ケーススタディー

ケーススタディー

無戸籍児の特別養子縁組~解決事例のご紹介~

2025年2月13日 木曜日

畑福生弁護士については、こちらをご覧下さい。 

kawagishi  

 

こんにちは。弁護士の畑福生です。

不幸にも出生届が出されず無戸籍状態となってしまった子どもが、特別養子縁組に至り家庭において幸せに暮らせるようになるという事案を担当させていただきました。

無戸籍児の特別養子縁組の事案の手続きに関してまとまった文献も見られなかったため、同じような状況で悩む方の参考になればと思い、依頼者様の許諾の下、解決事例の報告をいたします。

なお、特定を防ぐために事実関係を一定程度抽象化し変更を施しております。

 

1 無戸籍状態にいたる経緯及び弁護士につながるまでの経緯 

⑴ ある年の1月、某T県でその子(Aさん)は生まれました。Aさんの母親は夫によるDVから逃れるために夫と別居していましたが、別居期間中に、別の男性との間でAさんを身ごもりました。母親は夫と離婚をし、離婚から4か月後にAさんは生まれました。

母親は、残念ながらAさんを育てられなかったため、特別養子縁組をあっせんするNPO法人にその子を預けることとしました。

NPOの付添いで母親が出生届を提出しようとしたところ、窓口で対応したT県の市役所職員から、離婚後300日以内の出産であるため、戸籍上は元夫との子として扱われ、その子は元夫の戸籍に入らざるを得ないとの説明を受けました。血のつながりもない元夫の戸籍にその子が入ってしまうことは嫌だ、DVから逃れているのに出生が知られると何をされるか分からないと考えたものと思われますが、窓口での説明を受けた母親は出生届の提出をやめてしまいました。その後母親は音信不通となってしまいました。

結果として、Aさんの出生届は提出されず、戸籍が無い状態となってしまいました。

⑵ NPOは、母親が音信不通となる前に某S県に住む特別養子縁組を希望する夫婦(依頼者様)にAさんを預けていました。出生届が出されなかったため、Aさんは無戸籍状態となってしまい、健康保険含む様々なサービスを利用するにも困難が伴いました。依頼者様が困りながらも役所に相談している際に、S県の日本共産党の市会議員さんが依頼者様とつながり、そのご縁で私に相談いただくこととなりました。

役所においては、無戸籍であっても母子手帳の交付や健診の受診等の行政サービスについては提供できるよう対応をしてくれましたが、結局無戸籍状態では今後の生活に支障も多く、畑において依頼をお受けし、特別養子縁組の前提として無戸籍状態の解消を目指すこととなりました。

 

2 無戸籍状態解消のための取り組み

⑴ 無戸籍状態解消のためには出生届を出すことが考えられます。戸籍法において出生届は父または母、そして同居者や出産に立ち会った医師、助産師等が出生届を提出しなければならないと定められています(戸籍法52条)。

父または母による提出が困難な本件において、幸いにも出産が行われた病院は判明していたため、出産に立ち会った医師に連絡し出生届を提出してもらうよう働きかけることを検討しました。

しかしながら、その場合は上記の市役所窓口の説明どおり母親の元夫の戸籍に入ることとなってしまいます。

本件では、戸籍ができた後に特別養子縁組の手続きが予定されており、その際に母親の元夫の戸籍に入っていると多くの不都合が生じる(どのような不都合があるかについては後記第3項にて紹介しています)ことや、そもそも一切面識のない戸籍上の父の戸籍に入ることの不当性を踏まえ、元夫以外の戸籍に入るようにできないか検討する必要がありました。

⑵ 畑において調査し、各所に問い合わせを行っている中で、まず特別養子縁組が予定されていることから、養子縁組時に養子の新しい戸籍を作る旨の戸籍法20条の3を用いて、特別養子縁組の審判によっていきなり子どもの新戸籍編成をすることができないか法務局に確認しました。法務局としては養子縁組に伴い新戸籍を編製するとしても出生事項の記載が必要であるため出生届も出されていない本件では形式的にも困難であるし、そもそも同条は一度元親との関係を断絶させて追えなくするためのものだから実質的にも法の趣旨と合致しないため、そのような新戸籍の編製はできないとの回答を得ました。

