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かわさき市民オンブズマン /篠原義仁 2007.12.12

2016年8月17日 水曜日

 昨年(2005年)1年間のかわさき市民オンブズマンの活動は、多肢にわたっているが、下記の3点にしぼって報告することとする。

1.再びKCT住民訴訟の提起
 かわさき市民オンブズマンは、赤字必至で設立された第三セクター・かわさきコンテナターミナル株式会社(KCT)に対する、川崎市の違法な支援策に反対し、くり返し、くり返し、監査請求を行い、最終的にはKCTにつき会社整理の申立をし、監査請求と住民訴訟の追及のなかで、ついに川崎市(筆頭株主)をしてKCTの破産申立に踏み切らせ、最終的に破産手続を完了させた。
  しかし、川崎市はこの破産実務の後始末として設立当初に締結した融資団(銀行)との間の「融資協定書」にもとづく損失補償条項の「履行」と称して、2005年1月14日、税金から三行に対し9億円の支払を行った。
  そこで、オンブズマンはこの違法な公金の支出を捉えて、監査請求が棄却されたのちの5月20日、融資協定を締結した前市長と公金の支出を実行した現市長らを被告として、その損害金相当額を川崎市に返還すべきとして損害賠償請求住民訴訟を提起した。

  KCTに係る問題点として、今次住民訴訟の内容を報告することとする。

① KCTは、設立以前にマーケットリサーチ(市場調査)を行い、その需要見込について検討した形跡はない。そもそも民間企業では、事業への投資プロジェクトの適宜は、将来のキャッシュ・フローの吟味によって決定される、といわれている。しかし、KCTの設立(平成6年)にあっては、将来のキャッシュ・フローの予測はされていない。
  いずれにしても、川崎港におけるコンテナ事業の実態把握も、調査分析もなく展開されたKCT事業は、破綻必至のなかで平成6年5月10日に設立された。
  これに加えて、今回の住民訴訟(前・現川崎市長に対する損失補償金相当額の損害賠償請求住民訴訟)の主張を補充するため、オンブズマンが情報公開で入手した資料から、新たに以下の事実が判明した。

② KCTは、平成6年5月10日に設立され、前同日、KCTは融資団三行との間で「融資協定書」を締結した。
  他方、「平成6年度改正地方財政評解」によると、自治省は平成6年4月26日付自治財第20号の自治事務次官通知において「地方団体が第三セクターに出資、融資等を行う場合においては、当該第三セクターの行う事業の性格、運営方式、成熟度、採算性等を十分検討のうえ、適切に対処すること。 なお、第三セクターの債務に係る損失補償契約等の債務負担行為の設定は、将来の財政への影響も十分考慮して慎重に行うこと」として、その警鐘を鳴らした。
  ところが、川崎市はこの警鐘を無視してこの融資協定書を締結し、KCTの借入債務について損失補償を行った。 一方、KCTは川崎市に対し、平成6年4月26日付通知をうけたかたちで平成7年9月7日に至り、経営指導念書の差入に関する提出依頼を次のとおり行った。それは、きわめて簡単、安直なもので 「当社事業資金の借入債務について川崎市の損失補償がなくなったことから、借入条件等について協調融資団の代表幹事銀行の㈱横浜銀行ほかと協議をしてまいりましたが、今後の融資について信用融資(無担保)で川崎市から経営指導念書を差入れることで合意しましたので念書の発行方よろしくお願い申し上げます。 なお、念書については、協議融資団を構成する三行にそれぞれ発行していただきたく併せてお願い申し上げます。」 というものとなっている。これに対し、川崎市は具体的検討を行った形跡もないなかで、申入のあった直後の平成7年9月12日に 「かわさき港コンテナターミナル㈱代表取締役社長高橋宏輔から別紙のとおり、事業資金借入れに際しての金融機関あて念書提出の依頼がありましたが、この対応は、今後本市ではかわさき港コンテナターミナル㈱に対する損失補償をしないことの代替措置であります。つきましては、次案(1)によりかわさき港コンテナターミナル㈱あて依頼文を提出してもよいでしょうか。なお、同様の依頼文は、今後特別な事由が生じない限り発行いたしません。」
という内容の回議書を起し、同年9月25日にこれを履行した。そして、この指導念書に関して川崎市は「川崎市におきましては、平成7年度からの同社の事業資金借入については、自治省からの通達により、その損失補償を見合わせることにいたしました。つきましては、誠に勝手なお願いとは存じますが、同社の借入金債務に関し、川崎市は貴行に対し、ご迷惑をおかけしないよう、同社の経営に関し充分な指導・監督を行う所存でございますので、貴行のご融資に関し、何卒格別なるご高配を賜りますようお願い申し上げます。」と融資団に申入れ、この申入が平成6年4月の自治省通達に基礎をおくことを明示した。そうだとすると、平成6年5月10日時点において川崎市は本件融資協定書を締結しないことは可能であったし、現実の問題としても自治省通達に従い、これを締結すべきでなかったのであり、その責任は重い。川崎市の無責任さは、厳しく追及される必要がある。 その無責任性をさらに付言すると、前記文書には 「なお、同様の依頼書は、今後特別な事由が生じない限り発行いたしません」と明記したにもかかわらず、格別な検討もなしに安直に、特別な事由は全く生じていないのに、くり返し、くり返し指導念書(依頼書)は発行されつづけた(平成10年から平成14年の実態につき、情報公開で資料入手)。
  こうした川崎市の無責任な対応は、かわさき市民オンブズマンが会社整理の監査請求、住民訴訟を提起するまで惰性的に行われ、オンブズマンの監視の結果、ようやく終息した(のちに、KCTが破産手続に移行したことは周知の事実)。

