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テクノプロエンジニアリング整理解雇事件判決の光と陰/ 三嶋 健 2011.6
2016年8月17日 水曜日
1 判決の意義
2011年1月26日、横浜地方裁判所第7民事部は、原告に対する整理解雇を無効とする判決を下した。
被告テクノプロ・エンジニアリングの親会社であるラディアホールディングス(旧「グッドウィル・グループ」)は、2009年2月に、被告を初め、グループ傘下の派遣会社シーテック、CSIに4000名の解雇を指示し、被告は4月から、その指示を実行した。派遣契約が切れて待機が1か月となった社員はすべて解雇の対象となり、有無をいわさず解雇されたのである。
判決は、原告の解雇を無効とすることにより、4000名の解雇を断罪したのであるから、その影響は計り知れない。
2 本件整理解雇の特徴
本件解雇は会社が黒字である中で実施されたものであり、そのためか、被告は、整理解雇でありながら、財務資料を一切証拠として提出しなかったところに、際だった特徴がある。
被告は、黒字での下での整理解雇を正当化するために、「新理論」を主張した。①会社にとって、待機社員の存在は打撃となるので、待機社員の整理解雇はその特殊性が考慮されるべきだ(派遣労働特殊論)、②本件整理解雇は将来の経営危機を回避するために予防的に解雇することも認められるべきだ(予防整理解雇論)。③親会社が危機であれば、その再建のために、不可分一体である子会社の従業員の整理解雇も許されるべきだ(親子会社一体論)、④希望退職募集はかえって人材流出を招く異なるので必要不可欠とはいえない(人材流出論)等である。
3 判決の内容
(1) 厳格に解釈する姿勢
判決は、整理解雇が正当とされるために、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性が必要であるとしつつ、それらが一つでもだめなら解雇が無効となる要件ではなく、解雇が正当であるための要素としたが、整理解雇は、経営上の必要性に基づく労働者の責めなき解雇だから、その正当性は厳格に判断される必要があるとした。判決は他の裁判例と同様、「要素」論を採用しつつ、その正当性を認めるためには、厳格に判断すべきだとした点は評価できる。
(2) 人員削減の必要性について
人員削減の必要性につき、待機率の増加など被告の経営状況は悪い方向に向かってはいるが、被告に切迫した人員削減の必要性はないと断じた。人員削減の必要性につき、「切迫」を条件とした点は評価できる。被告の予防整理解雇論を排し、また、当然のことであるが、親会社の事情は考慮せず、親子会社一体論を認めなかった。
(3) 解雇回避努力について
解雇回避努力についても、希望退職の募集をしなかったことを重く見て、その努力をつくしていないと断じ、被告の人材流出論を排した。
(4) 人員選択の合理性について
人員選択の合理性についても、13年間も継続的に勤務し始めて待機となった原告を「待機社員」というだけで、整理解雇の対象とすることは不合理であるとした。
(5) 手続きの相当性について、被告が財務資料を出さなかったことを指摘し、原告側には、不満が残るかもしれないがと断りながらも、被告の対応が明らかに相当性を欠くとまでは言えないとした。
以上、判決は、本件整理解雇につき、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性を認めず、原告側の圧勝であった。
(6) 判決の問題点
賃金について、判決は、残業代を含めた「平均賃金」を認めず、残業代抜きの、ほとんど「基本給」のみの金額をしか認めなかった。判決は、基本給があまりに低いため、残業代によってかろうじて労働者の生活が成り立っている実態に目を向けていない点に問題がある。
また、被告は、控訴した上、賃金請求権につき、仮執行の停止の申立をし、裁判所がそれをあっさり認めた点に問題が残った。その結果、原告は、本案判決前に勝ち取った仮処分が判決の言い渡しにより失効し、また、判決の賃金請求の仮執行の執行停止が認められてしまったため、賃金の支払いを法的に請求できる手段を失い、かえって窮地に陥ってしまったのである。かつて、横浜地裁は、賃金については、労働者の生存権を保障するものとして、仮執行の停止を認めなかった。この点は、裁判所の解雇された労働者の実態に対する無理解を示すものであり、大いに問題が残る。
4 東京高裁へ
弁護団全員が、原審判決の不十分な点を質し、労働者の権利の大いなる前進に寄与する覚悟であり、完全勝利のために闘志を燃やしている。
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