そのようなやり取りをする中で、法務局より内密出産の場合の通達を踏まえ、子どもの新戸籍を編製することができるかもしれない旨の情報提供を受けました。それが子発0930第1号・令和4年9月30日通達「妊婦がその身元情報を医療機関の一部の者のみに明らかにして出産したときの取扱いについて」です。

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/235ef4d7-3bfe-4a5c-9449-b302c425f988/97f4b9af/20230814_policies_shakaiteki-yougo_tuuchi_104.pdf

熊本市の慈恵病院に赤ちゃんポストが設置され親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる取り組みが行われた関係で、熊本市においては内密出産の子に職権で戸籍を作るという方針を出しており、そのような取り組みを踏まえ出された通達です。

本件も実の父親はもとより母親も行方がしれない状況となっていたため、この通達を踏まえ新戸籍を編製できないかと考えました。

⑶ 通達通りの運用ができないか、出生地であるT県の児童相談所及び役所に連絡を行いました。

しかしながら、T県T市においては関係各機関にて協議を行ったところ、本件では、母親が市役所の窓口に少なくとも一度は出生届の提出のために来ていることから病院以外に出産の事実を明かさない内密出産とは異なるとして、通達に記載された取り扱いはなされないこととなりました。

畑からも母親の元夫の戸籍に入ることの不都合を繰り返し丁寧に説明したものの、難しいとの結論に至りました。

⑷ 他方で、T市も無戸籍状態の解決の必要性については重視してくださり、市区町村長の職権による戸籍作成(戸籍法44条3項)を行う方針となりました。

T市は法律上必要な催告(同条1項、2項)を行ったものの、いずれの催告時においても実母は不在の状況であり、二度の催告後、T市は戸籍記載許可申請書を管轄の法務局に提出し、法務局から法律上必要な許可を得て、その年の7月に職権での戸籍記載を完了しました。

⑸ 以上のとおり、時間がかかったものの、無戸籍状態の解決に至りました。

もっとも、出生届が出された場合と異なって、職権での戸籍記載の場合は市において命名権がないことから、「名未定」として名前が空欄のまま戸籍記載がなされるに至りました。この点についてもどうにか名前(母親がつけた名前があり依頼者様もその名前にしたいとの意向でした)が付いた状態で戸籍を作りたいとのことでT市と繰り返し交渉したものの、法律に基づいて戸籍記載を行う関係で、法律上権限のないことはできないという結果でした。

T市としては実の母が命名について承諾し、そのとおりの命名を行うという実体的な正当性があるとしてもそのための手続が法定されておらず、形式的な正当性がないとのことでした。「名未定」であることについては、戸籍記載完了後、特別養子縁組が認められてから養親において名の追完(戸籍法45条)を行ってほしいとのことでした。

Aさんが母親の元夫の戸籍に入ってしまったことや名前が記載されないことなど不十分な点も多く残ってしまいましたが、無戸籍状態であることに比べれば大きな問題ではないと考え、その後の手続きを進めることとしました。

 

3 特別養子縁組手続について

⑴ 無戸籍状態を解消できたことから、早速同じ年の8月には、家庭裁判所に特別養子適格の確認申立て及び特別養子縁組申立てを行いました(以下これらをまとめて「特別養子縁組手続」と呼びます)。

依頼者様は当初、Aさんがご自身の子どもになるための手続きであることから、ご自身で特別養子縁組手続きをなさりたいとの意向をお持ちでしたが、無戸籍状態解消に至るまででも一筋縄でいかなかったことや、母親の元夫の戸籍に入ってしまったこと等による難点が予想されたことからご依頼いただくこととなりました。

