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2023年講演会「2023年統一地方選に向け杉並の取組みに学ぶ 民主主義と地方自治の再生へ」(講師 アジア太平洋資料センタ-共同代表 内田聖子さん) 2023年2月22日18:30~中原市民館 

2022年12月28日 水曜日

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投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

自由法曹団神奈川支部YouTubeに、長谷川拓也弁護士が出演しました

2022年12月28日 水曜日

【弁護士が解説!たった10分強で分かる】

「防衛費」なぜ増額?GDP比2%?使い道は?

YouTubeは、こちらからご覧下さい。

団支部防衛費

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

相続登記義務化迫る!未登記の相続土地はありませんか! 処理にお困りの方は弁護士にご相談ください。 (弁護士 星野文紀)

2022年12月27日 火曜日

星野文紀弁護士については、こちらをご覧下さい。

2023年2月16日(木)10:30~くらしの法律講座でわかりやすくお話しします。詳細は、こちらの頁をご覧下さい。

 

1 日本の「所有者不明土地」は九州よりも広い?

 最近、「所有者不明土地」が各地で社会問題になっています。「所有者不明土地」とは、相続等の際に土地の所有者についての登記が行われないなどの理由により、不動産登記簿を確認しても所有者が分からない土地、または所有者は分かっていてもその所在が不明で所有者に連絡がつかない土地のことです。

 「所有者不明土地」は日本各地で増加しており、その面積を合わせると、九州よりも広く、国土の約22%(平成29年度国土交通省調べ)におよぶというのです。そして今後も、所有者不明土地は、さらに増えていくと予想されています。

 

2 「所有者不明土地」はこうして増える
 所有者不明土地が生じる主な原因としては、
① ①土地の相続の際に登記の名義変更が行われないこと
② ②所有者が転居したときに住所変更の登記が行われないこと
などがあげられます。相続放棄も関係しているとも言われています。これらのことにより、登記簿からは所有者がだれかわからなくなるのです。

 

3 「所有者不明土地」があると、土地が売れない。地域社会の妨げになる。
 所有者を登記簿上特定することができないと、いろいろな不具合が生じます。
まず、生きている所有者の登記がなければ、土地を売ったりすることはできません。また、隣地の所有者が不明だと、境界の確認も困難になり、周辺の土地の売却や利用も困難になっていきます。結果、地域全体に使えない土地がどんどん増えていくことになります。

 

4 相続登記の放置・先延ばしは危険
 相続登記は、時間が経てば経つほど困難になります。
 具体的に見ていきましょう。相続登記をしないまま祖父母名義の土地に住んでいた父が亡くなって、長男が家を引き継いだとします。長男からすると、曾祖父名義の土地を引き継いだことになります。この土地の相続登記をするとなると、長男から見て、祖父母の兄弟姉妹やその子供(つまり親のいとこ達)と遺産分割協議をしなければなりません。話もしたことのない場合や、会ったことさえないことも多いでしょう。仮に、祖父がその土地を相続するという口頭での合意があったと聞いていましてもその話を知らない人に通用せず、土地を均等に分けなければいけなくなるかもしれません。相続人の1人の行方がわからないかもしれません。結果、相続登記ができないことも考えられます。
 このように関係する人が増えることと互いの関係性が遠くなることで話合いが極めて困難になるのです。相続登記の放置は大変危険です。

 

5 相続登記の義務化。罰則あり
 また、前述のとおり、未登記土地が社会問題となっていることから、相続登記を義務化するため、2021年4月21日に民法や不動産登記法などの改正法が成立し、相続登記が義務づけられることになりました。
正当な理由なく、相続による不動産の取得を知った日から3年以内に登記申請をしなかった場合には、10万円以下の過料に処されます。
 この改正法は、2024年4月から施行される予定です。
 改正法施行後は、速やかに相続登記を行わないと処罰される可能性も出てくるのです。

 

6 放置されている相続は弁護士にご相談を
 相続の手続きは、先送りにすると非常に困難になるという特性があります。自身の将来や将来世代に負担を掛けないように、早めに、相続の処理をされることをおすすめします。処理に問題がある場合や、どうしていいのかわからない場合は、弁護士がお手伝いできますので、お気軽にご相談ください。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

情報公開請求-口頭意見陳述やっちゃうぞキャンペーン- (弁護士 小林展大)

2022年12月10日 土曜日

小林展大弁護士については、こちらをご覧下さい。

 

