トピックス
AIに訴状を書かせるのは危険? AI頼みの本人訴訟で損害賠償を請求される法的リスクと「ワークスロップ」の落とし穴(弁護士 山口毅大)
2026年6月4日 木曜日
山口弁護士については、こちらをご覧下さい。
昨今、法務の分野においてもAIを利用されることが増えています。諸外国では、代理人弁護士に依頼せずに提訴して訴訟を行う、いわゆる、本人訴訟が増えているとの報道もあります。
確かに、現在のAIの能力には、目を見張るものがあり、簡単な文書作成において、ある程度のクオリティの生成物ができる場合もあり、弁護士の中には、訴状、準備書面等の書面のたたき台をAIに作らせる人も出てきています。
しかし、注意しなければならないことは、それでも、AIに作らせた書面をそのまま利用してはならず、専門知識を有する弁護士がチェックすることが必要である、ということです。すなわち、現在のAIにおいても、その仕組みや能力等からすれば、生成した文章にハルシネーションが生じている危険性があります。そのため、その出典や論拠を明らかにさせた上で、その出典や論拠を確認する必要があります。特に、昨今の文章は、その形式や論理において、もっともらしく作成されますので、専門知識を有する弁護士でなければ、条文、判例、法理論の正しさやそれらを踏まえた上での訴訟戦術の有効性について、妥当性を判断することが困難となっております。例えば、利用者に有利な判例を引用している文書が生成された場合において、実は、その判例法理は全くのでたらめで、そもそもその判例が存在しない、ということがあります。また、証拠として提出しようとする文書に、利用者に有利になるような具体的な記載がないにもかかわらず、あたかも、利用者に有利な記述があるかのように、AIが主張書面を作成することもあります。
このような場合に、通常人であれば、AIで作成された内容が事実に反する、または、根拠がないことを容易に知り得たにもかかわらず、提訴した場合には、訴権の濫用として不法行為責任を問われる危険性があります。
ここで、訴権の濫用について、説明しますと、訴えの提起は、憲法32条で保障された裁判を受ける権利に基づく正当な行為ですから、提訴者本人に高度な調査義務や検討義務を課し過ぎることはないようにする必要があります。とはいえ、不当な訴えの提起は、訴えられた者に応訴の負担を強いることになります。そこで、判例では、提訴者が自らの権利主張が事実的・法律的根拠を欠くことを知りながら、または、通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて訴えを提起した場合など、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに」訴えの提起が違法となるものとしています(最判昭和63年1月26日民集42巻1号1頁)。
訴権の濫用が認められるハードルが高いといえども、AIを利用して、事実に反する主張書面や証拠を大量に提出し、被告に応訴の負担を与え、打撃を与えようとするような目的で訴訟を強行されたと評価された場合には、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき」に該当し、訴えの提起が違法となり、本人訴訟をした本人が不法行為責任を負う危険性があります。
さらに、裁判例において、主張書面等の表現が、相応の根拠もないまま、訴訟追行上の必要性を超えて、著しく不合理な表現で主張し、被告の名誉を毀損した場合には、不法行為責任を負うとしたものがあります(水戸地判平成13年9月26日判例時報1786号106頁)。
この裁判例の考え方は、AIで作成した文書表現にも当てはまると考えられますので、たとえAIで生成した文書表現であっても、相応の根拠もないまま、訴訟追行上の必要性を超えて、著しく不合理な表現で主張し、被告の名誉を毀損した場合には、不法行為責任を負う危険性があります。
現状、このような法的判断を正しく行うためには、弁護士といった専門家でなければ、なかなか難しいと思われます。
では、AIを利用して作成した文章を弁護士に相談して、確認してもらえば大丈夫なのかといえば、一概にそうとはいえず、ワークスロップ(workslop)という状態を引き起こします。これは、2025年9月にハーバード・ビジネス・レビューで発表された概念であり、AIで生成した物があたかも整っているかのように見えるものの、実質的には、内容がない、不十分である状態のことです。
