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インボイス制度の問題点(弁護士 川岸卓哉)
2023年4月13日 木曜日
川岸弁護士については、下記ページをご覧下さい。
2023年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式として、「インボイス制度」が導入されることとなっている。これに対し、漫画家・アニメーション・声優・俳優の4つの団体が共同で反対の声明を発表するなど、多くの業界団体が反対の声明を発表している。インボイス制度は何が問題なのか。
1 インボイス制度の仕組み
インボイス制度では、仕入れ税額控除を行うために、取引事業者から登録番号が記載されたインボイス(適格請求書)を発行してもらう必要がある。インボイスを発行するためには税務署に登録し、課税事業者にならなくてはならず、課税売上高が1千万円以下の免税事業者、いわゆる小規模事業者が事実上取引から排除されるなどの不利益を被る可能性がある。コロナ禍で困難を極めた小規模事業者にとって、取引先を失うことは死活問題である。取引を得るために適格請求書発行事業者となれば、免税とならずに生活が圧迫され、逆に免税事業者であり続ける選択をすれば取引が減少する可能性があり、同じく生活が圧迫される。
2 インボイス制度は広く影響が及ぶ
インボイス制度による影響を受ける業種は、建設業の一人親方、独立系SE、フリーライター、個人タクシーの運転手、フードデリバリーの配達員、漫画家、声優、アニメーター等々、幅広い職業に及び、その中には低所得でやりくりをしてきた者も多いことから、事業者団体が反対の声明を上げる状況となっているのである。
その影響は、売上高が1000万円以上の既に納税を行っている課税事業者にとっても無縁のものではない。冒頭で紹介した漫画家・アニメーション・声優・俳優4団体の記者会見では、課税事業者にとって多大な事務負担が生じること、作画作業にアシスタントを活用する漫画家にとってはアシスタントに登録を強いるのか自らが仕入税額控除を断念するのかという選択を強いられるうえ、インボイス制度の導入により2~3割の事業者が廃業を検討しており作業の担い手を失いかねないことなど、多くの懸念が表明された。
3 消費税のインボイス制度は税負担の実質的な負担の公平に反する
そもそも、消費税は、所得の過多によらず国民に一律の税負担を強いるもので、低所得者ほど負担割合が高くなる「不公平税」として、導入時点においても大きな反対があった。1988年の竹下内閣で税収を社会保障に用いるとしたうえで消費税法が成立したものの、零細事業者に対する影響が重大なものとなることから、消費税の取り扱いについては、年間の課税売上高が3000万円以下の事業者であれば、消費税の納税義務が免除されることとされた。その後1000万円以下の事業者へと改悪され、零細事業者への負担が引き上げられるに至っている。インボイス制度の導入は、免税事業者からの適切な納税を進める公平な税負担を標榜していると言われることもあるが、小規模事業者の免税は所得税の基礎控除などと同様に税負担の実質的な公平に資するものである。
4 世界の流れに逆行するインボイス制度
新型コロナ禍や円安、物価の高騰など生活への課題が山積し、フリーランスや個人事業者が大打撃を受ける現状において、世界では消費税の減税が進められる中、日本では、インボイス制度の導入による増税は、さらなる生活困窮へと追い詰められる者が増大する可能性がある。日本の対応は世界の流れに逆行するものと言わざるを得ない。インボイス制度は、国民の大半を占める零細事業者・個人事業主へのさらなる負担やプライバシー侵害を押し付ける「弱い者いじめ」にほかならず、直ちに中止・廃止されるべきものである。
いつの時代も為政者による税負担に対し生活のために抵抗してきたのが人民の歴史であり、我々も声をあげなければならない。
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