたたかい─(弁護士 川口彩子)
2022年8月31日 水曜日
2014年6月、Aさんは多摩区の有限会社ローカストに事務員として入社しました。ローカストは映画やCMの操演や特殊撮影などを行う会社です。入社してすぐの 8 月後半、Aさんは会社の飲み会で会社役員でもある社長の息子から強い酒をたくさん飲まされて意識を失い、そのまま社長の息子から性暴力を受けました。内容が内容だったため、Aさんは誰にも相談することができず、当時は警察に行くということも思い至りませんでした。2015年になると社長の息子はAさんを「夜の世話もしてくれる忠実な部下」として周りに見せびらかすかのように、Aさんを深夜までスナックに付き合わせ、そのまま自宅に連れて帰り、自分本位な性暴力を繰り返しました。もともと身体の弱かったAさんは、連日に及ぶ深夜までの飲酒と寝不足、不衛生な性行為で体調を崩し、意識が朦朧としたまま襲われる日々でした。避妊なしの性行為により、3 度の流産も経験しました。そして、2017 年 2 月、Aさんは社長の息子から深夜に無理矢理呼び出された際、「持病を持ってない人でも、毎晩連れ回されてたら病気になりますよ」と初めて口ごたえをしました。すると社長の息子はその晩Aさんに対し、Aさんの首が絞まるように暴行を加え、「とりあえず辞表書こっか」「誰にも分からないように荷物なくしてくれよ。そんで誰にも分からないように死んでくれる?」などと言って、解雇を通告したのです。社長の息子はAさんに「ほかにセックスできる女ができたから」とも言いました。
2017年10月、Aさんは解雇無効と未払賃金の支払い、会社と社長の息子に対し慰謝料を請求する裁判を起こし、2021 年6月、横浜地裁川崎支部の判決が出されました。しかし、この判決は、Aさんと社長の息子は交際していたのだから性行為についても同意があったと認定し、社長の息子と会社を免罪したのです。Aさんはすぐさま控訴
し、2022年2月、画期的な東京高裁判決が言い渡されました。
東京高裁は、Aさんが立場上社長の息子に反抗できない心理状態にあったことを正面から認め、Aさんは受け入れていたわけではなく、性暴力を受け続けてきたのだということをきちんと認めてくれました。そして、解雇も無効であると判断し、Aさんに、慰謝料と未払賃金を支払うよう命じたのです。
性暴力の被害者は、その内容がセンシティブかつ深刻なものであるため、被害を訴えることは困難な状態にあります。これまでどれだけの性被害者が、自分にも落ち度があったのではないかと考え、泣き寝入りしてきたことでしょう。控訴審では、「上司と部下」「教師と生徒」といった地位・関係性を利用した性暴力の構造や、被害者のおかれている心理状態、そして、合意がなければそれは性暴力なのだということをあつく主張しました。それが今回の判決につながり、安堵しています。被告側は上告し、現在は最高裁の決定を待っているところです。
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|相談者にとって今本当に必要なことは何か(弁護士 藤田温久)
2021年8月6日 金曜日
Aさん(65歳)は夫Bさん(68歳)とお二人で戸建の建物にお住まいでした。戸建の土地、建物(以下「本件土地建物」)はいずれもBさんの名義でした。Bさんはご自宅で病気療養中のことで、Aさんがお一人でご相談にみえられました。
ご相談は、Aさんご夫婦のお隣にお住まいのBさんの弟Cさんと同人所有のお隣の土地との境界を巡る争いが続いており、Bさんのお元気なうちに境界問題を解決したいので、境界確定のためにはどうすれば良いのかというご相談でした。
私は、先ず、境界を確定するためには、当事者同士の話し合いがつかないのであれば、弁護士を代理人として交渉しそれでもだめな場合は境界確定訴訟(裁判をするということです)などの法的手続をとることで境界を画定することができること等をお話ししました。
しかし、私はBさんが病気療養中で相談にもみえられなかったことが気になり、病状について遠回しに伺ったところ、Aさんは「実は・・」とBさんが癌で余命2~3ヵ月と医師から言われていることを打ち明けて下さいました。私が心配していた以上の病状であったため、Bさんの家族関係をお聞きしたところ、ご両親は亡くなられており、お子さんはいらっしゃらず、Aさんの外はCさんのみが法定相続人(法律で決められている相続人)であること、相続財産は本件土地建物と若干の預金のみであることが分かりました。
