トピックス
日本通運株式会社 「無期転換ルール」潜脱雇止めに対する提訴(弁護士 川岸卓哉)
2018年8月1日 水曜日
2013年7月1日より、原告は、被告日本通運株式会社川崎支店に、1年契約更新の事務員として採用された。その後、契約更新は4回されたものの、通算契約期間が5年を経過し労働契約法18条の無期転換申込権が発生する前日、本年6月30日をもって雇止めにより退職となった。いわるゆ「無期転換ルール」潜脱事件に対し、7月31日、横浜地方裁判所川崎支部に提訴した。
・ヤフーニュース 日本通運で雇い止め 男性提訴
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6291831
・朝日新聞 無期転換直前に雇い止め「不当」 日通元従業員が提訴
https://www.asahi.com/articles/ASL704FXVL70ULFA00R.html
・毎日新聞 日本通運 雇い止めの契約社員が提訴
https://mainichi.jp/articles/20180801/ddm/012/040/189000c
・弁護士ドットコム
無期雇用まで「あと1日」の雇い止め、無効訴え日通を提訴…原告「娘は涙を流した」
https://www.bengo4.com/c_5/n_8303/
・テレビ神奈川 「無期転換逃れか 元従業員 雇い止めの無効求め日本通運を提訴」
http://www.tvk-kaihouku.jp/news_wall/post-3659.php
1 事件の概要
(1)当事者
原告:日本通運川崎支店に事務職として勤務していた男性(30代)
被告:日本通運株式会社
支援:全川崎地域労働組合
(2)有期契約締結の際の不更新条項についての説明「事業所が赤字だから」
2013年4月1日、労働契約法18条「無期転換ルール」が施行された年に、本件の有期雇用は契約された。
このため、契約書には当初から、「当社における最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはできない(契約更新上限2018年6月30日)」と記載された不更新条項が入れられていた。
しかし、川崎支店の所長は、原告に対して、本件不更新条項について、「現在、川崎支店の事業所が赤字のため、5年以内に事業所が閉鎖する可能性があるので、現状は不更新条項が入っている。経営状態によっては5年以上就労可能である」旨説明していた。
(3)黒字転換し経営上雇止めの必要性がないにも関わらず無期転換申込権を免れるため雇止め方針を強行する日本通運
その後、日本通運川崎支店は、黒字に転じた。契約更新の際にも、所長から、原告に対して、「不更新条項に関わらず長期間働けるように動いている」旨説明を受けたため、契約更新をしていた。現に、原告の働きぶりは評価され、人手不足解消のため、所長は原告が川崎支店で働けるように諸方面に働きかけていた。
しかし、日本通運は、全国一律の方針として、労働契約法18条の無期転換ルールが施行された2013年4月1日の時点において、3年以上継続して契約更新をしている有用契約の社員は無期転換申込権利を認め、3年未満の有期契約の場合には認めない旨方針をとった。そのため、2018(平成30)年時点で有期雇用契約の期間が5年未満の原告のような労働者については、無期転換権発生前に雇止めをすることとなっており、例外は作らないという姿勢を貫き、雇止めを強行した。
(4)無期転換ルール潜脱目的の雇止めは労働契約法19条により無効
① 労働契約法19条の定め 合理的期待がある場合には有期契約の雇止めはできない
有期契約に更新上限が制定され、被告が契約期間満了により有期契約の更新を拒絶した場合であっても、有期契約が反復して更新され期間の定めのない労働契約と同視される場合や、有期契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合など、雇止めが客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときには、更新拒絶は無効であり、契約は更新される(労働契約法19条1号・2号)。
② 雇用継続への合理的期待の存在
原告は、被告との有期契約の締結及び更新に際して、本件不更新条項が入っている理由として、川崎支店が赤字の事業所であり事業継続が困難である可能性があるからであるという旨の説明を受けていたが、現在川崎支店は赤字から黒字転換をしている。また、所長は、原告に対して、本件不更新条項の上限に関わらず原告の就労を継続できるようにする旨の説明をしており、原告は4回4年に亘って反復継続して契約を更新していた。
したがって、原告には、本件不更新条項の入った契約書に署名をしているものの、これに反する契約継続に対する合理的な期待を持たせるような説明がされていたのであるから、原告が真に自由な意思に基づいて契約不更新に同意していたとはいえず、雇用継続の合理的期待があったといえる。
③ 無期転換ルール潜脱目的は客観的合理的理由・社会的相当性はない
日本通運が原告の契約更新を拒絶した理由には、人員削減や業績不振などの経営上の必要性はなく、原告の勤務態度も評価され、川崎支店の現場としてはむしろ雇用継続が切望されていた。結局、本件雇止めは、被告における全社的な社内方針である「無期転換権発生前に有期労働契約社員を雇止めにする」ことを強行したもので、無期転換ルールの潜脱を目的としたものに他ならない。
そもそも、労働契約法18条に定められた無期転換ルールの目的は、有期労働契約労働者の雇用の安定を図ることにある。有期契約の社員は、有期労働契約が反復更新されて長期間にわたり雇用が継続されていたとしても、常に更新時での雇止めの不安にさらされる地位にある。そのため、有期契約労働者から使用者に対して待遇改善を求めた場合には報復的な雇止めの恐れがあり正当な権利行使に対して行動を抑制せざるを得ず、非正規労働者の低い労働条件を生み出す要因となっていた。また、有期契約を何年も更新し続けても、非正規労働者としては低い待遇しか得られないため、経済的な自立が困難となり、将来の職業生活の展望が抱けず、生活の安定も阻害され、社会不安の元凶となっていた。こうした有期契約の現状を踏まえて、無期転換ルールは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的として、立法されたものである。
