トピックス
メンタル疾患労働者を強制排除するNECディスプレイソリューションズ会社と意を通じた指定医 提訴の概要(弁護士 川岸卓哉)
2019年1月31日 木曜日
2018年1月28日、NECディスプレイソリューションズと、会社と意を通じた指定医によって、退職に追い込まれた事件について、提訴をしました。
神奈川新聞記事
http://www.kanaloco.jp/article/385245
産経新聞記事
https://www.sankei.com/region/news/190130/rgn1901300036-n1.html
1 事件の概要
本件は、被告NECディスプレイソリューションズ株式会社(「被告NECDS」)において、新卒採用で就労を開始した新入社員であった原告が、業務に起因して適応障害を発症したところ、被告は違法な逮捕解禁で原告の職場から強制的に排除し、その後主治医から復職可能の診断が何度も出されているにも関わらずこれを無視し、休職期間満了により退職に追い込んだという事案。これに対して、被告NECDSに対して、地位確認及びバックペイ、慰謝料等を求めると共に、被告NECDSと意を通じた指定医に対して、十分な聴取も必要な検査もないまま発達障害の診断をし、原告に対し障害者のレッテル張りをして、退職に追い込んだ行為に対する慰謝料を請求する事件である。
2 適応障害の発症と強制排除 指定医と意を通じた復職拒否
2014年4月、原告は、被告NECDS生産技術グループにおいて、大卒新入社員として就労を開始した。同グループにおいて原告は唯一の20代の若い新人であり、一身に期待を背負い、業務に務めていた。しかし、同グループにおける、原告に対するセクシャルハラスメント、違法行為への加担指示、上司の無理解な叱責等により、2015年5月頃より、原告に適応障害の症状が発症するようになった。
2015年12月、被告NECDSは、適応障害を発症した原告を職場から出すため、職場で業務従事中だった原告の抵抗を抑え込み、4人がかりで両手両足を抱えて逮捕、拉致し職場から追放した。その後も、被告NECDSは、原告の主治医ら専門医から適応障害は回復しており復職可能との診断が何度もなされ、個人加盟労働組合であるの電機情報ユニオンとの交渉が重ねられていたにも関わらず、一切、診断書を無視し、復職を認めず2018年10月31日付けで、休職期間満了による退職を一方的に通知した。
さらに、本件では、被告NECDSと、指定医が意を通じ、一体となって、必要な診断を行わないまま、結論ありきで「発達障害」の病名を付け、障害者のレッテル張りをし、障害者雇用枠でのNECグループ企業での採用をすすめ、これを拒否した原告を退職に追い込んだものである。
2 本件の社会的意義
(1)急増するメンタル疾患者に対しての復職支援の拒否を糾弾
今、わが国において、精神疾患の急増と、休職者への復職支援は社会問題となっている。厚生労働省においても、「心の健康問題により休業した労働者の職場支援手引き」が制定され、各企業において復職支援が進められているところである。しかるに、被告NECDSは、一度、業務に起因して適応障害という精神疾患を発症した労働者に対し、違法行為を用いて強制的に排除し、「復職可能」と診断する主治医の数々の診断書を徹底して無視し、交渉を重ねてきた労働組合と約束も反故にし、復職を拒否する態度を貫いており、極めて悪質である。
(2)急速に広がる「発達障害」の病名を利用しての職場からの排除
さらに、本件では、今、急速に社会においてひろがっている「発達障害」の病名を悪用し、労働者を障害者扱いにし、退職に追い込む手法も併用されている。
「発達障害」の病名の広がりの一方で、それぞれの「発達の個性」まで「障害」であり社会的に排除される風潮が危惧されている。このため、「発達障害」の診断を的確に実施すべく、近年では、診断アセスメントツールが開発されている。しかし、被告医師は、必要な検査や診断をほとんど行わずに、原告を「発達障害」という障害者とし、被告NECDSの職場排除に加担したものである。
3 原告の復職を認めない背景-NECグループの電機リストラ
(1)電機リストラ
