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捜査側丸儲けの刑事司法改革/岩村 智文 2014.9
2016年8月17日 水曜日
本年7月9日法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」は、「要綱(骨子)」を発表した。これは来春の通常国会に法律案として上程される予定になっている。3年前に発足した特別部会は、村木、足利、布川、氷見、志布志、東電OL、袴田事件などの数多の証拠捏造・冤罪事件を生み出した警察、検察の取調べ中心の捜査のあり方を根本的に変える方針を打ち出すものと期待されていた。しかし、残念ながら、7月9日の「要綱(骨子)」は、それを裏切るものだった。
今、世界の流れは、取調べへの弁護士立会い、録音・録画、捜査側証拠のすべての開示、身柄の解放など被疑者・被告人の権利を厚く保障する方向にある。東アジアでも韓国、台湾がその流れの中にある。ところが日本は、人質司法と言われる状況にあり、長期間被疑者を拘束し、密室での取調べが行われている。テレビの警察ものなどでは、それが当然であるかのごとく描かれている。こうした被疑者・被告人の権利をないがしろにする取調べの結果が多くの冤罪事件を生み出している。
◆可視化は2パーセント
特別部会が打ち出した方針は、期待に反し、これまでの取調べを維持したまま警察がその権力をさらに強めるものとなった。取調べの録音・録画(可視化)は、裁判員事件などに限られ、全刑事裁判の2パーセント(検察が取調べた事件の中では0.15パーセント)にすぎず、ほとんどの事件では録音・録画は義務づけられていない。また、任意同行による任意取調べといった事実上の強制的取調べは録音・録画されない。証拠開示は、公判前手続きに付された事件のみで不十分な証拠の目録が示されるだけで、すべての証拠開示は、当初から議論の対象ともならなかった。新聞各紙は、「冤罪事件置き去りに」(神奈川新聞)といった論調が多く、取り調べ可視化(録音・録画)すべしと国民が望んだ制度改革(録音・録画の義務づけ)が実現しなかったことを憤っている。ところが、こうした情けない「改善」に比べて警察・検察が得たものは大きかった。
◆広がる盗聴
特別部会は、警察がほとんどの犯罪で盗聴できるようにし、盗聴しやすくする手段を与えた。盗聴は、もともと憲法に違反し、ひとの秘密をのぞき見するものなのだが、盗聴法で何よりも問題なのは、これから起きるであろう「犯罪」を盗聴する仕組みになっていること。捜査は、犯罪が発生してから開始される、これが今の刑事手続きの原則。ところが盗聴法は、犯罪が起きてもいないのに、捜査が始められる。こうした手法を認めると、怪しいということで警察の強制捜査(捜索・差し押さえなど)が行われる世の中になりかねない。また、盗聴はこれまで通信業者の立ち会いが必要だったので、事実上東京でしか行われなかった。それが今回機械化されるので、全国どこの警察署でも盗聴が可能となる。予算や人員も大幅に増えるだろう。警察の丸儲けといわれるゆえんである。
◆危険な司法取引
警察や検察が得るものはほかにもある。それは、汚職や詐欺などの事件で認められる司法取引だ。逮捕されたAが「事件はBの指示だった」と供述する代わりに、自分を不起訴にしてもらう、こうしたことが可能になる。これは、裏で糸を引く首謀者を暴き出すのに役に立つといわれるが、危険も大きい。自分の刑事責任を軽くしてもらいたい、ということで、嘘を言って無関係の第三者を犯罪者に仕立てるおそれも大いにあるからだ。冤罪事件もここから起きかねない。
これまで述べてきたとおり、今回の「要綱(骨子)」には、見過ごすのできない問題がある。来春の通常国会に向け、盗聴法の改悪などに反対する動きを強めよう。
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