トピックス
建設アスベスト訴訟の到達点と今後の戦い(弁護士 西村隆雄)
2020年1月31日 金曜日
1 この間の前進
この間、昨年11月に、福岡高裁1陣判決が下された。
同判決では国の責任に関して、防塵マスクの着用、警告表示・掲示、特別教育の義務付け懈怠の違法を認めた。そして懸案の一人親方の責任について、安衛法の保護対象はあくまで「労働者」であるが、国が適切に規制権限を行使していれば、被害の発生を防ぐことができたと評価しうるのであれば、一人親方の関係でも国賠法上の違法を認める余地があるとしたうえで、①曝露の危険性は一人親方を含む労働者全体に及ぶこと、②規制によって享受する利益は労働者と一人親方で変わるところはないこと、③一人親方と労働者の就労実態の同一性から、一人親方に対して賠償責任を負わないと解するのは、正義公平の観点から妥当でないと断じた。
一方建材メーカーらの責任に関しても、1975年時点での予見可能性、警告表示義務違反を認めたうえで、マーケットシェアが20パーセントを超える場合にはその建材が被災者に到達したと認めることができるとして、被告企業4社の賠償責任を認めた。
国の責任に関しては、なんと地裁、高裁合わせて11連勝となり、一人親方の責任についても、東京高裁、大阪高裁京都ルート、同大阪ルートに続いて4連勝、また建材メーカーの責任についても、神奈川東京高裁判決、大阪高裁ダブル判決に続いて高裁段階で4勝目の判決となった。
一方1月30日、神奈川2陣訴訟が結審を迎えた。
建材メーカーの責任をめぐっては、民法719条1項後段の類推適用による共同不法行為の成立に関し、この間各地で出された高裁判決を踏まえ、メーカーの加害行為の到達については相当程度以上の可能性で足りること、その立証についてはマーケットシェアを活用すべきことを明らかにした。
最大の焦点である一人親方の責任について、岩手県立大の柴田先生の証人尋問をかちとり、一人親方の就労実態につき、労働者との対比で歴史的かつ実証的に解明して、一人親方勝訴に向け、大きく道を開くところとなった。
判決言い渡しは、8月28日午後3時と指定された。
2 国の対応
こうした中で、原告を先頭に、一貫して、基金制度の創設による全面解決を求める運動が取り組まれてきた。
これに対して被告の建材メーカーらは、ほぼすべての企業が交渉に応じ、主要企業のうち11社が、国から制度提案があった場合、前向きに検討することを表明している。
しかし一方の国は、大阪高裁4民、3民での結審に際しての和解打診、和解勧告を拒否したのをはじめとして、その後もいたずらに控訴、上告を重ねるばかりで、解決に向かう兆しは一向に見られない。
これは国が司法解決方式を念頭に置いているためであるとみられる。すなわち、国は、仮に来るべき最高裁判決で敗訴しても、当該訴訟で判決に従って支払いを行うのは当然として、2陣以降、さらにはその余の被災者についても、制度を創設して行政対応で救済するのではなく、いちいち提訴をさせ、訴訟上の和解に従って支払いを行う方式を念頭に置いていると考えられる(泉南アスベスト方式)。しかし泉南型被害との決定的違いは、本件建設アスベスト被害はまさに現在進行形の被害で、今なお新た被害者が続々と生まれており、今後の被害者は2万人とも3万人とも言われている。
これだけの被害者を前に, いちいち訴訟を提起しないと救済を受けられないというのは,救済にとって重大なハードルとなること疑いない。この点、NHKの報道番組『時論公論』でも, 「司法は本来、双方に争いがあるときに紛争の解決を目指すもので, 行政が迅速に救済を行うのが望ましい。司法は行政の補助機関ではありません。」としているとおりである。
さらに本件被害に対する直接的な加害者である建材メーカーについては、最高裁の判断が出てもこの基準に従ってその余の被災者についても和解解決することは予想できず、結局、建材メーカーの負担を欠いたまま、国のみがその負担部分について国民の血税から被害救済を行うことになる司法解決方式は、あまりに不合理であり、到底国民の理解を得られるものではない。
3 今後のたたかい
現在最高裁には神奈川1陣訴訟をはじめ5件の各地1陣訴訟が係属しており、遅くとも今年中には判決が見込まれている。最高裁に向けては、メーカー責任、一人親方責任に関する学者意見書を提出するのをはじめ、公正判決要請署名を積み上げての要請行動が取り組まれている。
そしてこの3月には、全国一斉に3陣提訴を行って、被害の広がりをさらにアピールしていくことが予定されている。
こうした中で、4月17日の東京地裁東京2陣判決とこれに続く8月28日の神奈川2陣東京高裁判決を大きなチャンスとして全面解決を迫り、来るべき年内の最高裁判決に際しては、なんとしてもこれを契機に補償基金制度の創設による全面解決をはかるべく運動、取り組みを飛躍的に強化していくことが求められている。
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