講演・セミナー

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講演会「ウクライナから憲法を考える」を終えて(弁護士 前田ちひろ)

2022年6月8日 水曜日

渡辺先生講師:一橋大学名誉教授 渡辺治 先生

 

 2022年6月1日、カルッツかわさきにて、弊所主催の企画として、「ウクライナ問題から憲法を考える」と題した講演会を行いました。講師には、政治学、日本政治史をご専門とされ、現在は一橋大学の名誉教授でいらっしゃる渡辺治先生をお招きし、ウクライナに対するロシアの侵攻を口実として湧き上がっている改憲論について、本当に改憲の必要性があるのか、歴代政権が実行してきた憲法9条の機能に対する破壊策動の歴史の分析を踏まえて、お話しいただきました。

 

挨拶・川口開会挨拶(川口彩子弁護士)

 

 新型コロナウイルス感染症への感染状況は未だ油断を許さないものではありましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を口実として改憲論が湧き上がっており、参院選を前に未だかつてない改憲の危機が訪れている今この時期に、是非、多くの方々と、その危機感を肌で共有し、憲法9条についての学びを深め、見識を共有する機会を持ちたいとの思いから、感染対策を十分に行った上で、オンラインではなく現地開催と致しました。その結果、コロナ禍という大変な状況においても、107名という大勢の方に足を運んで頂くことができました。主催者としても、改憲問題が緊迫化している状況に、同じように危機感を覚える人々が数多くいらっしゃることを改めて認識することができ、勇気づけられる一日となりました。

 

会場沢山の方にご来場頂きました

 

 そもそも、この講演会企画は、これまでの自民党政権同様、岸田政権下でも推し進められてきた改憲への動きが、今年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、これにより国民の間に湧き上がった他国からの侵略に対する漠然とした不安を、煽り、そして利用する形で展開されていることに危機感を覚え、ロシアによるウクライナ侵攻によって本当に改憲の必要性が高まったのか、改憲の流れはそもそもどのような経過を辿ってきたのか、その流れの中のどの地点に今私たちは立たされているのか、そのことを、今一度冷静に分析する必要があるとの意識から持ち上がったものでした。

 渡辺先生のお話の中では、まさにその点が、事実経緯に沿った細かな分析から明らかとされました。今、改憲論者は、現実には起こりえないと思われていたロシアによるウクライナ侵攻が実行されたことにより、中国や北朝鮮による日本への侵略がいよいよ現実的な危険性を帯び始めたと主張し、それを理由に、米国との軍事同盟強化によって他国からの侵略を抑止する必要性があると説いています。しかし、そもそも、ロシアによるウクライナ侵攻は、NATOの拡大がロシアに脅威となっていた事実を無視して語ることのできないものであり、「軍事力強化による戦争抑止」の限界の現れとしての側面を色濃く持つ事態であるということができます。また、日本における改憲への動きは、ロシアによるウクライナ侵攻を機に生じたものではありません。安倍政権下の2014年には、閣議決定により憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使を容認、その後、2015年には集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法が成立しました。その後の菅政権下でも、2021年4月16日に出された日米共同声明において、中国により台湾が侵攻された場合にはこれに対する米国の軍事介入に日本が事実上加勢することが約束されました。このように、改憲に向けた憲法9条の機能の破壊はこれまですでに進められてきたものであり、ロシアによるウクライナ侵攻により改憲の必要性が生じたものではありません。私たちは、ウクライナの惨状を目の当たりにした今だからこそ、改憲に向けた動きはそれ以前からあったことを踏まえ、岸田政権の目指すものの本質は何なのか、ロシアをウクライナ侵攻まで追い詰めた背景には何があるのか、そのことを冷静に分析するこが重要であると、今一度改めて認識しなければなりません。

 6月22日には参議院選の公示がなされることが見込まれていますが、この参院選において、改憲阻止の戦いは大きな正念場を迎えます。今回の企画は、改憲阻止の運動の面でも、貴重な機会となりました。この場をお借りして、改めて、ご来場いただいた皆様、そして渡辺先生に感謝の意をお伝えしたいと思います。誠に有り難うございました。

 前田・司会司会を務める前田ちひろ弁護士

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

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