第1 はじめに
 情報公開請求の審査請求手続においては,行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述と情報公開個人情報保護審査会(または行政不服審査会)における口頭意見陳述があります。
 審査請求手続は,原則書面審理なのですが,書面とは異なる事実発見の重要な機会を審理手続において設ける等の趣旨から,口頭意見陳述の機会が設けられています。
 私が行っている口頭意見陳述やっちゃうぞキャンペーンとは,情報公開請求の審査請求手続において,必ず行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述と情報公開個人情報保護審査会(または行政不服審査会)における口頭意見陳述の両方を申立て,とにかく必ず口頭意見陳述を行う,とにかく口頭意見陳述を行えばそれでいい,というものです。実際には,各口頭意見陳述を行う目的,狙い,理由等はあるのですが,それを書き始めるとそれだけで記事の内容が長くなってしまうので,あえて書かないことにします。

 

第2 行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述
1 行政不服審査法31条の規定
⑴ 1項
  審査請求人又は参加人の申立てがあった場合には、審理員は、当該申立てをした者(以下この条及び第四十一条第二項第二号において「申立人」という。)に口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、当該申立人の所在その他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが困難であると認められる場合には、この限りでない。

⑵ 2項
 前項本文の規定による意見の陳述(以下「口頭意見陳述」という。)は、審理員が期日及び場所を指定し、全ての審理関係人を招集してさせるものとする。

 

⑶ 3項
 口頭意見陳述において、申立人は、審理員の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。

⑷ 4項
 口頭意見陳述において、審理員は、申立人のする陳述が事件に関係のない事項にわたる場合その他相当でない場合には、これを制限することができる。

⑸ 5項
 口頭意見陳述に際し、申立人は、審理員の許可を得て、審査請求に係る事件に関し、処分庁等に対して、質問を発することができる。

2 行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述を行ってみて
⑴ 私が行っている,地方自治体に対する情報公開請求の審査請求手続において,地方自治体によっては,行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述の案内がありましたが,案内がなかった自治体もありました。

 

⑵ 次に,行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述は,申し立てをしないと実施されませんでした。
  また,情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会への諮問前に行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述を行った自治体と諮問後に行った自治体がありました。
  また,必要に応じて補佐人帯同申請をすることができます。

 

⑶ 私が行った行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述については,質問事項を作成して事前に提出し,同口頭意見陳述においてその回答を求めるようにしています。

 

⑷ 行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述については,記録の送付があった自治体と記録の送付がなかった自治体がありました。

⑸ 意見陳述を実施してみての感想としては,審査請求で対象文書の追加特定を求めている場合,既に開示された資料を読み込んでおく,他の地方自治体で特定,開示された文書,記録等を参考にする等の事前準備をしておくと,実施機関,処分庁において存在すると考えられる文書,記録を推測しやすいことがありました。
 また,対象文書の追加特定を求める場合,質問の仕方に工夫を要することがありました。
 一方,不開示処分の取り消しを求めている場合,意見陳述で効果的な質問をすることはかなり難しいと思います。不開示事由該当性について質問をしても,抽象的な回答に終始することが多かったです。
 さらに,審理員審理の場合,審理員が意見陳述の進行,指揮を適切に行うことで充実した意見陳述の実現につながったこともありましたし,審査請求人側で,類似事例との比較,他の地方自治体,行政機関等の対応との比較等をすることにより,意見陳述を形骸化させず,充実した意見陳述を実現する努力をする必要があるのではないかと考えられます。

 

第3 情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会における口頭意見陳述
1 根拠規定
 情報公開条例,情報公開・個人情報保護審査会条例,情報公開・個人情報保護審査会設置条例,情報公開・個人情報保護審査会設置法等に規定があります。

2 手続の主な流れ
⑴ 地方自治体によっては,審査会の口頭意見陳述の案内がありました。

⑵ 必要に応じて補佐人帯同申請をすることができます。

 

3 口頭意見陳述の進行
 審査会の口頭意見陳述の説明,注意事項伝達,審査請求人(及び補佐人)の意見陳述,審査会委員との質疑応答という進行が多いと思います。
 私が申し立てた情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会における口頭意見陳述は,今のところいずれも実施されていますが,審査会の口頭意見陳述の根拠規定については,義務規定もあれば,裁量規定もあり,申立をしても口頭意見陳述が実施されない場合もあります。

4 資料について
 私は,情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会における口頭意見陳述で言及する資料は,事前に提出しています。

5 口頭意見陳述の記録の送付の有無
 情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会における口頭意見陳述の記録の送付はありませんでした。