そこで、私は、「気を悪くしないで聞いていただきたいのですが、もしご主人(Bさん)が亡くなられた場合、相続財産は貴女(Aさん)とCさんで相続することになってしまいます。しかし、「貴女に全部相続させる」旨の遺言を書いていただければ、ご兄弟には遺留分減殺請求権(遺言があっても、法定の割合を自分に渡すように要求することができる権利)もないので、貴女が単独で相続することができます。「どのように考えられますか。」と聞きました。すると、是非遺言を書いてもらいたいというご希望でした。私は、弟Cさんと境界争いをしている現状からすると、Bさんが亡くなられた後にCさんから「遺言はAさんがBさんに無理に書かせたものだ」「遺言は偽造された(勝手にAさんが書いた)ものだ」等といわれる可能性があるので公正証書遺言にした方がいいとお勧めしました。公正証書遺言は、公証人が作成するものであり、「偽造」「無理に書かせた」等というクレームを付けて遺言が無効だと争うことは非常に困難なものであることを説明させていただきました。もちろん、証人には当職と当事務所の事務局員1名を充てること、費用等についても説明させていただきました。その結果、AさんはBさんに公正証書遺言を書いてもらうことでその内容、手続を当職に依頼されることになりました。
当職は、一刻を争うと考え、その場で公証人に電話し、公証人がBさんの病室にゆくことのできる日程を確保し、遺言原案を作成し、公証人と打合せをした後、数日後無事公正証書遺言を作成することができました。その1ヵ月後、Bさんは様態が急変し亡くなられてしまいました。
私は、Aさんから依頼を受け、遺言執行(本件土地建物の相続登記や預金の名義変更等を行う)をAさんの代理人として行いました。更に、Aさんから依頼を受け、Bさんと交渉し境界を確定することにも成功しました。
Aさんには、「相談していなければどうなったか・・本当に有り難うございました」と大変感謝していただきました。
法律の専門家ではない方には、今本当に必要なことは何かが分からないことが往々にしてあります。私は、これまでの30数年の弁護士生活と同じく、常に相談者にとって「今本当に必要なことは何か」をこれからの真剣に考えていきたいと思っています。
以上
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|雇止め(更新拒絶)されても、働きつづけることができる場合もあります!(弁護士 山口毅大)
2018年8月31日 金曜日
1 相談に至る経緯
相談者は,20年以上,勤務していた職場で,飲食業務等に従事し,何十回も有期雇用契約を更新されてきた方でした。
次回の更新の段階になって,相談者は,会社から突然,次回の契約を更新しないと告げられました。
会社が挙げてきた理由は,いずれも事実無根であったり,問題が無いことばかりであったので,相談者は,会社に対し更新するように求めました。
すると,会社は,雇止めを撤回すると言ってきましたが,相談者に対し,代わりに,一定の不明確な条件で更新しない旨の不更新条項が記載されている書面にサインするように言いました。
そこで,相談者は,数名の弁護士に相談しました。ですが,受任を断られてしまい,労働問題を労働者側で行っている当職に相談を申し込みました。
2 本件の主な争点
本件の争点は,
① 雇用継続への合理的期待が生じているか,
② 雇止めに客観的合理的理由があるか,社会通念上相当であるかどうか
という点にありました。
3 相談後の経緯
相談者のお話を伺うと,20年以上,同じ就労場所で,同じ業務を行ってきたことから業務内容が臨時ではないこと,雇用期間が長いこと,更新回数が多いこと,一度雇止めを撤回したこと,雇用の目的からして必要以上に短い期間を定めていることから雇用継続への合理的期待が生じていると考えられました。
このように,雇用継続への合理的期待が生じている場合に,労働者が契約更新を求めていれば,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではなければ,雇止めできず,従前の契約内容で更新されます。
次に,会社が挙げた雇止めの理由について,いずれも,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではないことは明らかでした。
なお,確認書については,サインする義務もない上,抽象的な条件での不更新条項が入っていましたので,サインしないように助言しました。これにサインすると,後で,条件が成就したことにより不更新とすると言われかねないからです。
そこで,まずは,当職は,会社に対し,内容証明郵便を送付し,相談者に対する雇止めが労働契約法19条2号に反し,許されないことから雇止めの撤回,確認書のサインの強制をせずに,更新することを求めました。
その結果,会社は,雇止めを諦め,従前通りの条件で契約を更新しました。
4 さいごに
契約期間が満了したことをもって,契約終了と会社から言われると,その通りであると思ってしまう方も多いかと思います。ですが,今回のように,雇用継続への合理的期待が生じている場合で,雇止めが客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではない場合には,従前の契約内容で更新されます。また,実質的に無期契約と同視できる場合にも,雇止めが客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当ではない場合には,従前の契約内容で更新されます。
