講演・セミナー
ウクライナ戦争への視点(弁護士 藤田温久)
2022年5月10日 火曜日
1 明確なロシアの侵略
ロシアの軍事侵攻は、国際紛争の平和的解決を原則とし、武力による威嚇または武力の行使を原則禁止する国連憲章に明確に違反し、国際刑事裁判所設立条約が禁止する戦争犯罪や侵略犯罪に当たる。ウクライナはロシアに侵攻していないから個別的自衛権は行使できず、「ドネツク」「ルガンスク」両「人民共和国 」はロシアしか独立を認めていないので両「国」との条約に基づく集団的自衛権も成立しないから国連憲章51条で正当化もできない。つまり、ロシアの軍事侵攻は、絶対に許されない侵略だ。よって、① ロシアを糾弾し即時撤退を求める世論を一層広く形成し、② 国連とともに平和的手段による制裁を科しロシアを和平・撤退へと強制しなければならない。
2 ウクライナ戦争から何を学ぶべきか~ 4 つの教訓
安倍元首相や右派マスコミは、「中国が台湾で同じ動きに出る危険性がある」、「憲法9条を改正し米軍と共に集団的自衛権を行使できるようにしなければウクライナの二の舞」「米軍との核共有が必要=非核三原則の見直し」などと「ウクライナ」を使って煽り立てている。
しかし、戦争の時こそ冷静に情報を分析し理性と知性により判断することが求められる。第2次世界大戦後、米国はベトナム、アフガン、イラクなどで侵略を繰り返し、フランス、英国も同様である。犠牲者の人数はウクライナの数百倍を優に超える。「ウクライナ」が「初めて」でもなく「最大」でもない。そんなことを言っている人や情報は信じられない。そもそも
NATOは国連憲章に違反する攻撃的軍事同盟(セルビア、イラク、アフガン)である。NATO=正義とし
ている人の発言にも注意したい。
〔4つの教訓〕
① ソ連崩壊後、米国とNATOは旧ソ連とワルシャワ条約機構諸国をNATOに統合せず非同盟中立の地位に置くことを約束していた。しかし、この約束は反故にされ、NATOが国境に迫ったことが侵略の最大の「理由」である。ウクライナNATOに加盟せずに「緩衝地帯」としてロシア側から安心供与を受ける等の外交努力が欠如していたことがロシアの暴走の背景にある。台湾問題でも、中国が譲れない「一つの中国」を事実上侵害せず「中国側も戦争に訴えない」という相互保障を確立するための外交努力が欠如し、相互に挑発行為、軍拡を繰り返せばウクライナの二の舞になるということが、ウクライナ戦争の第1の教訓である。
② 日本の軍拡、まして「核共有」は周辺諸国の脅威となり、果てしない軍拡競争を招き、緊張を激化させる。核兵器禁止条約による全面的核廃絶に向けた動きを加速しなければ、「核の脅し」は繰り返され、暴発の危険もある。憲法の平和主義こそが戦争の惨禍を防ぐ唯一の道である。それが、ウクライナ戦争の第2の教訓である。
③ 原子力発電所がロシア軍の攻撃にさらされることで、3・11の悪夢がよみがえり、原子力発電からの全面撤退の必要性が安全保障上もいかに焦眉の課題かが一層はっきりした。ウクライナ戦争の第 3 の教訓である。
④ 国連総会でロシア非難決議が141カ国の賛成という圧倒的多数で採択された。反米の立場からロシアを支持するということはできず中国は棄権した。核兵器禁止条約(17年総会で採択、21年発行)に続き、反核・平和の国際世論は前進している。うかつな侵略は「国際世論の支持を失う」結果を招き、国を危うくすることが誰の目にも明らかになりつつある。これがウクライナ戦争の第 4 の教訓である。
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