ケーススタディー
失踪宣告の取消が認められたケース(弁護士 小林展大)
2018年7月2日 月曜日
失踪宣告の取消が認められたケース
弁護士 小林 展大
1 相談に至る経緯
相談者は,就職に伴い,実家を出て自身の出身地を離れました。その後,相談者は,家族や親族等と連絡をとることがないまま,生活していました。その後,相談者が自分自身の戸籍を取得してみると,失踪宣告の審判が確定していて,相談者は,戸籍から除かれていることが判明しました。そこで,相談者は,行政サービス等を受給できるようにするため,戸籍の回復をすべく,弁護士に相談しました。
2 失踪宣告とは
不在者の生死が不明の状態が一定期間継続した場合は,利害関係人の請求により,家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます(民法30条)。これにより,失踪宣告を受けた者は,従来の住所を中心とした範囲では死亡したものとみなされます(民法31条)。
3 失踪宣告の取消とは
失踪宣告がされた場合でも,①失踪者が生存すること,もしくは,②失踪者が宣告によって死亡したとみなされる時と異なる時に死亡したこと,のいずれかの事実が証明されたときは,本人または利害関係人の請求により,家庭裁判所は失踪宣告を取り消さなければなりません(民法32条1項前段)。
失踪宣告が取り消された場合は,はじめから失踪宣告がなかったものとしてあつかわれ,その結果,失踪宣告を原因として生じた権利義務の変動も生じなかったことになります(一部例外はあります。)。
4 受任後の経過
相談者から,家族・親族関係,出身地を離れてからの生活状況,働いていた会社等を聞き取りました。そして,相談者の除籍謄本,相談者の写真等,相談者が失踪者であることを特定するための資料を集めて,家庭裁判所に失踪宣告取消の審判を申し立てました。
しかし,相談者は,身分証明書となりうるものを所持していなかったため,別の方法で,失踪者が生存することを証明しなければならなくなりました。
そこで,相談者の親族,相談者のかつての勤務先の関係者に協力をお願いすることとしました。その結果,相談者の親族からは協力を得ることはできませんでしたが,相談者のかつての勤務先の関係者から,相談者が会社に在籍していたときの資料を提供していただいた上,相談者が失踪者であるとの書面作成にも協力をいただくことができました。
さらに,家庭裁判所調査官による調査(事実関係及び家族・親族関係の聞き取り等)も行われました。
5 審判の結果
家庭裁判所から,相談者に対してなされた失踪宣告を取り消すとの審判がなされました。
これにより,相談者は,戸籍を回復することができました。
6 さいごに
本件は,失踪宣告が確定した失踪者が生存していたという珍しいケースです。しかし,失踪者が生存しているにもかかわらず,失踪宣告が取り消されないと,戸籍から除かれたままとなり,住民票が作成できない,各種行政サービスが受給できない等の不都合が生じますので,本件と似たような事態が生じている場合には,弁護士にご相談下さい。
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