③ KCTは破綻必至という爆弾をかかえて設立され、そして、損失補償に警鐘を鳴らした自治省通連を無視して融資協定と損失保証契約が締結された。 こうした川崎市の対応は犯罪的であり、また、この事実を見過ごしてKCTの設立と融資協定・損失補償契約の締結に同意した川崎市議会の責任は重大である。

2.第三セクター問題の追及
 オンブズマンは、KCT、FAZ、土地開発公社(塩漬け土地、南伊豆保養用地先行取得問題、川崎縦貫道汚職関連事件)などの個別事例に共通し、かつ、その根源にある問題としての第三セクターがはらむ問題を解明することとし、その第一弾として「第三セクターへの市職員の役員派遣、天下り問題」を取り上げ検討した。その基本的視点は、以下のとおりである。
▼第三セクターと役人の天下り
 談合・汚職の構造のなかで、「天下り」問題の存在とその解決の必要性が指摘され、今、橋梁談合はその象徴事例として全国的な注視を集めている。
  他方、第三セクターのもとで税金の無駄遣いが明らかであるにもかかわらず、企業経営能力のない天下り官僚(役人)によって「武家の商法」とばかりに無責任な放漫経営がまかり通っている。
  中央、地方をとわず官僚は、将来の天下り先である第三セクターについて、その経営政策がいかに放漫なものであっても官僚自身の将来の人生を慮ってこれに積極的にメスを入れることなく赤字の循環をくり返させ、当初の出資金に加え、支援、援助の名のもとに市民の財産である税金を注ぎ込み、税金の無駄遣いを加速させている。そして、それにもかかわらず、第三セクター経営は改善せず、その赤字額はぼう大にのぼるところとなっている。
  前述したとおり、かわさき市民オンブズマンが監査請求をして、その問題を提起したKCTとFAZ等の三セク問題が典型であり、とりわけKCTは住民訴訟 提訴のなかで、昨年1月破産申立が行われ、昨年12月、破産手続が完了した。
  KCTについては、現在、脱法行為の「損失補償」協定に基づく補償金(9億円)の返還につき、前市長・現市長を相手に住民訴訟が提起されるところとなっている。
  ことほど左様に三セクの放慢経営が罷り通るのは、自らの天下り先の確保、擁護に走り、市財政の健全化を省みない官僚の資質、それを許容するシステムと野放し状態の行政体質の存在以外に説明のしようがない。
  ちなみに、「リストラ」「合理化」が吹きあれ、「経済不況」のあおりをうけて、多くの勤労市民、中小業者が生活の基盤を失い生活の糧を求めて困窮するなかで、官僚(役人)は、自らの利権を温存して、第二の就職(賃金、退職金)を保証されて第三セクターに天下っている。
  そのいみで、第三セクターと天下り問題の解明は、市財政の健全化にとって欠かせないものとなっている。
▼出資法人の整理、統合の必要性
近時にいたり、不要な第三セクターの整理、縮小が叫ばれ、県内を例にとってみても、徐々にではあるが神奈川県、横浜市に係る出資法人の廃統合が進行している。ちなみに、土地開発公社については、神奈川県、横浜市とも廃止の方向性を打ち出している。
  これに対し、川崎の第三セクターは、市民要求に比してさしたる進展を見ることなしに平成16年7月1日現在においても、市の出資金25%以上のものが36法人、同じく25%未満のものが46法人、以上合計82法人にのぼっている。これは、神奈川県、横浜市との人口規模、都市規模に比較しても過大というほかない。川崎市の出資法人の整理統合、縮小廃止は喫緊の課題となっている。
  前記82法人のうち、法律に基づくと明記されているものは、民法34条によるものが22法人、公有地拡大促進法によるものが土地開発公社(昭和48年2月1日設立)の1法人、信用保証協会法によるものが、信用保証協会(昭和29年8月31日設立)1法人、地方住宅供給公社法によるものが、神奈川県住宅供給公社(昭和41年6月30日設立)と、川崎市住宅供給公社(昭和44年5月1日設立)の2法人で、残りの8法人は根拠とする法律は無い。これを各論的に検討、分析し、その廃統合を行うことは喫緊の課題となっている(各論検討は略)。