AIが作ったもっともらしい文章(ワークスロップ)を修正して法的に通用するものにするのは、ゼロから専門家が構築するよりも時間と費用がかかってしまうことが多く、結果的に依頼者様の不利益に繋がります。最初から弁護士にお任せいただくことも一案かと存じます。
AIの能力が著しく向上したとはいえ、ある専門性の高い領域においてAIを適切に利用するためには、その領域における専門的な知識を有することが重要となっています。これまで述べてきましたとおり、そのことは、法務分野でも同様であるということがいえると思われます。
ですので、AI時代だからこそ、専門家である弁護士にご相談ください。弊所では、専門家である弁護士が適切にAIを利活用することによって、より迅速かつ質の高い法務サービスを提供しております。ぜひお気軽にご相談ください。
投稿者
最近のブログ記事
- AIに訴状を書かせるのは危険? AI頼みの本人訴訟で損害賠償を請求される法的リスクと「ワークスロップ」の落とし穴(弁護士 山口毅大)
- 藤田温久弁護士が新かながわ(2026年5月3日・10日号)に寄稿しました
- 畑 福生弁護士がFMヨコハマに出演しました
- 中学校で議論に関する講義・ワークショップを行いました(弁護士 畑 福生)
- 高市首相 「馬車馬」発言について(弁護士 川岸卓哉)
- いよいよ山場を迎える 台風19号多摩川水害訴訟 (弁護士 西村隆雄)
- かわさき市民オンブズマンによる川崎市議会議員海外視察住民訴訟(弁護士 小林展大)
- 2026年劈頭にあたり 新年のご挨拶を申し上げます
- 畑福生弁護士が小田原市立下曽我小学校ホームページに掲載されました
- 不動産問題専門サイトを開設しました!
月別アーカイブ
- 2026年6月 (1)
- 2026年5月 (1)
- 2026年3月 (3)
- 2026年2月 (2)
- 2026年1月 (1)
- 2025年9月 (1)
- 2025年5月 (1)
- 2025年4月 (6)
- 2025年2月 (1)
- 2025年1月 (1)
- 2024年12月 (3)
- 2024年11月 (1)
- 2024年9月 (1)
- 2024年4月 (1)
- 2023年11月 (1)
- 2023年7月 (1)
- 2023年6月 (2)
- 2023年5月 (2)
- 2023年4月 (2)
- 2023年3月 (3)
- 2023年2月 (1)
- 2023年1月 (1)
- 2022年12月 (4)
- 2022年11月 (3)
- 2022年10月 (1)
- 2022年8月 (1)
- 2022年7月 (1)
- 2022年3月 (1)
- 2022年1月 (2)
- 2021年12月 (2)
- 2021年9月 (2)
- 2021年8月 (1)
- 2021年7月 (2)
- 2021年6月 (1)
- 2021年5月 (1)
- 2021年4月 (2)
- 2021年1月 (2)
- 2020年12月 (1)
- 2020年10月 (4)
- 2020年9月 (2)
- 2020年8月 (1)
- 2020年7月 (3)
- 2020年6月 (2)
- 2020年4月 (6)
- 2020年3月 (1)
- 2020年2月 (3)
- 2020年1月 (5)
- 2019年12月 (2)
- 2019年11月 (4)
- 2019年10月 (2)
- 2019年8月 (1)
- 2019年7月 (3)
- 2019年6月 (1)
- 2019年5月 (1)
- 2019年2月 (1)
- 2019年1月 (2)
- 2018年11月 (2)
- 2018年9月 (2)
- 2018年8月 (4)
- 2018年7月 (3)
- 2018年6月 (1)
- 2018年5月 (3)
- 2018年4月 (1)
- 2018年3月 (2)
- 2018年2月 (1)
- 2018年1月 (3)
- 2017年10月 (4)
- 2017年9月 (4)
- 2017年6月 (1)
- 2017年5月 (1)
- 2017年3月 (1)
- 2017年2月 (2)
- 2016年12月 (1)
- 2016年10月 (2)
- 2016年8月 (76)

