Q&A
空き家問題の対処法(弁護士 星野文紀)
2023年6月1日 木曜日
星野文紀弁護士については、こちらをご覧下さい。
1 空き家がどれくらいあるか
全国に848万9千戸が空き家があり、空き家率13.6%(平成30年 総務省統計局)となっている。
川崎市の空き家は7万3800戸で空き家率9.5%(平成30年 川崎市)で空き家率とほぼ横ばいである。もっとも、空き家の内、67.3%は業者等によって管理されている。長期不在などの管理されていない可能性の高い空き家は、空き家の内の32.2%と近年急増している。川崎市では、多摩区、中原区、川崎区の順に空き家数が多い。
2 空き家・空地の何が問題か
管理が行き届かないことによる、近隣・地域への悪影響
(家屋の倒壊、草木・雑草の繁茂、害虫・猫・ネズミ等の繁殖、不審者のたまり場になる、放火の危険、ゴミ屋敷、悪臭、不衛生、景観悪化、近隣不動産価値の低下)
3 空き家増加の原因
① 核家族化による住宅の増加に加えての少子高齢化
② 新築志向からくる新築住宅の大量供給
③ 空き家を取り壊した時の負担増
数百万円の解体費用、小規模住宅用地の特例除外による固定資産税の増加(約6倍)
第2 問題が起きた場合はどうする?
1 だれに請求するか(権利関係の確認)
空き家・空地等によって被害を受けた場合は、空き家の所有者等に必要な処置を請求することになる。しかし、誰に請求すればいいのか、どうやって調べるのか。
(1)登記名義人を調べる
法務局で登記事項証明書を取得し調査する。
未登記建物については、市町村から固定資産評価証明書を取得することも考えられる(ただし、一般的には入手できない)
(2)登記名義人が死亡している場合
住民票の除票や戸籍全部事項証明書を使って相続人を調査する。ただし、自己の権利を行使するために戸籍の記載事項を確認する必要があること説明する必要有り。
相続人を調査し全員に請求する。
(3)空き家の相続人がいない場合
利害関係を有する者なら相続財産管理人の選任を申立てることができる。相続財産管理人が空き家を管理し場合によっては取り壊すことができる。
ただし、相続財産管理人は、家庭裁判所が候補者にとらわれず選任し、申立人に予納金を納付させる(20万円~100万円くらい)。申立人や関係者が相続財産管理人になる場合は、報酬を予め放棄することが多い。
相続財産管理人の選任までは必要ないものの、相続放棄によって裁判をする必要がある場合には特別代理人の選任を申し立てることも考えられる(こちらの方が予納金は安め)。
(4)土地と建物の所有者が異なる場合
建物を管理している人が一般的には土地の管理を行っている。したがって、通常は建物の管理者が相手になる。
(5)空き家が賃貸の場合
1次的には、空き家の占有者である賃借人、しかし、朽ちた空き家を放置しているなど場合は空き家の所有者たる賃貸人にも責任がある場合もある。
(6)空き家の所有者の判断能力に問題がある場合
①成年後見人の選任をしてもらう。
②親族から管理の委任を受ける
③事務管理(緊急時に他人の財産の管理をする)
(7)所有者が行方不明の場合
不在者財産管理人の選任を申し立てる。やはり、家庭裁判所が候補者にとらわれず選任し、申立人に予納金を納付させる(数十万円~100万円くらい)。
不在者財産管理人の選任までは必要ないものの、相続放棄によって裁判をする必要がある場合には特別代理人の選任を申し立てることも考えられる(こちらの方が予納金は安め)。
2 何を請求するか
(1)隣地との境界を確認したい
①当事者間の協議。民事調停、②筆界特定制度、③境界確定の訴え、④所有権確認訴訟
(2)空き家がこちらの敷地にはみ出している
所有権に基づく妨害排除請求権として撤去を求める。ただし、時効取得。権利濫用。
(3)隣の家が傾いてきた
所有権に基づく妨害排除請求権としての傾斜防止措置を求める。仮処分も。
著しい傾斜(20分の1超)等があれば、空き家対策特別措置法に基づく処置を促すことも
(4)隣との間に塀を作りたい
共同の費用で塀を設けることができる。話会いが整わない場合は、板塀又は竹垣その他これに類する材料で高さ2mのものとすると規定されている。
したがって、どうしても話し合いがまとまらないときは、自分の敷地に自分の費用で塀を建てるか、隣の所有者に対して設置協力を求める裁判を提起することになる。
(5)隣から枝や根が越境してきている
枝は、切除させることができる。根は切り取ることができる。ただし、普通は撤去を要求することになる。
(6)隣の空き地の下にガス管・水道管を埋設したい
基本的には所有権は地下にも及ぶ。しかし、下水道法11条1項で他人の土地を使用しなければ、下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは下水管については承諾不要とされている。これは、下水以外の配管について類推適用される。
(7)空き地・空き家からのごみに困っている
基本、土地をどのように使うのかは自由。何も請求出来ないことが多い。ただし、隣の敷地にゴミがはみ出して来ているような状態で、所有者がなんらの対策もとらない場合は、不法行為により損害賠償請求出来る場合がある。
(8)空き家からの火事
漏電等については空き家の所有者に請求できる。ただし、失火責任法の適用がある場合もある。
第三者による放火の場合は、基本的に空き家の所有者に請求出来ない。しかし、施錠していない、燃えやすい物を放置するなどしていた場合は空き家の所有者の責任も考えられる。
(9)空き家に不審者が出入り
法的処置は難しいが、管理をお願いする。管理の委任を受ける。警察に通報するなどの方法が考えられる。
(10)空き家による不動産価値の下落
多く主張されるがほとんど認められない。ただし、受任限度をこえる不利益が生じ、住宅価格が相当下落した場合に下落相当額の損害賠償を認められる場合も考えられる。
第3 空家対策特別措置法
何ができるようになったか
① 空き家等の調査・立ち入り
② 固定資産税情報の利用
③ 特定空家等の所有者に対する助言指導
④ 特定空家等の所有者に対する勧告(固定資産税の特例がなくなる)
⑤ 特定空家等の所有者に対する命令(50万円以下の過料)
⑥ 特定空家等の所有者に対する行政代執行
⑦ 特定空家等の所有者等が不明な場合の行政代執行(略式代執行)
※「特定空家等」
①そのまま放置すると、倒壊など著しく保安上危険となるおそれのある状態のもの
②そのまま放置すると、衛生上著しく有害となるおそれのある状態のもの
③適切な管理が行われていないことで、著しく景観を損なっている状態のもの
④その他周辺の生活環境の保全を図るために、放置することが不適切である状態のもの
以上
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