▼天下り問題の追及
① 第三セクターに係る法人の検討につづき、川崎市職員(官僚)の天下りの実態を検討してみることとする。
  当然のことながら、出資法人(第三セクター)は、設立経緯、設立実態からしてそれに対応する関係部局(市長、助役対応も含む)があり、天下りもその部局(同)に対応して配置、派遣され、具体的には、第三セクターの目的・規模等に対応して市長、助役、局長、部長等経験者の天下り先が確定するシステム(仕組み)となっている。それは、第二の就職斡旋であり、川崎市と第三セクターを結ぶ利権(就職、第二賃金、第二退職金等)の構造にほかならない。三セクをめぐってなぜ談合が起こり、汚職が発生し、他方、三セクの経営がなぜ放漫をきわめるのか、そしてその検討を通じてこれをどう改善していくのかの課題は、この構造的システムの解体、改革なしに語ることはできない。
② オンブズマンの調査によると、まず第三セクターに係る役員職務は496職務で、川崎市現業職員は1人で最高12職務を担当している。
  次に天下りの実態を示す常勤役職者について調べてみると、役職総数64で前職が川崎市の公務員である者が46名で、総数に対する割合は71.19%に及んでいる(川崎市出資法人の現況に記載のない前歴は職員録『平成6年度及至16年度』で調査)。
  なお、常勤役職者を設置していない法人は4法人である。
  副市長以下理事に区分した人数は23名で全体との比率は35.94%、部長・所長扱いは17名で、全体との比率は26.56%、課長以下は6名で、全体との比率は9.38%。天下りと確認した人数の総計は46名で全体との比率は71.19%にのぼっている。
  ちなみに、一例をあげるとKCT及びFAZへの支援策につき、オンブズマンは、これを税金の無駄遣いとして監査請求し、市議会でも同様の質疑が行われた。これに対し、KCT及びFAZの経営は健全で、支援策は公益性に合致すると答弁した青木茂夫港湾局長は総務局長を経て、かわさきFAZ(株)の代表取締役に就任している。
  この事例をとってみても、第三セクターの本質的解明にとって役人の天下り問題は避けて通れない課題となっている。
▼むすび
かわさき市民オンブズマンの今回の調査は、相当詳細をきわめたが、天下り問題の抜本的改革のためには、まだ端緒的な調査と解明に止まっている。
  かわさき市民オンブズマンは、今次調査を第一次調査として位置づけ、ひきつづき第二次調査を行うことを予定している。
  2002年(平成14年)3月、市長就任翌年に市の第三セクター「川崎住宅」が、元市幹部4名の違法報酬を提供していた事件で、阿部市長は「服務規程を見直し、完全民営化する」考えを表明した(2002年3月20日新聞記事)。しかし、平成16年度「川崎市出資法人の
現況」によっても、市の出資金は維持され、前記82法人は市の第三セクターのままである。この状況から、私たちが今後調査する調査項目が示唆されているように思われる。
  まず、非常勤役員への手当・報酬の有無、常勤役員の報酬内容は必然で、第二の退職金支給の実体も解明される必要がある。
  次に、補助金、委託料の使用内容の調査も欠かせない。包括外部監査に係る川崎公園緑地協会の例にあるとおり、委託業務の「丸投げ」の有無、利ザヤ稼ぎの実態も必要的調査項目となっている。
  さらに、第三セクターに係る個別法人の財政、会計内容の実態を克明に調査する必要がある。それと関連してなぜ、第三セクターの廃止もしくは民営化が進まないのかも調査する必要がある。
  第三セクターにつき問題が山積しているにもかかわらず、川崎市長及び川崎市の対応は遅々として進んでいない。オンブズマンは、本調査を第一次調査と位置づけ、ひきつづき第二次調査を行い、問題の全容解明を行い、積極的提言を行う決意でいる。