本件雇止めは、無期転換ルールの法の趣旨を真正面から否定し無期転換を阻止することに目的があり、客観的合理的理由、社会的相当性を欠き、無効であるのは明らかである。
2 2018年問題 横行する無期転換ルールの潜脱に歯止めを
労働契約法18条は、不安定雇用に晒される非正規社員の生活の安定のために立法されたが、法の趣旨に反し、無期転換申込権が発生する2018年には、大量の雇止めが横行し社会問題になりつつある。日本通運においても、全社的に無期転換前の雇止めを強行しており、東京地方裁判所において、別件訴訟も提訴されているところである。厚生労働省は「無期転換を避けることを目的として無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいとは言えない」とし、無期転換ルールを免れる目的で雇止めをしているような事案を把握した場合には、都道府県労働局においてしっかりと啓発指導に取り組む方針を示している。本件のように、当初より不更新条項が契約書に記載されていた内容でも、実態は契約更新への期待を抱かせる発言がされ、それを信じて、立場の弱い労働者は契約締結せざるを得ないものは、本件以外にも多数存在する。原告は、泣き寝入りをせず、無期転換ルール潜脱を告発すべく、本件提訴に至った。
3 原告の想い(記者会見発言原稿)
私は、2012年9月に、派遣で日本通運を紹介され、1年契約の事務職として、川崎支店で働き始めました。仕事は、トラックの配車や配送品の数の割り振り、客先対応、電話・伝票などの事務作業でした。派遣契約満了前の2013年7月、私の働き振りを認めてくれた日本通運からの要望で直接雇用となり5年働いてきました。
事務所の方々はもちろん、携わった業者、取引先の方も、とても良くしてくれたからこそ、これまではもちろんの事、この先もがんばって行きたいと思っていました。
私の場合派遣から直接雇用に転換する際、契約書に「2018年7月を超える更新はしない」と明記してありました。
私は、5年しか働けないのでは困ると思い、事業所長に「この5年上限は消えずに切られるのですか?」と質問しました。その際事業所長から、「今は赤字店所なので、事業縮小・もしくは事業所自体なくなる可能性がなくはないので、こういう文言にしてある。経営状態によっては長く働くことが可能である。」と説明を受け、今後の状況によって、5年の上限が変わるのならとサインをしました。
業務にもなれた頃、事務所の仲間に相談をした所、「立ち上げからほとんど赤字だけど、毎年更新で10年以上いるから大丈夫」の言葉も受け、事業所長に都度確認した際にも、「色々な方向で動いている」「組合の上役にも相談している」等の発言を頂き、5年しか働けないということはないだろうと安心していました。
その後メインの業務をしている方が定年となり、私がその業務を一手に引継ぎました。それまでやっていた業務も継続して担当しましたので、事務所では一番の仕事量となりましたが、皆の助けもあり、多忙ながらも業務をこなしていました。
最初にお世話になった事業所長が異動になる際、「更新上限の件は私の時には出来なかったが、後任にはしっかり伝えておくから」と言われました。
後任の新しい事業所長に確認した際も、「前任から業務の件、更新の件はちゃんと聞いてる、色々動いてがんばってるから」の言葉を頂き、私は5年上限をなくしてもらえるものと思っていました。
2017年7月の更新の際、まだこの上限は消えないのですか?と事業所長に確認した際も「この事務所には岩本さんが必要だから、 色々動いているからもう少し待ってくれ」といわれておりました。
しかし、2018年3月末に事業所長から話があるのでと呼び出され、「がんばったけど、今年以降の更新は会社の方針で出来ないと支店から言われた・・・。力になれずに申し訳ない。」と頭をさげられました。
家族に今後どうなるか分からない旨を告げた時に、心中を察し静かに涙をしていた娘を見た時に、諦めず、会社に話を聞いてもらい、何とか更新が出来るよう相談してみようと思い、有期雇用に纏わる事を寝ずに調べていきました。
調べていく内に、同じような境遇の人がたくさんおり、厚生労働省も望ましくないといっている事案だと分かり「このまま泣き寝入りはできない」と思い行動を始めました。
4月に入り支店の管理課長との話しの場を設けて貰い、私の仕事量、雇止めの法理を踏まえて、契約満了以外の理由と更新が出来ないかを相談しましたが、「会社としては2013年時点で過去3年以上働いている者以外は5年が上限と決めている」とその場で拒否されました。
その内容を職場の仲間に報告した際に、「この事務所どうなるの?」「誰がその仕事量やるの?」と戦々恐々としており、涙を流す人もおりました。
今は、昼食を摂る時間もないくらい忙しく、新たに契約社員を入れる話になっているそうです。
私のところにも、職場の仲間や客先から、仕事の内容を尋ねる電話がかかってきています。
私は日本通運の組合には入っておらず、何度かメールにて管理課長を通し会社に訴えてはいましたが話しが進みませんでした。そこで、労働局に相談をしにいったところ、「このような相談が増えていて、指導、あっせんはしているけど大手は例外作りたくないからね・・・」と言われました。それでもお願いをして、あっせんをしましたが、当初赤字だったのはあったが書類にサインしているから話しは満期終了以外ない、と簡単に終わってしまいました。
個人では話しも聞いてもらえないと思い、弁護士相談を経て組合に入り、団体交渉までさせて貰いましたが、らちが明かず、今日この場にいたるまでになりました。
私の職場の有期契約社員は、1年毎の更新で10年以上働いていました。この法律がなければ、私も5年で切られることなく、もっと長く働くことができたと思います。労働者の雇用の安定を図るために作った法律を使って、かえって労働者の雇用を不安定にするのは、おかしいと思います。
私の家族は別にしましても、同じような「職場に必要な人材」までも無期転換したくないだけで雇止めにあわせるのはやめていただきたいと思い、提訴に踏み切りました。
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