今回のように,交渉のみで,復職できるケースは,あまり多くはありません。ですが,更新しないことを通知された場合に,すぐに相談頂ければ,今回のように雇止めを撤回させることができる場合もあります。また,訴訟で争うことも可能です。
諦めずに,まずは,ご相談ください。
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|失踪宣告の取消が認められたケース(弁護士 小林展大)
2018年7月2日 月曜日
失踪宣告の取消が認められたケース
弁護士 小林 展大
1 相談に至る経緯
相談者は,就職に伴い,実家を出て自身の出身地を離れました。その後,相談者は,家族や親族等と連絡をとることがないまま,生活していました。その後,相談者が自分自身の戸籍を取得してみると,失踪宣告の審判が確定していて,相談者は,戸籍から除かれていることが判明しました。そこで,相談者は,行政サービス等を受給できるようにするため,戸籍の回復をすべく,弁護士に相談しました。
2 失踪宣告とは
不在者の生死が不明の状態が一定期間継続した場合は,利害関係人の請求により,家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます(民法30条)。これにより,失踪宣告を受けた者は,従来の住所を中心とした範囲では死亡したものとみなされます(民法31条)。
3 失踪宣告の取消とは
失踪宣告がされた場合でも,①失踪者が生存すること,もしくは,②失踪者が宣告によって死亡したとみなされる時と異なる時に死亡したこと,のいずれかの事実が証明されたときは,本人または利害関係人の請求により,家庭裁判所は失踪宣告を取り消さなければなりません(民法32条1項前段)。
失踪宣告が取り消された場合は,はじめから失踪宣告がなかったものとしてあつかわれ,その結果,失踪宣告を原因として生じた権利義務の変動も生じなかったことになります(一部例外はあります。)。
4 受任後の経過
相談者から,家族・親族関係,出身地を離れてからの生活状況,働いていた会社等を聞き取りました。そして,相談者の除籍謄本,相談者の写真等,相談者が失踪者であることを特定するための資料を集めて,家庭裁判所に失踪宣告取消の審判を申し立てました。
しかし,相談者は,身分証明書となりうるものを所持していなかったため,別の方法で,失踪者が生存することを証明しなければならなくなりました。
そこで,相談者の親族,相談者のかつての勤務先の関係者に協力をお願いすることとしました。その結果,相談者の親族からは協力を得ることはできませんでしたが,相談者のかつての勤務先の関係者から,相談者が会社に在籍していたときの資料を提供していただいた上,相談者が失踪者であるとの書面作成にも協力をいただくことができました。
さらに,家庭裁判所調査官による調査(事実関係及び家族・親族関係の聞き取り等)も行われました。
5 審判の結果
家庭裁判所から,相談者に対してなされた失踪宣告を取り消すとの審判がなされました。
これにより,相談者は,戸籍を回復することができました。
6 さいごに
本件は,失踪宣告が確定した失踪者が生存していたという珍しいケースです。しかし,失踪者が生存しているにもかかわらず,失踪宣告が取り消されないと,戸籍から除かれたままとなり,住民票が作成できない,各種行政サービスが受給できない等の不都合が生じますので,本件と似たような事態が生じている場合には,弁護士にご相談下さい。
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|グリーンディスプレイ青年過労事故死事件画期的勝利和解-通勤帰宅途上の過労事故死にも会社に安全配慮義務違反を認める(弁護士 川岸卓哉)
2018年6月5日 火曜日
1 過労運転を原因とする通勤災害に安全配慮義務違反を認める
2014年4月24日、株式会社グリーディスプレイで就労していた渡辺航太さん(死亡当時24歳)が、長時間不規則労働と22時間勤務の末に帰宅途中に単独バイク事故を起こし死亡したことは安全配慮義務違反であったとして、横浜地方裁判所川崎支部に損害賠償請求を提訴した事件で、本年2月8日、横浜地方裁判所川崎支部は、勤途上の過労運転事故を防ぐ安全配慮義務を認定したうえで、約7600万円の賠償、謝罪をし、、会社は再発防止策として、11時間の勤務間インターバルを就業規則に明記すること、男女別仮眠室の設置・深夜タクシーチケットの導入など模範となる内容を約束しました。