本件が、大手電機メーカーNECグループで起きたことは偶然では無い。昨今、電機産業においては、選択と集中という名の下で、企業の雇用責任も社会的責任も顧みることなく、様々な事業から撤退を決めて、大量の労働者の職を奪っていく電機リストラが猛威を奮っている。犠牲になった正規労働者は、既に44万人にまで及んでいる。特に、その中で、NECの場合、目先の利益のために事業からの撤退を繰り返す縮小経営と、安易な人減らしリストラが顕著で、大手電機メーカーの中でも際立っている。
縮小経営の象徴としては、かつて、世界一であった半導体、業界を席巻したパソコンや携帯電話の事業さえも撤退ないし売却を行っている。
人減らしリストラでは、2002年に1万4000人リストラ、2009年に2万人リストラ、2012年に1万人リストラなどの大規模なリストラを繰り返し、2018年からは3000人リストラを強行している。
その結果、2001年には5兆4097億円をあげていた売上高は、現在では2兆8444億円(47%減)に激減させ、社員も14万9931人から11万1200人(26%減)に大きく減らしている。
(2)表面化しない特異な大量リストラ
しかし、それにもかかわらず、電機リストラは、社会問題にもほとんどなっていない。
これは、電機リストラの手口が、法的には違法無効な整理解雇を、事実上の圧倒的な力関係の差の中で個別に合意を取り付けることで、埋めていくというものだったからである。
NECにおいては、特別転進支援制度と呼ぶ早期退職制度が用いられ、早期退職制度への応募を強いる人権侵害の違法な退職強要面談が組織をあげて行われている。2012年の1万人リストラでは、密室・会議室での退職強要面談は10回以上にも及び、国会でも問題にもなった。
(3)本件事件と電機リストラ
本件は、高いストレスの労働現場で、一度、メンタル系疾病に罹患した労働者については、様々に口実を設けて職場から排除し、最終的には休業期間満了で退職させるという身勝手な企業の本質が、典型的に現れた事件である。それは、企業の最大限の利益追求の前では、労働者保護規制を乗り越えるべき障害と位置づけて、確信犯的にこれを突破していく、現在も進行中の一連の電機リストラとその本質を同じくするものといえる。
また、被告NECDSを含むNECグループでは、現在、2018年からの3000人解雇が強行されており、一度は、メンタル系疾病に罹患した原告を被告NECDSが職場に受け入れることは、第一線でフルに働き続けている労働者から困難な退職合意を取り付けるにあたっての障害となると考えてのこととも推測出来る。
4 本件提訴に至る経緯
被告NECDSは、原告が所属する電機・情報ユニオンとの団体交渉において、原告の職場復帰を繰り返し表明していた。ところが、結局は、一方的に、休職期間満了による退職通知を送りつけてきた。このため、やむをえず、本件提訴となったものである。
5 原告伊草さんの提訴の思い
NECDSに入社できて家族や親戚も含めてみんなにお祝いの言葉をいただきました。
私も入社試験の合格通知が来て、人生で一番嬉しかった瞬間だったというのをよく覚えています。私はNECDSに入社して、一生懸命業務をまっとうし、社会に貢献できる人間になりたいと思いました。
入社時の仕事への意欲と職場からの期待感を背負いながら一生懸命業務をまっとうしておりました。
年の離れた職場の皆様に1日でも早く認めてもらいたい、1日でも早く1人前になりたいという気持ちで満ち溢れていました。
しかし、飲み会の席での部長からセクハラを受けてから、私の中ので部長への嫌悪感、セクハラ行為を黙認していた職場の人たちへの不信感が強まりました。「こんなことがNECの職場で許されるのか、なんで誰も止めてくれないんだ」という思いです。
業務中でもセクハラ被害を思い出すたびに涙を流し、誰にも相談することもできませんでした。
そして2015年12月18日、職場の人に囲まれて拘束されて会社の外へ排除されました。
言葉では表現しきれない屈辱感と恐怖感で身体がうまく動かず、「なんでこんなことするんだ、なんでこんなことをされなければいけないんだ、」という気持ちでいっぱいでした。
復職可能の診断書を会社に提出して、職場に戻れると思ったのですが、復帰は認められませんでした。
無理に出社しようものなら、「また拉致されて職場から排除されるのではないか」という恐怖感がありました。