6 情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会における口頭意見陳述を実施してみて
⑴ 情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会における口頭意見陳述には,実施機関,処分庁の職員は出席しません。

⑵ 行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述と異なり,質問事項に沿って質疑応答という流れではありません。

⑶ 対象文書の特定,不開示事由該当性等,審査請求手続における争点を意識して口頭意見陳述を組み立てることが必要ではないかと考えられます。

⑷ 類似事例,他の地方自治体,行政機関等の対応との比較を踏まえたり,行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述を踏まえたりして,情報公開個人情報保護審査会または行政不服審査会における口頭意見陳述を充実化させる努力が必要ではないかと考えられます。

⑸ 補佐人帯同する場合には,事前に審査請求人と補佐人とで役割分担しておく方が現場での混乱が少ないように思います。

 

第4 終わりに
 情報公開請求の審査請求手続においては,口頭意見陳述も積極的に行い,我らが日本国憲法により保障されている知る権利の具現化を今後もはかりたいと思います。 

以上

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

安倍元首相の国葬に対する住民監査請求(弁護士 藤田温久)

2022年12月1日 木曜日

藤田温久弁護士については、こちらをご覧下さい。

1 2022年7月8日、同月10日投票の参議院選挙の街頭応援演説をしていた安倍 晋三元首相が銃撃を受け死亡し、同月22日、岸田首相は国葬(故安倍晋三国葬儀、 以下「本国葬」)を行うことを閣議決定しました。
 慣例的に行われてきた「内閣・自由民主党合同葬」ではなく「国葬」とする理由は、①首相在籍期間が憲政史上最長、②日本経済再生や外交に大きな実績、③ 外国首脳ら国際社会から高い評価がある等とされました。

2 住民監査請求
 しかし、本国葬は、明らかに違憲・違法であるため、9月15日、私達弁護士は県民・市民とともに、地方自治法に基づき、神奈川県、横浜市、川崎市の各監査委員に対し、知事、各市長、各議会議長が参列のために使用する公金(旅費・日当・宿泊費)の支出差し止め(支出後は返還請求)を求めて住民監査請求を行いました。

3 何故、本国葬が違憲・違法なのでしょうか。

(1)戦前の天皇制下では「国葬令」により、「國家ニ偉功アル者」の葬儀は、天皇の「思召」をもって、天皇の命令により実施されました。「国葬」は、国家が特定の「功臣」の死を政治的な狙いで利用するものだったのです。

(2)国葬令は、1947年に日本国憲法の基本原理と両立しないものとして法律により失効しました。現在の日本において、国を挙げて行なう公葬を規定する法律(皇室典範以外)は存在しません。

(3)本国葬の違憲性・違法性
 先ず、国民は平等であり(憲法14条)国は天皇以外を当然に特別扱いできません。本国葬は、法的根拠なく安倍氏を特別扱いして国費で葬儀をするものであり憲法14条に反します。また、故人に追悼の念を抱くか否かは個人的な営為であり個人の歴史観や世界観、政治信条に深く根ざした行為です。本国葬は、その追悼を、有形無形の圧力により国民に強いるという意味で、思想良心の自由を保障した憲法19条に反するものです。更に、本国葬は政教分離原則(憲法20条・89条)、表現の自由(憲法21条)にも反するものです。
 次に、本国葬は、法律に基づかないものです。岸田首相は、内閣府設置法に内閣府の所掌事務として「国の儀式」が挙げられているから「法的根拠」はあると言いますが詭弁です。行政は「法律を誠実に執行する」(憲法73条1号)ものであり、行政権の執行には、法律を執行するための機関を作る根拠となる「行政組織法」と、具体的に行政活動を営む際の手続や要件、活動の内容や効果に関する「行政作用法」が必要です。しかし、内閣府設置法は「行政組織法」=ハードウエアにすぎず、国葬に関する「行政作用法」=ソフトウエアは存在しないからです。本国葬は「法律に基づく行政の原理」に反しているのです。重大な違法行為です。

4 知事らが本国葬に出席するために公金を支出することの違法性
 地方自治法は、普通地方公共団体は、「地域における事務及びその他の事務」で「法律又はこれに基づく政令により処理することとされるもの」を処理するとしています。
しかし、知事らが本件国葬に出席するために公金を支出する根拠となる法律も政令も存在せず、その他の根拠もないため、公金支出は違法です。

5 知事らが本国葬に出席するために公金を支出することの不当性
 住民監査請求では、違憲・違法性だけではなく不当性も監査対象になります。仮に百歩譲って、本国葬が違憲・違法ではないとしても、本国葬は著しく不当であり出席のために公金を支出ことも不当であり許されないのです。
 つまり、安倍元首相は、

