ケーススタディー
性暴力が性暴力と認められた─Aさんの5年間のたたかい─(弁護士 川口彩子)
2022年8月31日 水曜日
2014年6月、Aさんは多摩区の有限会社ローカストに事務員として入社しました。ローカストは映画やCMの操演や特殊撮影などを行う会社です。入社してすぐの 8 月後半、Aさんは会社の飲み会で会社役員でもある社長の息子から強い酒をたくさん飲まされて意識を失い、そのまま社長の息子から性暴力を受けました。内容が内容だったため、Aさんは誰にも相談することができず、当時は警察に行くということも思い至りませんでした。2015年になると社長の息子はAさんを「夜の世話もしてくれる忠実な部下」として周りに見せびらかすかのように、Aさんを深夜までスナックに付き合わせ、そのまま自宅に連れて帰り、自分本位な性暴力を繰り返しました。もともと身体の弱かったAさんは、連日に及ぶ深夜までの飲酒と寝不足、不衛生な性行為で体調を崩し、意識が朦朧としたまま襲われる日々でした。避妊なしの性行為により、3 度の流産も経験しました。そして、2017 年 2 月、Aさんは社長の息子から深夜に無理矢理呼び出された際、「持病を持ってない人でも、毎晩連れ回されてたら病気になりますよ」と初めて口ごたえをしました。すると社長の息子はその晩Aさんに対し、Aさんの首が絞まるように暴行を加え、「とりあえず辞表書こっか」「誰にも分からないように荷物なくしてくれよ。そんで誰にも分からないように死んでくれる?」などと言って、解雇を通告したのです。社長の息子はAさんに「ほかにセックスできる女ができたから」とも言いました。
2017年10月、Aさんは解雇無効と未払賃金の支払い、会社と社長の息子に対し慰謝料を請求する裁判を起こし、2021 年6月、横浜地裁川崎支部の判決が出されました。しかし、この判決は、Aさんと社長の息子は交際していたのだから性行為についても同意があったと認定し、社長の息子と会社を免罪したのです。Aさんはすぐさま控訴
し、2022年2月、画期的な東京高裁判決が言い渡されました。
東京高裁は、Aさんが立場上社長の息子に反抗できない心理状態にあったことを正面から認め、Aさんは受け入れていたわけではなく、性暴力を受け続けてきたのだということをきちんと認めてくれました。そして、解雇も無効であると判断し、Aさんに、慰謝料と未払賃金を支払うよう命じたのです。
性暴力の被害者は、その内容がセンシティブかつ深刻なものであるため、被害を訴えることは困難な状態にあります。これまでどれだけの性被害者が、自分にも落ち度があったのではないかと考え、泣き寝入りしてきたことでしょう。控訴審では、「上司と部下」「教師と生徒」といった地位・関係性を利用した性暴力の構造や、被害者のおかれている心理状態、そして、合意がなければそれは性暴力なのだということをあつく主張しました。それが今回の判決につながり、安堵しています。被告側は上告し、現在は最高裁の決定を待っているところです。
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