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裁判員裁判体験記/石井眞紀子 2010.6
2016年8月17日 水曜日
2009年5月から、裁判員裁判制度がスタートしました。
もしあなたが、裁判員候補者となったら、どうしますか?
お仕事や育児などの都合で辞退を希望しますか?
それとも、覚悟を決めて、3日~5日もある連日の裁判に、じっくり取り組んでいただけるでしょうか。
当事務所の弁護士にも、続々と裁判員裁判対象の国選弁護事件がまわってきています。私も、先日、事務所のもう一人の弁護士と共に一件担当しました。
連日の裁判は、弁護人にとっても過酷な経験でしたが、一般の皆様にも負担は非常に大きいと思います。それでも、もし、裁判員の候補者になってしまったら、ぜひ積極的に刑事裁判というものを体験していただきたいと思うのです。
私が担当した裁判のおおまかな流れは、以下のとおりでした。
■1日目
午前中 裁判員候補者選定手続
裁判員候補者の方々の面接の後、コンピュータによる抽選が行われ、その中から裁判員6名と、補充裁判員となる2名の計8名が選ばれます(人数は事件により異なります)。
面接といっても、6~7人程度の集団で何回かに分けて行われ、辞退の希望など特に裁判官に話をしておきたい人だけが、個別に呼ばれて話す機会があります。
辞退が認められた人、抽選にはずれた人は、その時点で帰ることができます。幸か不幸か抽選に大当たりした方は、裁判官から別室でさらに説明などを受けて、午前中は終了です。
午後 公判開始
午後からすぐに公判開始です。裁判員の方は、裁判官の横に用意された壇上の席に座ります。
この日のメインは、検察官による立証です。証拠の内容を逐一説明したり、朗読したりという作業が続きます。時間は、1時間程度。検察官は、一般の方にわかりやすいように、一覧できる資料を用意し、画面を駆使しながら、熱心に説明していました。
続いて弁護人の番です。
弁護人は、検察官の立証は十分かどうかという観点から、その矛盾点を突いて争ったり、事実に争いのない事件であれば、被告人に有利な事情などを立証したりしていきます。私もプレゼンテーションをがんばりましたが、果たして裁判員の方にわかりやすく伝わったかどうか。
これで一日目は終了です。
■2日目 証人尋問
朝から夕方まで、計3人の証人の尋問が行われました。
途中、裁判官と裁判員が、自由に意見を交換する「評議」が行われます。この日は、評議の時間が2時間程度取られていました。評議で何を話したのかは、守秘義務があるので一切秘密。私たち弁護人も、知りたいところですが知ることはできません。
■3日目 被告人質問その他
被告人の登場です。弁護人から、30分程度、被告人に質問をした後、検察官が質問します。そしてその後は裁判官、続いてこの頃になると、裁判員の方も慣れてきたのか、いくつか質問をしていました。
その後、これまでの裁判の経過をふまえて、検察官が改めて、被告人にはどのような罪を科すべきかという意見を述べます。続いて弁護人も、事件や被告人に関する同情すべき事情などを述べて、刑を軽くするべきとの意見を述べます。もちろん、事件によっては、検察官の立証の矛盾を突き、合理的疑いを差し挟むことによって無罪を目指します。
最後に、被告人に対し、最後に言っておきたいことはありますか、との問が裁判長よりなされ、被告人が意見を言ったり言わなかったり(黙秘権がありますので)で終了です。
裁判員の方は、ここで評議室に戻って、裁判官と一緒に評議します。
■4日目 判決
判決は、午後3時に予定されていて、時間ぴったりに言い渡されました。
もちろん、裁判員の方は、朝から3時まで、みっちり裁判官と評議です。
裁判の終了後は、裁判員の記者会見が行われたようです。まだまだ制度に対する関心が高いためか、連日記者を含めた傍聴人がたくさん傍聴していました。
ところで、刑事裁判というのは、いろいろなルールが厳しく決められていて、一般の方には実は非常にわかりにくい手続だと思います。下手すると、職業裁判官と一緒に評議といっても、裁判官がルールを説明するだけで終わってしまうかもしれません。今回私が担当した事件でも、「もしかして、評議の間中、裁判官が1人(いや3人ですが)でしゃべっていたのでは?」などと勘ぐってしまうような判決が出ました。つまり、判決の判断も、その理由も、これまでの職業裁判官による刑事裁判と、ほとんど変わるところがなかった、ということです。
裁判員裁判は、通常の事件よりも明らかに時間がかかると言われています。全国で裁判員裁判事件が滞留しているとのニュースも耳にします。弁護人も複数選任される例が多く、検察官もプレゼンの為に相当の準備をすると思われ、1件あたりで考えても相当額の税金が投入されています。裁判所の一角が、裁判員裁判対応のために、素敵に改装されたのも驚きです。裁判員裁判対策室だったか、大きな部屋まで出来ていました。これはまさに、一大国家的プロジェクトなわけです。
そんなプロジェクトが、果たして裁判官が市民に手続を説明し、市民が頷いているだけの場に終わってしまっていいのかどうか。また、市民感覚といいつつも、実は単純な応報感情からむやみに厳罰化に走っていないかどうか。対象事件に性犯罪が含まれているが、被害者のプライバシーへの配慮は十分なのかどうか。被告人が、適正公平な裁判を受ける憲法上の権利は全うされているのかどうか。等々。いろいろな問題点を抱えたままスタートした裁判員制度は、未だ関係者全員が手探りで進めている状態です。この新しい制度の行方は、これから選ばれる裁判員の皆様の活躍にもかかっているとも言えるのです。
裁判員制度は、施行3年経過後に見直しが予定されています。制度にかかわる弁護士として、そのときをにらんで問題点を改善していく努力を惜しまないつもりです。皆様も、もし裁判員候補者になってしまったら、ぜひ、辞退などせずに、体験してみることで一緒にこの制度の問題点を考えていきませんか。
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