Q&A

2022年6月24日 金曜日

民法・不動産登記法等の改正等 その1~相続土地国庫帰属法とは~(弁護士 山口毅大)

 山口毅大弁護士については、こちらをご覧下さい。

1 はじめに

 2021年4月21日、民法・不動産登記法等の改正等がなされました。この改正等の内容は、多くの市民の方に影響を与える、大改正です。ただ、その改正点等の内容は、多岐にわたります。そこで、今回は、相続土地国庫帰属法の要点について、解説いたします。

2 相続土地国庫帰属法の概要

  相続土地国庫帰属法とは、簡単にいえば、一定の要件のもとで、取得した土地を国庫に帰属する制度です。

  その趣旨は、次の点にあります。すなわち、相続等によって土地を取得した方は、特に積極的な土地の利用をするつもりがないのに、土地の管理について、責任を負わなければならないこと、所有者不明土地を発生させる原因となることから、一定の限度でその負担から解放させる方法を認める必要性が高いという点にあります。他方で、過度な管理費用等が国に転嫁されること、モラルハザードが発生することを防止する必要があります。そこで、相続または相続人に対する遺贈(以下「相続等」といいます。)により取得した土地のうち、一定の要件を満たすものに限定した上で、法務大臣が要件を確認して、承認するということになりました。

3 承認申請をすることができる方

  上記趣旨から、相続等により、取得した者に限って、承認申請権を与えています。

4 国庫帰属が認められるためには(国庫帰属が認められない土地の要件)

  国庫帰属が認められるには、国庫帰属が認められない土地に該当しない必要があります。
  まず、通常の管理または処分をするために、過分の費用や労力を要する土地を類型化し、これらの土地に該当する場合には、却下事由としています。

  具体的には、①建物の存する土地、②担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地、③通路その他の他人による使用が予定されている土地として政令で定めるものが含まれる土地、④特定有害物質により汚染されている土地、⑤境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地です。

  また、土地の種別や現況、隣地の状況等から、実質的に通常の管理または処分をするために、過分の費用や労力を要する土地の類型化し、これらの土地に該当する場合、不承認事由とされています。

  具体的には、①崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの、②土地の通常の管理又は処分を阻害する有体物が地上に存する土地、③除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地、④争訟によらなければ通常の管理又は処分を行うことができない土地、⑤その他、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地です。

5 申請手続

  承認申請は、管轄する法務局や地方法務局に対して行います。具体的には、相続土地国庫帰属法では、①承認申請者の氏名又は名称及び住所、承認申請にかかる土地の所在、地番、地目及び地積を記載した申請承認書、②添付書類を提出することになります。ただし、具体的な方法、添付書類については、今後、法務省令で定めることになります(2022年3月時点)。

6 申請後

  申請後、審査手続が進み、却下処分、不承認処分又は承認処分が出され、通知されます。

7 留意事項から負担金

  承認があったとき、承認申請者は、承認があった土地に着き、管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して、政令で定めるところにより算定した負担金を、負担金の額の通知を受けた日から30日以内に納付しなければなりません。

8 施行日

  相続土地国庫帰属法は、2023年4月27日から施行されます。

9 総括

  このように、相続土地国庫帰属法を利用するためには、要件が厳格であり、政省令で委任されている事項があり、今後制定される通達を見なければ、取扱いが不明な点もございます。この制度を利用するに際しては、不動産や相続に携わる弁護士に、一度ご相談されることをお勧めいたします。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

2022年6月8日 水曜日

講演会「ウクライナから憲法を考える」を終えて(弁護士 前田ちひろ)

渡辺先生講師:一橋大学名誉教授 渡辺治 先生

 

 2022年6月1日、カルッツかわさきにて、弊所主催の企画として、「ウクライナ問題から憲法を考える」と題した講演会を行いました。講師には、政治学、日本政治史をご専門とされ、現在は一橋大学の名誉教授でいらっしゃる渡辺治先生をお招きし、ウクライナに対するロシアの侵攻を口実として湧き上がっている改憲論について、本当に改憲の必要性があるのか、歴代政権が実行してきた憲法9条の機能に対する破壊策動の歴史の分析を踏まえて、お話しいただきました。

 

挨拶・川口開会挨拶(川口彩子弁護士)

 

 新型コロナウイルス感染症への感染状況は未だ油断を許さないものではありましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を口実として改憲論が湧き上がっており、参院選を前に未だかつてない改憲の危機が訪れている今この時期に、是非、多くの方々と、その危機感を肌で共有し、憲法9条についての学びを深め、見識を共有する機会を持ちたいとの思いから、感染対策を十分に行った上で、オンラインではなく現地開催と致しました。その結果、コロナ禍という大変な状況においても、107名という大勢の方に足を運んで頂くことができました。主催者としても、改憲問題が緊迫化している状況に、同じように危機感を覚える人々が数多くいらっしゃることを改めて認識することができ、勇気づけられる一日となりました。

 

会場沢山の方にご来場頂きました

 

 そもそも、この講演会企画は、これまでの自民党政権同様、岸田政権下でも推し進められてきた改憲への動きが、今年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、これにより国民の間に湧き上がった他国からの侵略に対する漠然とした不安を、煽り、そして利用する形で展開されていることに危機感を覚え、ロシアによるウクライナ侵攻によって本当に改憲の必要性が高まったのか、改憲の流れはそもそもどのような経過を辿ってきたのか、その流れの中のどの地点に今私たちは立たされているのか、そのことを、今一度冷静に分析する必要があるとの意識から持ち上がったものでした。

 渡辺先生のお話の中では、まさにその点が、事実経緯に沿った細かな分析から明らかとされました。今、改憲論者は、現実には起こりえないと思われていたロシアによるウクライナ侵攻が実行されたことにより、中国や北朝鮮による日本への侵略がいよいよ現実的な危険性を帯び始めたと主張し、それを理由に、米国との軍事同盟強化によって他国からの侵略を抑止する必要性があると説いています。しかし、そもそも、ロシアによるウクライナ侵攻は、NATOの拡大がロシアに脅威となっていた事実を無視して語ることのできないものであり、「軍事力強化による戦争抑止」の限界の現れとしての側面を色濃く持つ事態であるということができます。また、日本における改憲への動きは、ロシアによるウクライナ侵攻を機に生じたものではありません。安倍政権下の2014年には、閣議決定により憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使を容認、その後、2015年には集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法が成立しました。その後の菅政権下でも、2021年4月16日に出された日米共同声明において、中国により台湾が侵攻された場合にはこれに対する米国の軍事介入に日本が事実上加勢することが約束されました。このように、改憲に向けた憲法9条の機能の破壊はこれまですでに進められてきたものであり、ロシアによるウクライナ侵攻により改憲の必要性が生じたものではありません。私たちは、ウクライナの惨状を目の当たりにした今だからこそ、改憲に向けた動きはそれ以前からあったことを踏まえ、岸田政権の目指すものの本質は何なのか、ロシアをウクライナ侵攻まで追い詰めた背景には何があるのか、そのことを冷静に分析するこが重要であると、今一度改めて認識しなければなりません。

 6月22日には参議院選の公示がなされることが見込まれていますが、この参院選において、改憲阻止の戦いは大きな正念場を迎えます。今回の企画は、改憲阻止の運動の面でも、貴重な機会となりました。この場をお借りして、改めて、ご来場いただいた皆様、そして渡辺先生に感謝の意をお伝えしたいと思います。誠に有り難うございました。

 前田・司会司会を務める前田ちひろ弁護士

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

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