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神奈川でも進行する「日の丸・君が代」の強制 /川口彩子 

2016年8月17日 水曜日

 卒業式・入学式の国歌斉唱時、教職員が起立しないと処分される―。

  2004年の卒業式から2005年の入学式に至るまで、東京都で、不起立や君が代伴奏拒否によって処分を受けた教員はのべ300人を数える。1回目の不起立は戒告処分でも、2回目以降は減給となり、4回目には停職となる。定年後に嘱託となった教員は、たった1回、わずか40秒の不起立で解雇され、翌年度の教壇から追われた。最近では、在職中に1回でも不起立を行った教員は、嘱託員として採用しないという事態となっている。

 石原都政の下、極めて強権的に行われてきた日の丸・君が代の強制であるが、神奈川県でも東京都の後を追うように、事態が進行しつつある。

  昨年、神奈川県教委は教育長名で、全ての県立学校長に対し、「入学式及び卒業式における国旗の掲揚及び国歌の斉唱の指導の徹底について(通知)」と称する通知を発令し、県立学校における日の丸・君が代の強制を強めてきた。

  2005年は、東京と同じような懲戒処分こそはなされなかったものの、卒業式・入学式には、監視役の県会議員の「招待」が行われ、初めて、学校ごとの不起立者の人数を具体的に問うアンケートが行われた。不起立を貫いた教員に対しては、校長・教頭が狙い撃ち的に呼び出しを行い、今後は起立するようにという強い「指導」がなされ、なかには教員に対し、なぜ起立しなかったのかという理由を問い質す学校や、立ったか立たなかったかの自白を求めるアンケートを実施した学校もあった。こうした具体的な動きは、昨年のレベルを遥かに上回るものであり、教員の意思決定の自由、思想良心にしたがった行動の自由を奪う「強制」であることは間違いない。

 今年9月20日、神奈川県教育正常化連絡協議会なる団体から「卒業式・入学式における国歌斉唱についての請願」が県議会に提出された。この団体は、新しい歴史教科書をつくる会の神奈川県の代表である小関邦衛氏が同じく代表を務める右翼的な団体である。その請願の要旨は、不起立の教員は処分しろ、君が代斉唱には指揮を行いピアノで伴奏でしろというものであり、請願の理由の中には次のようなフレーズがある。

  「国歌斉唱時に起立しないことは、国歌に対する最大限の侮辱であり、露骨な冒とく行為で、決して許されないというのが世界の常識です。公人である教職員が、このような非常識な行為を授業の一環である式典において生徒の面前で行うことは、生徒の学ぶ権利を侵害し式を混乱させるものといわざるをえません。こうした事態を放置すれば、教育委員会の指導は無視され、混乱が拡大することは必至です。」

  実は、この神奈川県教育正常化連絡協議会は、昨年も神奈川県議会に対し請願を提出した。その請願は、東京と同じような形式(壇上正面に日の丸を掲揚、君が代斉唱時は日の丸に向かって起立して斉唱、君が代斉唱はピアノ伴奏による、舞台壇上で卒業証書を授与、教職員が校長の指示に従わない場合や式典を妨害した場合は服務上の責任を問う)でやれというものであり、自由法曹団神奈川支部や青年法律家協会では対抗する陳情も提出して、請願採択阻止をねらったのであるが、神奈川県議会は、この請願を賛成多数で採択した。現在の状況では、教育のことも憲法のことも世界の常識も何も分からない議員たちによって、今年の請願も採択されかねない。

  教育基本法10条1項は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と定めている。このような請願を採択して、県教委に対し教員の処分を迫る県議会は「不当な支配」そのものである。
今年7月27日、神奈川県立高等学校、神奈川県立養護学校の教職員107名が原告となって、神奈川県(神奈川県教委)を相手に「国旗国歌忠誠義務不存在確認訴訟」を提起した。

  国歌斉唱時に起立するか否かは、個人が国家とどう向き合うか、君が代をどのように評価するかという問題であり、憲法で保障される思想・良心の自由の内容そのものである。このような自由が教職員に保障されることはとても大事なことで、教職員の自由なくして児童・生徒の自由はありえない。いま、学校内の自由が脅かされている。原告107名という数に、教職員の危機感が表れている。卒業式・入学式は、国家のためのものではなく、生徒のためのものである。学校内の自由をまもり、生徒が思い出いっぱいに学校を巣立っていく卒業式、期待に胸をふくらませて門をくぐる入学式を全力でまもっていきたい。

投稿者 川崎合同法律事務所

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