私は会社の言うとおりリワークに通い、今度こそ復帰できると思ったのですが、それでも復帰は認められませんでした。
今までの努力はなんだったのか、なんのためのリワークトレーニングだったのか、
初めから私を解雇するために行われた計画な事件だったのだとおもい、私は怒りで満ち溢れていました。こんなことあってはなりません。同じようなやり方でみんな辞めさせられていったのかもしれないとおもうと、悲しみとそれ以上の怒りが沸いてきます。
大企業であるNECとしてそんなことして恥ずかしくないのか、入社時の新入社員説明会で言っていたNECwayや企業行動憲章とはなんだったのか。今NECがやっていることを自信を持って世界中に向かって発信することができるのでしょうか。
医者は患者を病気を治すのが最大の役割りだと思います。
しかし、指定医は私に発達障害であるかのような病名をつけました。
これは診断するために必要な検査などを行わずにつけたものです。
無知である患者を医者という優位な立場を利用し、会社の意を汲んで病人にしたてる。
この事件が起きてから、今でも他の病院に行くときも心が苦しくなります。
なぜ、精神科の医者に心を傷を傷つけられなければならないのか、傷を癒すのが医者の役割りではないでしょうか。
私の不当解雇撤回のたたかいはとても大変かもしれません。
相手は大企業のNECです。しかし、大企業だからといってそれは許されるものではありません。
私がここで諦めてしまえば、今後、私と同じような扱いをされる人が出てくると思います。
去年1月30日、NECの3000人リストラが発表され、退職強要面談で精神疾患になってしまった人も居るかと思います。
精神疾患になって、会社から優しく「体調が悪いなら休職という制度がありますよ、ゆっくり休んでください」と休職の提案を受け入れた人たちもいるかと思います。休職して一時的には退職強要面談から回避することができたかもしれません。
しかし、それは休職という制度を悪用したリストラ策の一環かもしれません。
私はそのことを多くの労働者の皆様に知っていただきたいです。
休職という本来の目的に反したリストラ活用作は絶対に許しません。私のたたかいは自分を救うたたかいだけではなく、
現在休職されている方、これから休職されるかたなどを救うたたかいにもなると思います。
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|2019年劈頭にあたり,新年のご挨拶を申し上げます。
2019年1月1日 火曜日
昨年4月,川崎合同事務所は,地域の皆さまに支えられて,50周年を迎えることができました。これもひとえに,依頼者の皆さま,事件や運動をともにたたかってきた労働組合,民主団体の皆さまのご愛顧・ご支援の賜物です。心より厚く御礼を申し上げます。
昨年は,「安倍9条改憲NO!」で一致した,3000万人署名などの反対運動の広がり,安倍政権下で蔓延する権力の私物化・民主主義の破壊に対する市民の強い批判により,改憲発議を阻止できました。また,辺野古新基地建設の是非を問う沖縄県知事選挙においては,新基地建設反対の玉城デニー氏が勝利しました。
今年は,統一地方選挙,参議院議員選挙があり,改憲を許さないたたかいが重要になってきます。また,人間らしく働くことができる労働法制を確立、消費税10%への増税阻止等様々なたたかいの年でもあります。
事務所所員一同,事件処理に万全を期すことは,もちろん,平和で,暮らしやすい社会を目指し,全力で奮闘していく所存です。
今年も宜しくお願い申し上げます。
川崎合同法律事務所
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|労働法律旬報2018年11月上旬号に掲載されました。
2018年11月15日 木曜日
労働法律旬報1923(2018年11月上旬号)特集「過労死防止大綱」の見直しについての特集記事に、川岸卓哉弁護士の「勤務間インターバル制度の意義と法規成果へ向けた課題」が掲載されました。
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|「差し迫った安倍改憲に反対する川崎市民集会」を開催しました!