①「アベノミクス」により、日本経済の競争力を奪い、国民の格差と貧困を拡大し、

②「モリ」「カケ」「サクラ」問題など権力の私物化を進め、

③ 教育基本法の改悪や、安保法制・集団的自衛権行使等の違憲行為により

「民主主義」と「憲法秩序」を破壊してきました。このような安倍元首相を国葬にして評価することは、著しく不当だからです。

 

6 本国葬の強行
 岸田政権は、国民の多数が反対する中で(直近の主な全国10の世論調査全てで反対が賛成を大きく上回っていました)本国葬を2022年9月27日に強行しました。

7 意見陳述会と請求の却下
 横浜市は10月20日、神奈川県は翌21日、川崎市は27日に請求人と関係職員の意見陳述会を開催し、短時間ですが監査委員との質疑応答も行われました。当事務所の藤田、畑両弁護士も陳述を行いました。
 ところが、 横浜市は11月4日、神奈川県は11月11日、川崎市は11月11日にそれぞれ請求を却下しました。却下の理由は、判で押したように、閣議決定に基づき国から招待状が来て出席することは社会通念上相当と認められる社交儀礼上の行為であり国との信頼関係維持増進に資するものであるから地方公共団体の事務に含まれるというものでした。
 結局、各監査委員は、県や市の公費支出に法令上の根拠がないこと国葬が違憲違法であることにつき全く検討しないまま、監査請求を棄却したものであり、極めて不当です。

8 監査請求の成果
 しかし、本監査委請求を含む国民の本国葬に対する反対の運動は、無駄ではありませんでした。本国葬には、招待者の4割は参列せず、県知事4名、政令市市長1名が欠席し、全国のほとんどの市町村・学校において弔意を表することもされませんでした。また、G7諸国及び国連常任理事国の現役首脳の参加はゼロであり、岸田政権が本件国葬の意義として掲げた「弔問外交」も外交以前に破綻してしまいました。
 自民党二階氏は「国葬は当たり前だ。やらなかったらバカだ」「国葬が終わったら反対していた人も良かったと思うはず。日本人なら」等と発言していました。しかし、そうはなりませんでした。世論調査の結果は、本件国葬を評価しない人が評価する人を大きく上回っています。本住民監査請求の請求人も当初は37人でしたが、国葬後も続々と増え、217人の方が請求人となりました。 本国葬に対する市民の反対の意思の表れといえるでしょう。このまま国葬問題に蓋をすることは許されません。このような違憲違法な公費支出をした県知事、川崎市長に対して4月の一斉地方選挙で責任を問いましょう。                      

以上

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

労働者の権利348号(2022年11月発行)に掲載されました(弁護士 川口彩子)

2022年11月28日 月曜日

川口弁護士については、こちらをご覧下さい。

 日本労働弁護団 季刊紙 労働者の権利348号(2022年11月発行)に、川口彩子弁護士の「地位・関係性を利用した継続的な性行為強要型セクハラ事件逆転勝訴判決のご報告」が掲載されました。

労働者の権利348号の目次は、こちらからご覧下さい。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

ペットに関するトラブル~離婚時の我が子の引き取り問題を中心に~(弁護士 畑福生)

2022年11月21日 月曜日

畑福生弁護士については、こちらをご覧下さい。

 

こんにちは!弁護士の畑 福生です。昨年から保護猫と暮らしています。

 

畑・猫1

 我が家ではお猫様が世界の中心となっていますが、 一緒に暮らしてみると改めて「ペット」というより「家族」なのだと実感します。
 この記事では分かりやすさのために「ペット」と書きますが、家族ともいうべきペットにまつわるトラブルについて、離婚時の引き取りの問題にも触れながら紹介したいと思います。

 畑・猫2

1 ペットにまつわるトラブルについて
 ペットに関するトラブルとしては、次のように様々なものが挙げられます。

・ペットが被害者となる場合
 例えば、交通事故や動物病院、ペットホテル、トリミングショップでのミスによってケガをした等

・ペットが加害者となる場合
 例えば、ペットが噛んだり引っかいたりして怪我をさせた、物を壊した、野良猫や野鳥への餌やりで隣家に糞尿被害が出た等

・それ以外の契約に関する問題
 例えば、ペットショップとの契約問題、 賃貸住宅でのペットの飼育トラブル、ペットの葬儀に関するトラブル、ペットに財産を残したいという意向を遺産分割協議に反映させること、動物保護団体を装った里親詐欺等