依頼者様の想いを踏まえ、申立てに際しての提出書類においては、依頼者様がいかにAさんをこれまで愛情豊かに監護してきたか分かるように努めました。

⑵ その後、特別養子縁組手続に関し、申立書を確認した裁判官から連絡を受けました。裁判官としては、戸籍は母親の元夫の戸籍に入っているが、真実の親子関係がないものであるから、まずはその解消をしなくてはならない、具体的には親子関係不存在確認の手続き(調停及び訴えの手続きをまとめてこのように記載しています)を行わなくてはならないとの見解を示していました。

まさしく母親の元夫の戸籍に入らざるを得なかった不都合が顔を出すこととなりました。

しかし、親子関係不存在確認の手続きを行うにしても、Aさんはもちろんできず、親権者としての母親も連絡が付かず、かつ事前に元夫に戸籍の記載及び特別養子縁組手続に協力いただきたい旨手紙を出していましたが連絡が付かない状況でしたので、そのような手続きを行うことは困難でした。

裁判官の見解がいかに本件に不適合であって、児童福祉を害するかについて交渉を続けたものの、裁判官の意向は変わりませんでした。裁判官は現状のままでは申立てを却下するとの意向さえ有しているようでした。

⑶ そのため親子関係不存在確認の手続きについての検討を進めました。

ア 手段の一つは、Aさんの未成年後見人選任を申立て、Aさんの代わりに未成年後見人が親子関係不存在確認の手続きを行うというものです。

しかし、この手段でいくとすれば特別養子縁組手続のための親子関係不存在確認の手続きのための未成年後見人選任申立て手続きをしなくてはならず、費用や時間の面からして不相当と考えられました。また、そもそも、法律上、依頼者様において未成年後見人選任の申立てをする権限があるか(利害関係を有するか)についても問題となりました。

ちなみにこの点について、担当の裁判官に、「じゃあ、親子関係不存在確認の手続きのための未成年後見人選任申立てについて養親候補者の方の申立適格が認められるのですか?私の調査の限りでは認められませんよ。」と尋ねたところ、担当裁判官は「私はその判断をする部署でないからわからない」「実際に申立てをしてもらわないと分からない」との不合理な回答に終始していました。担当裁判官には児童福祉に関する資質が欠けているのではないかと危惧しました。

イ もう一つの手段としては、一時保護をした場合に児童相談所長が親権を行える旨の児童福祉法33条の2を踏まえて、児童相談所にAさんを一時保護してもらい、依頼者様のもとで暮らすために依頼者様に一時保護委託をしてもらい、児童相談所長が親権を行使して親子関係不存在確認の手続きを行うというものです。

この方法に関し、管轄の児童相談所に問い合わせを行いました。児童相談所としては当初はAさんの置かれた状況に同情を示してくださったものの、常勤の弁護士が対応することとなり、当該弁護士としては、「そもそもこのケースは児童虐待等で保護しているケースではない。手間も費用もかかる」「費用について負担いただけるのか」といった調子で、上記方法については採用いただけませんでした。

私も児童相談所において過重な負担がかかっている状況にあって、余裕がない常態に置かれていることは承知しておりますが、このような対応には閉口しました。

親権者は音信不通で特別養子縁組手続も完了していない宙ぶらりんな状況の中、依頼者様が万が一Aさんを養育することができなくなったら、Aさんはどうなるのでしょうか。裁判所も、あまつさえ児童相談所においてもAさんのことを親身に考えては下さらず、大人の都合や利害にばかり目をやって、一番弱くて不安定な立場の子どもの事を考えてないのではないかと依頼者様も絶望を露わにされていました。

⑷ このような状況で裁判官の求める親子関係不存在確認の手続きはやはり相当でなく、裁判官の見解自体を変えなくてはならないと思い至りました。

そのため、本件のような戸籍上の親と実の親が異なる場合の特別養子縁組手続に関する審判例の調査を進めておりました。もっとも、原則非公開の手続ですから判例集での調査は困難を極めました。

そこで、依頼者様を通じて特別養子縁組をあっせんするNPOに同様の事例がないか確認いただきました。すると、NPOは同様の事例をご存知であり、当該事案の養親の許諾の下、審判例を提供いただくことができました。当該事案においては、親子関係不存在確認の手続きを求めず、家裁から戸籍上の父親に照会を掛け、戸籍上の父も特別養子縁組手続に同意していたことを踏まえて特別養子縁組を認めるに至っていました。