2018年11月2日 金曜日
2018年10月29日(月),川崎市産業振興会館ホールで,「差し迫った安倍改憲に反対する川崎市民集会」を開催しました。当事務所も,共催者として,名前を連ねました。
集会では,法政大学法学部教授の山口二郎先生を講師としてお招きし,自衛隊明記論の問題点とともに野党共闘の重要性等についてご講演頂きました。
また,立憲民主党,日本共産党,社会民主党の立憲野党の皆さまにもご参加頂き,自由党の方からもメッセージを頂いた上で,立憲野党として,安倍改憲に反対する旨の力強いご挨拶を頂きました。
参加者は,200名を超え,大盛況の集会でした。
当事務所では,今後とも,立憲主義,平和主義,民主主義を破壊する安倍改憲に反対する運動に取り組んでいく所存です。
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|労働判例2018年9月1日号に掲載されました
2018年9月7日 金曜日
藤田温久弁護士、山口毅大弁護士が弁護団として活動している、日産自動車派遣切り、期間工切事件についての、神奈川県労働委員秋命令が、「労働判例2018年9月1日号」に掲載されました。
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|労働判例 2018年8月1・15日号(1180)に掲載されました
2018年8月14日 火曜日
労働判例 2018年8月1・15日号(1180)の巻頭に、特別掲載として、川岸卓哉弁護士が主任を務める
グリーンディスプレイ(和解勧告)事件、横浜地方裁判所川崎支部平成30年2月8日決定~長時間労働後帰宅途中の交通事故死(過労事故死)と安全配慮義務違反~
が掲載されました。
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|弁護士ドットコムニュースに掲載されました
2018年8月14日 火曜日
弁護士ドットコムニュース「無期転換逃れで雇い止め「6カ月後にまた来てよ」 雇い直されなかったらどうなる?」に、山口毅大弁護士がに掲載されました。
是非、ご覧下さい。
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|東海大学で過労死防止授業を行いました
2018年8月7日 火曜日
当事務所の川岸卓哉弁護士、畑福生弁護士が、神奈川過労死等を考える家族の会の方とともに、東海大学湘南キャンパスにて、厚生労働省委託事業「労働問題・労働条件に関する啓発授業」の一環として、過労死防止授業を計2回行いました。
第1回目は、2018年6月11日に、畑弁護士が2015年の電通新入社員過労死事件の事例をもとに、学生に会社や被災者等、そして社会は、どうしたら今回の過労死を防げただろうかということをグループディスカッションしました。
学生の方々は積極的に議論に参加し、今後社会に出て働くにあたっての実感をもとに、過労死をなくすにはどうしたらいいのかを真剣に考えていました。
その後、議論を踏まえて、川岸弁護士が、弁護士として考えられる過労死防止策を伝えました。
第2回目は、同年7月16日に、畑弁護士が、働き方改革の概要や関連法の適用上の注意点につき説明しました。また、神奈川過労死等を考える家族の会の大西正和さんが過労被害者の家族としての体験を語られました。
学生の方々は真面目に授業を聞いて、労働法制の実態を知り、過労被害者家族の思いを受け止め、自らが社会に出た際にどのように働くべきかにつき真摯に考えていました。
厚生労働省委託事業「労働問題・労働条件に関する啓発授業」は、講師派遣などの費用が不安な際でも、それを気にせず講師派遣を依頼できるのがメリットです。
このような授業につきご興味のある方は、以下の連絡先までご連絡ください。
〒104-0061
東京都中央区銀座7-4-14 HBC GINZAビル12階
「労働問題・労働条件に関する啓発授業」運営事務局(㈱プロセスユニーク内)
TEL: 0120-970-137 FAX: 03-6264-6445
E-mail: koushihaken@p-unique.co.jp
Webサイト: https://www. p-unique.co.jp/koushihaken