3 南伊豆保養所用地の売却
 2005年10月26日、川崎市は市民局長名で川崎市議会市民委員会に対し、「(仮称)市民利用施設事業用地(南伊豆町)の売却について(報告)」と題する書面を発して、川崎市土地開発公社をして南伊豆保養所用地(以下、本件土地という)につき「一般競争入札方式による民間売却」を行う旨報告した。
  いうまでもなく土地開発公社は川崎市が100%出資している会社で、川崎市と一体化したものとなっている。その入札の結果として12月2日に開札が行われ、応札は個人による一件だけで、5,570万円(最低売却価格5,260万円)で売却されるところとなった。

  かわさき市民オンブズマンは、川崎市(土地開発公社を含む)に係る、いわゆる「塩漬け土地」問題を追求するなかで、本件土地の先行取得の事実を把握し、情報公開による資料の分析や現地調査に基づく現地の実態解明をふまえてその用地買収の違法、不当性を社会的に明らかにした。
  すなわち、川崎市は市民局からの保養所用地買収の申出に基づき、平成8(1996)年10月公社に対し、本件土地につき用地買収の依頼を行った。これをうけて、公社は、本件土地の鑑定を行い、その上で、12月9日、地権者(所有者である学校法人伊東学園)より代金6億1,734万0,704円で本件土地を買い受け、12月10日、所有権移転登記手続を完了した。
  他方、これに呼応して、川崎市の本件土地の再取得時期は、平成12(2000)年3月31日と依頼書に明記されるところとなった。

  オンブズマンは、
① 保養所のような宿泊施設は民業と競業するもので、原則として公的主体による施設は不急不要のものであると臨時行政調査会基本答申(昭和57年7月30日)及び行政改革大綱(同年9月24日閣議決定)にも定められ、従って、全く用地取得の必要性がないこと
② ましてや本件土地は、市民利用施設としては不便すぎる土地で利便性に欠けること
③ 川崎市には既に保養所が3カ所あり(当時)、他の政令指定都市に比較しても、そして、川崎市の財政事情からしても本件土地取得の必要性がないこと。
④ 本件土地は標高差が150mにも及び急傾斜地で平坦部分が少なく、しかも、その平坦部も岩石などの崩落の危険性が現実化していて保養所用地として使用困難となっていること
を主要な理由として、 それに加えて川崎市が公社より再取得する場合の再取得価格(6億1,734万0,704円及び再取得時期までの利息分外)が、異常に高額な「鑑定結果」に基づき不当に高額になっていて、適正価格(前所有者と伊東学園間の取引価格は2億円であったことが、裁判中のオンブズマン調査で判明)に比して著しくバランスを失していることを強調し、その結果、川崎市において再取得した場合には川崎市財政にとって回復困難な損害が発生するとして、平成10(1998)年2月25日に地方自治法第242条に基づき、本件土地の買受差止の監査請求を行った。
  これに対し、川崎市監査委員は、オンブズマンの監査請求を是とするもの(少数)、否とするもの(多数)ということで、結論的には「監査委員間で意見の一致をみることができなかった」旨の監査請求結果をオンブズマンに通知した。
  この実質的な監査請求棄却の通知を受けてオンブズマンは、地方自治法第242条の2の規定に基づき、5月20日、土地買受差止住民訴訟を横浜地方裁判所に提起した。