同じ年の11月、私の方から当該事案の養親の方に連絡し、本件において当該審判の家裁への提出許可を得て、家裁に対し当該事案同様に戸籍上の父(母親の元夫)に連絡をし、同意を得る手続きを踏めば特別養子縁組が可能であることの説明を行いました。

すると、家裁も審判例の存在に安心したのか、この方法で手続き進めてくれることとなりました。当該審判例は一筋の光明となりました。

⑸ その後早速家庭裁判所はに連絡を取ろうとしましたが、ここでまた障壁が生じました。申立前に私が母親の元夫に手紙を出した際には手紙が確かに届いていたのですが、11月の段階で家裁の調査官が元夫に手紙を出したところ「宛所に尋ねあたらず」として手紙が戻ってきてしまったというのです。

ここで改めて母親の元夫の居場所を調べる必要が出ました。もともと元夫と連絡を取るために様々調査はしていたのですが、これといった手がかりもつかめず、またT市は遠いため出向いて探すというのも困難でした。

検討を重ねているうちに、ふとAさんが記載された母親の元夫の戸籍の附票を確認すると、元夫の住所地と元夫とAさん母親との間の別の子(異父きょうだい)の住所地が異なることに気づきました。その住所地の不動産登記を調べると、元夫と同姓の方の所有地であって、Googleマップのストリートビューで確認したところ民家が建っていることが確認できました。もしやその方は元夫の親類であって、その方が異父きょうだいを元夫の代わりに養育しているのではないかと考え、早速その方宛に手紙を発出しました。すると、その方は元夫の父であって、しかも元夫が現在は当該住所地に住んでいるとの回答が得られました。お電話でお話したところ、手続についても協力的であって、元夫が手続きに協力するようサポートして下さるとのことでした。

このことを家裁に伝え、家裁から当該住所地宛に手紙を出してもらったところ、元夫と連絡が取れ、速やかに手続きに協力いただけたとのことでした。

以上の次第でAさんが生まれた翌年の2月にようやく特別養子縁組が認められました。

 

4 おわりに

ご相談をいただいてから1年程度かかりましたが、なんとか無戸籍状態の解消及び特別養子縁組に至ることができました。

本件においては、やり取りを行うべき関係各所も多く、弁護士だからこそ取得できた情報が解決には必要であり、かつ様々な法的知見を踏まえて方法を探っていくアプローチが有用でした。もちろん依頼者様の真摯な努力あってこその解決ではありますが、依頼者様ご本人のみでは行き詰まる点も多かったでしょうから、手前味噌ながらご依頼いただけてよかったものと思っています。

あくまで一例ではありますが、同じような状況に置かれた方の参考になりましたら幸いです。

長くなりましたが、最後に依頼者様からいただいた感謝のメッセージを紹介してこの記事を締めたいと思います。

無戸籍から始まって、裁判を却下されそうになったりと、進む先々で障壁が立ち塞がり、一時は八方塞がりかとも思いましたが、ここまで辿り着けたのも畑さんのおかげです。

親身になって手を尽くして助けていただき本当にありがとうございました!!

特別養子縁組が認められた報せを見た時には涙が出て、子どもを抱きしめて喜びました!

入籍手続きが完了して住民票が発行され、続柄の欄に「 子 」と書かれているのを確認した時は、思わず涙がこぼれてしまいました。

これもひとえに畑さんがあらゆる可能性を模索してくれ、都度立ちはだかる障壁をクリアしてくださったおかげです。

子どもが成長した時には、「畑さんが情熱を持って解決まで導いてくれたんだよ」と伝えていきたいです。

文字で書くと陳腐な言葉になってしまいますが、感謝の気持ちでいっぱいです。

ありがとうございました!!

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

カテゴリ一覧

まずはお電話でお話してみませんか

まずはお電話でお話してみませんか

まずはお電話で
お話してみませんか