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|日本通運株式会社 「無期転換ルール」潜脱雇止めに対する提訴(弁護士 川岸卓哉)
2018年8月1日 水曜日
2013年7月1日より、原告は、被告日本通運株式会社川崎支店に、1年契約更新の事務員として採用された。その後、契約更新は4回されたものの、通算契約期間が5年を経過し労働契約法18条の無期転換申込権が発生する前日、本年6月30日をもって雇止めにより退職となった。いわるゆ「無期転換ルール」潜脱事件に対し、7月31日、横浜地方裁判所川崎支部に提訴した。
・ヤフーニュース 日本通運で雇い止め 男性提訴
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6291831
・朝日新聞 無期転換直前に雇い止め「不当」 日通元従業員が提訴
https://www.asahi.com/articles/ASL704FXVL70ULFA00R.html
・毎日新聞 日本通運 雇い止めの契約社員が提訴
https://mainichi.jp/articles/20180801/ddm/012/040/189000c
・弁護士ドットコム
無期雇用まで「あと1日」の雇い止め、無効訴え日通を提訴…原告「娘は涙を流した」
https://www.bengo4.com/c_5/n_8303/
・テレビ神奈川 「無期転換逃れか 元従業員 雇い止めの無効求め日本通運を提訴」
http://www.tvk-kaihouku.jp/news_wall/post-3659.php
1 事件の概要
(1)当事者
原告:日本通運川崎支店に事務職として勤務していた男性(30代)
被告:日本通運株式会社
支援:全川崎地域労働組合
(2)有期契約締結の際の不更新条項についての説明「事業所が赤字だから」
2013年4月1日、労働契約法18条「無期転換ルール」が施行された年に、本件の有期雇用は契約された。
このため、契約書には当初から、「当社における最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはできない(契約更新上限2018年6月30日)」と記載された不更新条項が入れられていた。
しかし、川崎支店の所長は、原告に対して、本件不更新条項について、「現在、川崎支店の事業所が赤字のため、5年以内に事業所が閉鎖する可能性があるので、現状は不更新条項が入っている。経営状態によっては5年以上就労可能である」旨説明していた。
(3)黒字転換し経営上雇止めの必要性がないにも関わらず無期転換申込権を免れるため雇止め方針を強行する日本通運
その後、日本通運川崎支店は、黒字に転じた。契約更新の際にも、所長から、原告に対して、「不更新条項に関わらず長期間働けるように動いている」旨説明を受けたため、契約更新をしていた。現に、原告の働きぶりは評価され、人手不足解消のため、所長は原告が川崎支店で働けるように諸方面に働きかけていた。
しかし、日本通運は、全国一律の方針として、労働契約法18条の無期転換ルールが施行された2013年4月1日の時点において、3年以上継続して契約更新をしている有用契約の社員は無期転換申込権利を認め、3年未満の有期契約の場合には認めない旨方針をとった。そのため、2018(平成30)年時点で有期雇用契約の期間が5年未満の原告のような労働者については、無期転換権発生前に雇止めをすることとなっており、例外は作らないという姿勢を貫き、雇止めを強行した。
(4)無期転換ルール潜脱目的の雇止めは労働契約法19条により無効
① 労働契約法19条の定め 合理的期待がある場合には有期契約の雇止めはできない
有期契約に更新上限が制定され、被告が契約期間満了により有期契約の更新を拒絶した場合であっても、有期契約が反復して更新され期間の定めのない労働契約と同視される場合や、有期契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合など、雇止めが客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときには、更新拒絶は無効であり、契約は更新される(労働契約法19条1号・2号)。