 

2  ペットの引き取り問題
 このように様々なトラブルが生じ得るところですが、今回は、特に離婚の際にペットを誰が引き取るかという問題についてまとめたいと思います。

⑴ ペットは「物」として扱われる
 大事な大事な我が子、この世に二つとない大切な命ではありますが、民法上はペットは「物」として扱われてしまいます(民法85条)。
そのため、民法上は、ペット自身は権利を持たず、むしろ所有権の対象として、すなわち誰かの所有物として取り扱われます。

 

⑵ ペットは財産分与の対象となりうる
 「物」として所有権の対象となることから、 結婚生活の中で、夫婦の家計からペットを購入したような場合には、ペットは夫婦の共有財産となります。他方で、 結婚前からどちらかが飼っていたなどの特別な事情がある場合はその方のみの財産となります、
 夫婦の子どもについては、離婚時にどちらが親権を得るかが問題となりますが、残念ながらペットには親権は存在しません。
 そのため、共有財産として扱われたペットは、夫婦の離婚時に財産分与(=夫婦が協力して築き上げた財産を公平に分配する手続き)の対象となります。

 

⑶ 一般的な財産分与の方法

ア 現金、預貯金など
 財産分与において、現金や預貯金など分けやすいものであれば、夫婦が半分ずつ取得するというように計算することが多いです。

イ 不動産など
 また、不動産などそのままでは二つに分けられないものは、
 ①売却して売上げを夫婦で分ける方法や、
 ②その物の財産的な価値(売却価格など)の2分の1を夫婦のどちらかが他方に支払って、その方が所有権を得る(片方は所有権を得る、もう片方が相当額のお金を得る)という方法がメジャーです。
 その他にも、③(土地であれば)分筆して二つの土地にしてしまうことや、④分けずに共有として残しておくということもあり得ますが、様々なリスクから③④はおススメしないことが多いです。

 

⑷  ペットの 財産分与の方法は?
 このような方法を踏まえると、ペットの財産分与はどのように考えればよいでしょうか。
 まず、当然ながらペットは物理的に分けられないので、上記「ア」や「イ」の③の分けてしまうという方法はとれません。
 また、大事な我が子を売るなんてとんでもない。上記「イ」のうちの①方法 (売却) もできませんよね。
 
 そうすると、上記「イ」の③(お金を払うなどしてどちらかが取得)が残ります。

 ただ、夫婦共有財産としてのペルシャ猫の価値が15万円として主張された事案において、裁判所は「 通常、ペットの猫の飼育には、相当の費用が必要となること、また、ペットの猫が病気等に罹患することも稀ではなく、相当高額の治療費を必要とする場合もあることに照らせば、ペットを財産的価値があるものとして扱い、財産分与の対象財産とすることは相当でないというべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。」( 横浜家庭裁判所相模原支部 平成29年10月30日判決・ D1-Law.com判例体系:28261791)とされています。
 特別な場合を除いて、一般的にペットには財産的な価値が認められにくいことが多いです。
 そのため、離婚時のペットの引き取りは、無償でどちらか一方がペットを引き取るとなることも多いかと思います。 

 

⑸ じゃあ、どちらが引き取るかはどう決めるの?
ア 話合い
 まずは、話し合いで、どちらが引き取るのがペットにとって幸せかを踏まえて、どちらが引き取るべきかを決めることとなります。

イ 調停
 話合いでもまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では裁判所(調停委員会)を介して、合意を目指します。離婚調停の中で財産分与について話し合うのもできますし、財産分与を目的とした調停を起こすこともできます。

ウ 審判・離婚裁判
 調停でもまとまらない場合は、裁判所が審判によってまたは離婚裁判の中で、当事者の主張を踏まえて、判断を下します。
 審判や裁判において、裁判所がどういった事情を踏まえて判断をするのかは明確に示されてはいません。
 
 ただ、ペットが人間の子ども同様に愛情をもって取り扱われるべき存在であることからすれば、
 ・離婚までにどちらが主にペットの世話をしていたか
 ・どちらによりなついているか
 ・離婚後の飼育環境や経済状況など、客観的にみて夫婦どちらに飼育されるのがペットの幸福につながるか
 などの事情の総合考慮の上で、判断がなされることになると考えられます。
 ですので、審判や裁判においてはその点を踏まえた主張・立証が欠かせません。

 