裁判所は、被害者が長時間労働、深夜早朝の不規則勤務による過重な業務によって、疲労が過度に蓄積し顕著な睡眠不足の状態に陥っていたことが原因で、居眠り状態に陥って、事故死するに至ったことと、会社が原付バイクによる出勤を指示・容認していたことを認定しました。その上で、裁判所は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務内容及び態様を定めてこれを指揮監督するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないよう注意する義務(安全配慮義務)を負うものと解するのが相当である」と判断しました。これまで、通勤帰宅途上の交通事故は、事業者の業務指揮命令外で労働者の自己責任の範囲とされ、事業者の安全配慮義務違反が問われることはほとんどありませんでした。労災認定上も、「通勤災害」は通勤経路であれば労災認定されますが、事故の背景にある過労実態について調査されることはなく、事業者も対策を怠ってきました。本件は、通勤の方法についても、事業者の安全配慮義務の範囲を明確に拡張した点で意義があります。今後、過労死、過労自殺に加えて、潜在する過労事故についても、過労死の一類型として対策が進むことが求められます。
2 「働き方改革」のなかで過労死対策を裁判所が宣言
本件は、裁判長が公開法廷で30分以上にわたり、和解勧告を読み上げるという異例の対応がされました。以下一部引用します。
「現在、あらためて「過労死」に関する社会の関心が高まっており、「過労死」の撲滅は、我が国において喫緊に解決すべき重要な課題であり、「過労死のない社会」は、企業の指揮命令に服する立場の従業員や、その家族、ひいては社会全体の悲願であるといえよう。これを達成するためには、「過労死」の防止の法的及び社会的責任を担うそれぞれの企業において、「働く人の立場・視点に立った『働き方改革』を推進して、長時間労働の削減と労働環境の誠意に努めることが求められていると思われ、そのような社会的機運の高まりがあると認められる」「本件の悲惨さと、大学卒業後に未来を絶たれた被害者の亡航太の無念さ、その遺族である原告らの悲痛な心情と極度の落胆と喪失感に思いを致すとき、社会的な意義をも有する民事訴訟を担当することのある裁判所においても、無視することは許されないと思われるのであり、当裁判所は、本件事故に係る本件訴訟の解決の在りようについて、真摯に、深甚に、熟慮すべきであると考えるところである」「亡航太の地球より重い生命を代償とする貴重な教訓として」「被告が、むしろ、本件を契機に、多数の従業員を擁する企業として、「過労死」を撲滅することを約し、二度と「過労事故」を生じさせないことを宣言して、社会的責任を果たしていく、在るべき企業の範たるものとなり、その先駆けとして、今後も、被告における長時間労働を削減し、労働環境の整備を実行し、これらを継続していくことが望まれるのであり、期待される」「亡航太の遺志に沿うもように思われるところであり、慰霊のための何よりの策となると考えられるのである。」
裁判所の読み上げたこの和解勧告は「働き方改革」のなかで司法として過労死対策を宣言したといえるものです。「働き方改革」と、航太さんの命の重みから、責務を自覚する司法。法的責任を明らかにするだけでなく、謝罪、賠償、再発防止による社会規範化により、慰霊をする決意を示したものです。
裁判所決定全文はこちらからご覧になれます→http://bit.ly/2JzpO4P
3 厚生労働省へ過労運転事故対策を求める申し入れ
今回の和解を踏まえて、3月1日、原告・弁護団と支援者は、厚生労働省へ過労運転事故対策を求め、①通院災害が過労運転が原因となっていないかの実態調査②勤務間インターバル規制の法制化③事業者に対して過労運転防止策の指導徹底を申し入れました。
EU(欧州連合)は、労働時間指令「労働時間の編成の一定の側面に関する欧州会議及び閣僚理事会の指令」(2003/88/EC)において、労働者の健康と安全を確保するため、労働時間(休憩時間)に関して、24時間につき最低連続11時間の休息を取ると、定めています。EUの勤務間インターバル規制では、週休1日と合わせれば時間外労働の上限は月78時間となり、日本の厚生労働省過労死基準の時間外労働月80時間を下回り、ほとんどの過労死はなくせると言われています。
他方、国会で審議予定の「働き方改革一括法案」は、労働時間等設定法を改正し勤務間インターバルを導入しますが、努力義務にとどまり、実効性は期待できません。過労死の撲滅のためには、EUの最低基準である11時間の勤務間インターバルの速やかな法規制化が不可欠です。
4 最後に 司法を覚醒させたものはなにか
本件の裁判所の気概ある和解決定を機に、過労事故がメディアでも多数報道され、社会問題として広がりつつあります。「司法の良心」を覚醒させたものはなにかについて、触れたいと思います。