② 雇用継続への合理的期待の存在
原告は、被告との有期契約の締結及び更新に際して、本件不更新条項が入っている理由として、川崎支店が赤字の事業所であり事業継続が困難である可能性があるからであるという旨の説明を受けていたが、現在川崎支店は赤字から黒字転換をしている。また、所長は、原告に対して、本件不更新条項の上限に関わらず原告の就労を継続できるようにする旨の説明をしており、原告は4回4年に亘って反復継続して契約を更新していた。
したがって、原告には、本件不更新条項の入った契約書に署名をしているものの、これに反する契約継続に対する合理的な期待を持たせるような説明がされていたのであるから、原告が真に自由な意思に基づいて契約不更新に同意していたとはいえず、雇用継続の合理的期待があったといえる。
③ 無期転換ルール潜脱目的は客観的合理的理由・社会的相当性はない
日本通運が原告の契約更新を拒絶した理由には、人員削減や業績不振などの経営上の必要性はなく、原告の勤務態度も評価され、川崎支店の現場としてはむしろ雇用継続が切望されていた。結局、本件雇止めは、被告における全社的な社内方針である「無期転換権発生前に有期労働契約社員を雇止めにする」ことを強行したもので、無期転換ルールの潜脱を目的としたものに他ならない。
そもそも、労働契約法18条に定められた無期転換ルールの目的は、有期労働契約労働者の雇用の安定を図ることにある。有期契約の社員は、有期労働契約が反復更新されて長期間にわたり雇用が継続されていたとしても、常に更新時での雇止めの不安にさらされる地位にある。そのため、有期契約労働者から使用者に対して待遇改善を求めた場合には報復的な雇止めの恐れがあり正当な権利行使に対して行動を抑制せざるを得ず、非正規労働者の低い労働条件を生み出す要因となっていた。また、有期契約を何年も更新し続けても、非正規労働者としては低い待遇しか得られないため、経済的な自立が困難となり、将来の職業生活の展望が抱けず、生活の安定も阻害され、社会不安の元凶となっていた。こうした有期契約の現状を踏まえて、無期転換ルールは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的として、立法されたものである。
本件雇止めは、無期転換ルールの法の趣旨を真正面から否定し無期転換を阻止することに目的があり、客観的合理的理由、社会的相当性を欠き、無効であるのは明らかである。
2 2018年問題 横行する無期転換ルールの潜脱に歯止めを
労働契約法18条は、不安定雇用に晒される非正規社員の生活の安定のために立法されたが、法の趣旨に反し、無期転換申込権が発生する2018年には、大量の雇止めが横行し社会問題になりつつある。日本通運においても、全社的に無期転換前の雇止めを強行しており、東京地方裁判所において、別件訴訟も提訴されているところである。厚生労働省は「無期転換を避けることを目的として無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいとは言えない」とし、無期転換ルールを免れる目的で雇止めをしているような事案を把握した場合には、都道府県労働局においてしっかりと啓発指導に取り組む方針を示している。本件のように、当初より不更新条項が契約書に記載されていた内容でも、実態は契約更新への期待を抱かせる発言がされ、それを信じて、立場の弱い労働者は契約締結せざるを得ないものは、本件以外にも多数存在する。原告は、泣き寝入りをせず、無期転換ルール潜脱を告発すべく、本件提訴に至った。
3 原告の想い(記者会見発言原稿)
私は、2012年9月に、派遣で日本通運を紹介され、1年契約の事務職として、川崎支店で働き始めました。仕事は、トラックの配車や配送品の数の割り振り、客先対応、電話・伝票などの事務作業でした。派遣契約満了前の2013年7月、私の働き振りを認めてくれた日本通運からの要望で直接雇用となり5年働いてきました。
事務所の方々はもちろん、携わった業者、取引先の方も、とても良くしてくれたからこそ、これまではもちろんの事、この先もがんばって行きたいと思っていました。