  この住民訴訟に対し、横浜地方裁判所は平成13年5月16日、オンブズマンの言い分を認めて、不当に高額な川崎市の再取得を差止して住民勝訴の判決を言い渡した。
  ところが、川崎市は、この判決の誠実な履行を求めるオンブズマンの申入を拒否して、すなわち自己の弁明が斥けられたことについて従前の川崎市の姿勢を改めるどころか、原判決を不服として東京高等裁判所に控訴し、引き続き道理も正義もない不当抗争ともいうべき争いを継続した。
  しかし、東京高等裁判所は平成14(2002)年2月6日、川崎市の理不尽な控訴を極めて短期の審理で当然のことながら棄却した。

  今回の川崎市の「最低売却価格5,260万円」(落札価格5,570万円)という説明は、住民訴訟における川崎市の主張と対比して厳しく厳しく批判的に検討される必要がある。
  川崎市は、オンブズマンが主張した不当に高額な取得価格という点に対し、厚顔にもその価格の正当性を主張し続けた。その拠り所として、川崎市は「適正な鑑定」を行い、その結果として行政の実務を執り行ったとして
① 平成8年10月11日付回議書(「事業所用地取得に伴う不動産鑑定書の取扱について(伺い)」)添付の「用地買収費の根拠(概算)」(平成7年11月21日)で川崎市見積として「用地買収費約560,992千円」と試算していること
②  (株)迫・大澤不動産鑑定所(いわゆる大沢鑑定)の鑑定結果として「鑑定評価額617,342,000円」と算出されたこと
を根拠(主要にはより高額な(2)を根拠)にその正当性を展開した。
  しかし、その大澤鑑定のずさんな現地調査と現地の実態を無視した鑑定結果は、オンブズマン側の反対尋問(主尋問平成11年11月10日、反対尋問平成12年1月26日及び3月22日)で、もろくも崩れ去り、裁判所の判決はことごとくこれを斥け、一蹴した。
  他方、オンブズマンは裁判所により公正な鑑定を求め、裁判所もこれを採用し(大田鑑定)、田鑑定も大澤鑑定の異常に高額な鑑定を批判した。
  こうした状況の中で、川崎市は、裁判所の採用した第三者鑑定(大田鑑定)に従って、誠実な訴訟対応をとるべきところ、この鑑定内容を批判して、新たな鑑定として、川崎市の自主鑑定である澤野順彦鑑定を提出し(一審の最終盤)、しかも、控訴審においては大澤鑑定を拠り所とせず澤野鑑定を基礎にその主張を展開した。ちなみに、この澤野鑑定は驚くべきことに大澤鑑定より更に高額な「鑑定評価額7億2,400万円」を導き出した。この澤野鑑定も大澤鑑定と同様に、あるいはそれ以上に大きな矛盾をはらみ、裁判所はこれを採用せず、前記のとおり判決した。
  そうだとすると、川崎市の態度は、そしてそれと一体化している公社の態度としては、本件土地の評価は7億2,400万円ないしは6億1,734万0,704円であるという主張で貫かれなければ、従前の主張は虚偽主張との批判を免れえない(より正確にいえば、後者の価格を基準としても平成17年3月の時点で利子は約1億2,000万円にのぼっていて、これも加算されるべきものとなっている)。
  ところが、川崎市(公社)は従前の主張の撤回、謝罪もせず、またそうであるが故にその誤りの原因についての調査究明もせず、責任者の処分もないままに「最低売却価格」を5,260万円として本件土地を一般入札に付し、5,570万円で落札させるところとなった。
  取得価格の約6億1,734万及び利子約1億2,000万円に比して、6億8,000万円にも及ぶ損害を発生させるところとなった。損害額の高額性からして、この責任は犯罪的といってよい。
  ところで、オンブズマンは、当初からこのような不当に高額な取引が何故発生したのかを含め、本問題につき追求をし続けてきた。