⑹ その他、ペットの養育費は?ペットの面会交流は?
  既に述べたとおり、残念ながら、ペットは人間の子どもとは異なり所有物として扱われてしまうので、ペットの所有権を取得した方から、他方に対して養育費を請求することはできません。また面会交流を求める法律上の権利もないと考えられます。
  ただ、愛する我が子に会いたい、我が子の健康な生活に貢献したいという気持ちもあるはずです。
  先程のどちらが引き取るかを話し合いで決める際に、「あなたにこの子を託すから、その代わり月に何回かは合わせてほしい」、「この子のご飯代や医療費を払うから合わせてほしい」といった条件をつけて交渉し、少しでもお気持ちを叶える方向で合意をするということも考えられます。
 審判や裁判で最終的に裁判所が判断するとなると、どちらが所有権を取得するかという話にしかなりませんが、話合い(調停含む)であれば、柔軟な解決も可能です。
 特にペットについては医療費の負担が高額となりやすいことから、相手方に医療費の支払いなどのメリットを提示しつつ、面会交流などこちらの希望を一定程度叶えるということも考えられます。

 川崎合同法律事務所は、弁護士、事務員含め愛するペットと暮らす所員も多く在席しています。

 ペットの財産分与の問題含め、離婚の問題について皆様のご相談に多くお答えしております。

お困りの際は是非ご相談ください。

≪離婚・男女問題特設ページはこちら≫
https://www.kawagou.org/divorce/

 

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離れて暮らしている子どもに会いたい~面会交流について~ (弁護士 中瀬奈都子)

2022年11月15日 火曜日

 中瀬弁護士については、こちらをご覧下さい。

 離婚をするときには、必ず、どちらが親権者になるかを決めなけばなりません。親権者にならない親にとっては、離婚後も子どもと連絡をとりあえるか、会えるか、ということはとても気になる問題だと思います。
また、離婚までに至らず、夫婦が別居している段階においても、他方配偶者が子どもを連れて出ていった場合には同じ問題が生じます。

 「離れて暮らしている子どもとなかなか会えていない、どうすればよいか」、「離婚後も子どもと交流できるようにするために、どういう約束事をとりつければよいか」、あるいは、「元パートナーから子どもと会わせてほしいと言われているがどうすればいいか」というご相談を受けることがしばしばあります。

 

◇面会交流とは?
 子どもと離れて暮らしている親(非監護親)と子どもが、直接会ったり、それ以外の方法で交流をすることを「面会交流」と言います。
 面会交流は、親の権利という側面だけでなく、子どもの成長にとって大切な役割を果たすものであり、子の権利という側面も有すると言われています。
 そして、民法には、面会交流について、協議で決める場合、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」(見法766条1項)とされているため、子の利益(子の福祉)を第一に考えるべきことがはっきりしています。

 

◇面会交流の方法
 面会交流の方法は、直接会うことに限られません。
 電話でのやりとりや手紙のやりとり、非監護親からのプレゼントの送付、子の写真や動画の送付などいろんな方法があります(これらを間接交流といいます。)。
 最近では、ZOOMやLINEでのやりとりもさかんです。

 

◇家庭裁判所の運用
 仮に当事者間での話し合いで決められず、後述する調停や審判手続きで面会交流について決めることになった場合、裁判所は、面会交流が、子の健全な育成にとって有益であるという基本的な立場にたち、子の福祉を害するなどの特段の事情がある場合を除いて、原則として認めるべき、という運用になっています。

 ☛裁判所が公開している動画を見ると、家庭裁判所の運用がよくわかります。
  ・離婚をめぐる争いから子どもを守るために
  ・子どもにとって望ましい話し合いとなるために
  

 家庭裁判所では、以下のような判断要素によって、面会交流を認めるかどうか、どのような方法・頻度で交流するかといったことを考えることになります。

 

① 子どもに関する要素(子どもの意思、年齢、子どもの心身や生活環境におよぼす影響)
② 監護親に関する要素(監護親の意思、監護親の養育監護に対する影響、監護親の生活状況)
③ 非監護親に関する要素(非監護親の問題点)
④ 両親の関係に関する要素(別居・離婚に至った経緯、別居・離婚後の関係性)等

 