私の場合派遣から直接雇用に転換する際、契約書に「2018年7月を超える更新はしない」と明記してありました。
私は、5年しか働けないのでは困ると思い、事業所長に「この5年上限は消えずに切られるのですか?」と質問しました。その際事業所長から、「今は赤字店所なので、事業縮小・もしくは事業所自体なくなる可能性がなくはないので、こういう文言にしてある。経営状態によっては長く働くことが可能である。」と説明を受け、今後の状況によって、5年の上限が変わるのならとサインをしました。
業務にもなれた頃、事務所の仲間に相談をした所、「立ち上げからほとんど赤字だけど、毎年更新で10年以上いるから大丈夫」の言葉も受け、事業所長に都度確認した際にも、「色々な方向で動いている」「組合の上役にも相談している」等の発言を頂き、5年しか働けないということはないだろうと安心していました。
その後メインの業務をしている方が定年となり、私がその業務を一手に引継ぎました。それまでやっていた業務も継続して担当しましたので、事務所では一番の仕事量となりましたが、皆の助けもあり、多忙ながらも業務をこなしていました。
最初にお世話になった事業所長が異動になる際、「更新上限の件は私の時には出来なかったが、後任にはしっかり伝えておくから」と言われました。
後任の新しい事業所長に確認した際も、「前任から業務の件、更新の件はちゃんと聞いてる、色々動いてがんばってるから」の言葉を頂き、私は5年上限をなくしてもらえるものと思っていました。
2017年7月の更新の際、まだこの上限は消えないのですか?と事業所長に確認した際も「この事務所には岩本さんが必要だから、 色々動いているからもう少し待ってくれ」といわれておりました。
しかし、2018年3月末に事業所長から話があるのでと呼び出され、「がんばったけど、今年以降の更新は会社の方針で出来ないと支店から言われた・・・。力になれずに申し訳ない。」と頭をさげられました。
家族に今後どうなるか分からない旨を告げた時に、心中を察し静かに涙をしていた娘を見た時に、諦めず、会社に話を聞いてもらい、何とか更新が出来るよう相談してみようと思い、有期雇用に纏わる事を寝ずに調べていきました。
調べていく内に、同じような境遇の人がたくさんおり、厚生労働省も望ましくないといっている事案だと分かり「このまま泣き寝入りはできない」と思い行動を始めました。
4月に入り支店の管理課長との話しの場を設けて貰い、私の仕事量、雇止めの法理を踏まえて、契約満了以外の理由と更新が出来ないかを相談しましたが、「会社としては2013年時点で過去3年以上働いている者以外は5年が上限と決めている」とその場で拒否されました。
その内容を職場の仲間に報告した際に、「この事務所どうなるの?」「誰がその仕事量やるの?」と戦々恐々としており、涙を流す人もおりました。
今は、昼食を摂る時間もないくらい忙しく、新たに契約社員を入れる話になっているそうです。
私のところにも、職場の仲間や客先から、仕事の内容を尋ねる電話がかかってきています。
私は日本通運の組合には入っておらず、何度かメールにて管理課長を通し会社に訴えてはいましたが話しが進みませんでした。そこで、労働局に相談をしにいったところ、「このような相談が増えていて、指導、あっせんはしているけど大手は例外作りたくないからね・・・」と言われました。それでもお願いをして、あっせんをしましたが、当初赤字だったのはあったが書類にサインしているから話しは満期終了以外ない、と簡単に終わってしまいました。
個人では話しも聞いてもらえないと思い、弁護士相談を経て組合に入り、団体交渉までさせて貰いましたが、らちが明かず、今日この場にいたるまでになりました。
私の職場の有期契約社員は、1年毎の更新で10年以上働いていました。この法律がなければ、私も5年で切られることなく、もっと長く働くことができたと思います。労働者の雇用の安定を図るために作った法律を使って、かえって労働者の雇用を不安定にするのは、おかしいと思います。
私の家族は別にしましても、同じような「職場に必要な人材」までも無期転換したくないだけで雇止めにあわせるのはやめていただきたいと思い、提訴に踏み切りました。
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