  その端緒的な調査として、本件土地の取引に「有力者」の介在がなかったかにつき問い質しつづけた。
  ちなみに、川崎市議会でもこのことは問題になったが、川崎市はその質問に対し、 「市民局からの情報はどこから入ったかということでございますけれども、市民局へ直接学校法人の方から持ち込んだと伺っています」(平成10年2月18日、まちづくり委員会)と答弁した。
  しかし、これは明らかに虚偽答弁となっている。川崎市の説明責任の放棄、情報の不開示の行政責任はもとより、これを虚偽の報告をもって答弁した犯罪的な責任は許し難いものとなっている。
  これに対し、オンブズマンは情報公開請求を行ったが、そこで開示された「土地情報調書」は、「紹介者」の欄は個人情報であるとして黒く塗りつぶされて開示された。つまり、黒塗りしたという事実は実名は不特定であっても、紹介者の存在を裏付けるものとなっていた。この点につき、オンブズマンは前記裁判提起に関連して、川崎市に対し、平成10(1998)年7月15日、民事訴訟法第163条に基づき照会を行い、同年8月28日、川崎市はその照会をうけてはじめて
  「 本件土地の『紹介者』すなわち情報提供者は、次のとおりである。
     川崎市高津区新作3丁目1番5号  宮田良辰  」
との氏名を特定した。
  宮田良辰氏とは、当時の川崎市議会議長(自民党)であり、いわゆる有力者に相当する(市会議員、ましてや市議会議長は公人であり、川崎市が個人情報で非公開として措置は極めて不当なもので、真相究明に蓋をした態度といってよい)。
  この宮田市議は、川崎市高津区の防犯協議会の会長をつとめ、その防犯協会特別会員名簿に 「 学校法人伊東学園 伊東兵次 溝口3-11-4 」 として伊東学園理事長(但し、何故か伊東兵次氏は住民票を川崎市高津区においていない。住民票は東京都文京区西片となっている)が名を列ね、宮田氏と伊東氏が知己の間柄であることが明らかとなった。さらに市議会まちづくり委員会の現地調査でも、マスコミ報道でも明らかのとおり、宮田市議の実弟が本件土地の隣地に居住し、本件土地の管理を委託され、その出入り用の鍵を託され、自己所有の猟犬用の小屋利用を行っていたことも判明した。

  以上の経緯に鑑みると、川崎市の本件土地の「取得価格の正当性」の主張は住民訴訟の1審判決、2審判決によって斥けられ、それにもかかわらず、川崎市は本件土地の先行取得につき反省の態度を見せず、実質上この判決内容に背く態度をとりつづけてきたが、今や、自らの評価においても本件土地の取得が以上に高額であったことを認めざるを得ない状況となった(バブル経済崩壊後の平成8年12月の取得時と現時点における価格格差、ましてや南伊豆の山林等の価格格差がそう大きなものではないと判断するのは極めて妥当である)。
  そうだとすると、川崎市がオンブズマン主張をようやく「自認」した現時点において、行政の正義の実践、公正・民主化の担保として、そして、行政の信頼の回復のために、原点に立ちかえって真相究明を行い、関係者の責任追及(職員の処分、告訴告発問題)と再発防止に向けての制度的、構造的改革を行うべきことが強く求められるところとなっている。同時に川崎市議会も、百条委員会を今こそ設置し、真相究明と責任追及、そして再発防止に向けて徹底した審議を行うべきところとなっている。「悪い奴ほどよく眠る」は映画の世界に閉じ込め、利得をむさぼったものへの責任追及は徹底的に究明される必要がある。

投稿者 川崎合同法律事務所

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