 子の福祉を最優先に考慮しなければならないことから、特に①の子どもに関する要素が最重要視されます。
 子どもの意思に関しては、子どもが非監護親に嫌悪、拒否、恐怖などの感情を示している場合には、面会交流が認められない方向になります。
 もっとも、両親間の対立が激しかったり、長期間交流していなかったりすることで、当初は不安感や抵抗感を示す子どもも少なくありません。特に幼年の子は、一番身近な監護親の前では、「会いたくない」と言っていても、実際に会ってみると楽しく過ごした・・・ということが多々あります。一緒に暮らす監護親の愛情を守りたいために、監護親の気持ちに沿う反応を見せることがあるのです。また、時間をかけてならしたり、面会交流の方法を工夫することで、子どもの不安や抵抗感が解消されることもあります。
 子どもの表面的な反応だけで、面会交流の可否を決めるべきでない場合もあることに留意しましょう。

 

◇面会交流が制限、禁止されうる場合とは?
 家庭裁判所の基本的な立場は会わせる、ですが、もちろん制限、禁止すべきケースもあります。そのような場合は、しっかりと事情を説明していく必要があります。
 では、子の福祉を害するとして、面会交流が制限、禁止されうるのは、どんな事情がある場合でしょうか。
 例えば、①子の連れ去りのおそれがある場合、②非監護親から虐待のおそれがある場合、③非監護親から監護親に対する暴力がある場合などが考えられます。
 子どもを監護親のもとから突然連れ去るのは、子どもから生活基盤を失わせる行為ですので、面会交流を制限、禁止すべき事由にあたります。また、子どもへの虐待行為は言うまでもありません。監護親に対する暴力も、子どもの面前で行われれば、心理的虐待にあたるため、面会交流を制限・禁止する方向になり得ます。
 また、面会交流について合意した約束事を守らないといったことも、その内容が重大だったり、何度も約束を破ったりした場合には、子どもの利益を害し、当事者間の信頼関係を損なうことでもあるため、面会交流を制限・禁止するべき事由にあたります。

 なお、養育費を支払わないから、会わせたくないというご相談をいただくこともありますが、面会交流の実施と養育費の支払いは対価関係にないため、支払わないことをもって面会交流を制限・禁止することはできません。
 もちろん、養育費の不払いはそれはそれで大問題です。強制執行などの手段をもって解決できる場合もあります。諦めず、是非ご相談ください。
 
◇子どもと会う、会わせるのはいいけれど、相手方には会いたくない・・・
 まだお子さんが小さく、一人で行動ができない場合には、どうしても監護親が面会場所までお子さんを連れて行く必要があります。別居や離婚に至った当事者どうしですから、顔をあわせるのに抵抗があるのも当然です。
 そのような場合には、例えば、面会交流に関する支援を行っている団体を利用することが考えられます。
面会交流支援団体は、例えば、次のようなことをしてくれます。

・連絡調整:具体的な日時や場所等を決めるための連絡を代わりに行ってくれます。 
・子どもの受渡し支援:子どもの受渡しを代わりに行ってくれます。
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(弁護士中瀬奈都子)

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

休職制度を悪用した解雇規制の潜脱手法を断罪  NECディスプレイソリューションズ横浜地裁判決(弁護士 川岸卓哉)

2022年10月21日 金曜日

NECD

 2021年12月23日、横浜地方裁判所は、原告のNECディスプレイソリューションズ株式会社(現、シャープNECディスプレイソリューションズ株式会社。以下、「会社」という)に対する地位を確認する原告勝利の判決を下した。本件は、大学新卒入社後、業務によって原告が適応障害(一時的に、ストレスを原因とした苦悩を生み、そのために気分や行動面に症状が現れる病気。憂うつな気分、不安感が強くなり、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になる)を発症したところ、会社及び指定が、原告が発達障害(生まれつきの能力・発達に特徴があり社会生活上支障がでる障害)であると決めつけ、適応障害が治癒した後も、障害者としての雇用を希望しない限り、会社には復帰する職場がないとし、これに納得出来ないとする原告を休職期間満了による退職として、実質的に解雇したものである。本事件は、昨今の労働現場で急増している労働者の精神疾患による休業について、自らの労働安全衛生上の責任が問われるべき企業が、責任を労働者に転嫁し、休職制度を悪用して解雇規制を潜脱しようとしたもので、現代的な特徴がある。以下、本件の経緯、横浜地裁判決の判旨及び本件の社会的背景について、精神医学が社会的抑圧の手段として濫用される歴史も踏まえて報告する。