先ず何よりも、短くも生涯を閉じた航太さんを想う母、遺族原告の渡辺淳子さんの魂を削った訴えが、多くの市民やメディアを突き動かしてきました。提訴以来、多数のメディアで報道され、毎回の裁判所期日では、支援者によって傍聴席を埋められてきました。さらに、非公開和解期日も多数の傍聴人が駆け付け調停室を包囲していました。これらの支援者の声は、全国から合計1万5000筆以上の署名となり、毎月裁判所に提出されました。このような多くの声に応え、裁判長は、和解期日で、「私にも航太さんと同じ年の息子がいる。我がことと考えて書いた」と今回の和解決定を出す決断を後押しし、裁判官を官僚から人へ変えることができたのだと思います。原告の必死の訴え、多くの支援者の運動、過労死の撲滅を願い二度と被害者を繰り返してはならないと願う広汎な世論の力、そして人権救済の砦としての責務を深く自覚した司法の良心が一体となり、実現したものと考えています。
最後に、和解決定を受けての声明の結文をご紹介します。
「本件が勝利和解によって終結しても、航太さんが淳子さんと共に暮らした家に帰ってくることは二度とありません。航太さんの短い生涯と引き替えに残されたこの和解が、地球よりも重い一人ひとりの命を大事にする社会を創る希望となることを願うものです。」
以上
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|黒字リストラの横行する日立製作所における退職強要・パワハラ・不当査定 損害賠償請求提訴しました(弁護士 川岸卓哉)
2018年5月25日 金曜日
2018年4月4日、(株)日立製作所戸塚事業所においてソフトウェア関係の業務に従事している課長職50代の男性原告が、会社から退職強要、パワーハラスメント、不当査定を受けたことに対して、横浜地方裁判所に対して、慰謝料等合計224万円の損害賠償を求める提訴をしました。事件の概要の本件の意義をお知らせします。
第1 事件の概要
1 退職強要
2016年8月頃から、原告の所属していた事業所において黒字リストラが開始され、担当部長との個別面談が行われることになりました。2016年末には、原告が課長として担当していた部署の仕事から外され、面談の際にも「仕事をやりたいなら、今の課長から仕事を奪え。彼らより仕事ができることを証明しろ」「私に君の仕事を探すミッションはない。自分で仕事を探してこい」「課長職の仕事ぶりではない。若手、新人クラスだ」「日立にこだわっているから答えがないのだ。制約を外せ」「制約を外すまで面談は続ける」などと迫り、違法に退職強要を行いました。
2 パワーハラスメント
2017年1月に、原告が個人加盟ユニオンに加入した以降、部長による退職強要の面談は行われなくなりました。しかし、これにかわり、同年7月、部長より、原告に対して、執拗に業務内容についてあげつらうパワーハラスメントが行われることになりました。以下、例を挙げます。
① 原告が司会を務めた会議について、部長はあえて、会議参加者約30名全てを同報としたメールで、原告の会議運営上の課題について、公然と原告を非難するなど、原告の名誉を損なう形で指導を行いました。原告が部長の指示を受けて再報告したものに対してもアドバイスをせずに会議の席上で公然と原告の非難することを伝えました。
② 部長の指示にしたがって作成した業務シートについてメールで「もしかして初めてWBSを書きましたか?」「WBSとは何か知っていますか?」「WBS=Work Breakdown Structure」と言うことくらい知っていると思いますが」などと、原告が当然知っていることを侮辱にするメールを送りました。
以上の行為は、職場内の力関係を背景にした、侮辱、名誉毀損に該当するものであり、厚生労働省のパワーハラスメント類型の「精神的な攻撃」に該当するもので、被告としてパワーハラスメントを防ぐ就業環境保持義務に反するものです。
3 不当査定
上記退職強要及びパワーハラスメントを受けた以降の期間、一時金査定及び給与査定について、従来に比べて明らかに不当な低評価を行いました。
第2 本件の意義 日本を代表する企業日立製作所において横行する「黒字リストラ
日立製作所は、高い利益目標をかかげ、それを達成するために「常時リストラ」「黒字リストラ」とでもいうべき政策を強引に進めています。多くの中小零細企業が、売上の減少と赤字に苦しめられながら、それでも、一度雇い入れた労働者との雇用契約を遵守し、好調時に蓄えた内部留保を切り崩したり、将来の利益による返済を約束して運転資金を調達する等して、必死で経営を続けています。にもかかわらず、日本を代表する被告が、巨大な内部留保を蓄え、それどころか、巨大な黒字を生み出す経営を続けているにもかかわらず、より一層の利益を獲得するために、雇い入れた労働者に、被告からの退職を迫るというのは、企業の社会的責任を忘れたあまりに身勝手な行為といわざるを得ません。ところが、そのように身勝手な退職の要求についても、被告のほとんどの労働者は、会社にはあなたが働く場はないといわれ、他に途がないといわれ、抗うことも出来ずに退職をさせられているのが現実です。本件は、勇気ある労働者がこれを告発する意義を持ちます。
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