第1 休職制度を悪用した職場排除の経緯

1 原告の適応障害発症・悪化
(1)適応障害の発症
 2014年4月、原告は、大学新卒で正社員としてNECDSに入社した。入社後は、同僚や上司のと、業務に真面目に取り組んでおり、入社1年目の原告のコミュニケーション能力に問題がなかったことは、会社も認めている。もっとも、原告の仕事量や仕事内容は、新入社員である原告にとって、やむにやまれず残業をしなくては達成できないものであった。他方、上司は、残業時間規制のみを形式的に順守させようとし、原告の置かれた状況を理解せず、ただ叱責するのみで、原告は業務量と残業時間規制の板挟みになった。このような業務負荷に加えて、原告は、お酒が飲めないのに飲み会に参加せざるを得ない環境に放置されたというアルコールハラスメント、2014年12月の職場の忘年会でのお尻比べなどのセクシャルハラスメント、密輸行為に加担させられたこと等の精神的負荷を受けていた。これらにより、原告は、入社2年目になる頃には適応障害を発症するに至った。

(2)会社は原告の発症理由に対する訴えに何ら対策をせず悪化していったこと
 発症後の入社2年目の2015年6月の会社定例の産業医面談時には、原告は、どんな辛いことでも耐えるしかないと、その追い詰められた心理状態について、涙ながらに訴えていた。このとき、会社は、当時の原告の状態を受け止め、配慮した働き掛けをすることによって改善する機会があったにもかかわらず、「飲み会幹事役がしんどいなら代わっていいことを投げかけた」程度のことしかしなかった。当時、会社社内でもマネジメント不足が原告の症状の原因である可能性が指摘されていた。しかし、会社の産業看護師が「大人の発達障害の疑い」を指摘し、原告側に責任転嫁する発言をしたことに端を発し、会社は、原告を発達障害と決めて動くようになった。原告は、会社に何を言っても無駄だと絶望し、ただ黙って耐えながら仕事をするしかないと心を閉座さざるを得なくなるほどまで追い詰められ、正常なコミュニケーションが困難な状況となった。その後も、会社は、原告の業務量を減らす等の原告の心身への適切な配慮をしなかった。会社は、原告が過精神的ストレスを受け続けるのを漫然と放置した結果、適応障害の症状を悪化させており、症状の悪化の原因は会社のマネジメント不足にある。しかし、2015年12月19日、会社の上司らは原告の意に反して、4人がかりで原告の両手両足を掴んで宙吊りにし、約百メートルにわたって移動して、職場から閉め出すという、暴力的に職場から排除するという暴挙に至った。

2 会社は指定医と共謀して原告を発達障害と決めつけて退職に追い込んだ
  会社は、原告を職場から排除をした後も、発達障害を対象としたリワークプログラムを受講させ、指定医に対して、原告の同意なく、初診に先立ち会社の一方的見解を送り付け、その後も、事実無根のことを伝えて、発達障害であると所見を固めさせた。そして、会社と指定医は秘密裡に連絡をとりあいながら、障害者雇用に追い込む意図を共有し、発達障害であることを前提とする診療情報提供書を指定医に作成させた。指定医が作成した診療情報提供書には、「傷病名」として「能力発達に元々特性があり、業務に支障をきたす人」と記載されており、これは発達障害の定義に他ならない。指定医は、発達障害の確定診断のため、必要な検査も行っておらず、医学的に承認された診断基準も満たしていなかった。このため、医学的には、発達障害などと診断することは不可能であった。それにもかかわらず、指定医は、会社から、依頼を受け、会社が原告に対して職復帰を拒絶する根拠として使用することを知り、あるいは、少なくとも、予見可能な状況で、これを作成して提供したものであった。
 そして、会社は、指定医の作成した発達障害を意味する診療情報提供書を受容し無い限り、復職を認めない態度をとり続けた。これは、原告にとっては、会社での雇用を諦め、障がい者雇用を受容することになり、応じることの出来ない条件であった。結局、会社は、電機・情報ユニオンとの労使交渉の末、一方的に休職期間満了での退職の通知を行った。

3 発達障害を理由とした解雇規制の潜脱
  弁護団は、本件の提訴のときから、指定医の診療情報提供書は、発達障害の確定診断をするために必要な検査も行っていなければ、診断基準も満たしていないことを指摘した。さらに、提訴後、わが国において発達障害の臨床医学を代表する医師である市川宏伸医師の診察で必要な検査を受け、ICD-10等の医学的に承認された診断基準に照らして、原告が発達障害ではないと正式に診断した意見書を提出した。訴訟において、専門医による適切な診察の結果、原告が発達障害にり患していないことが確定的となり、追い詰められた会社は、原告に「何らかの精神疾患による健康状態の悪化により業務遂行に必要なコミュニケーション能力、社会性等を欠く状態となり、労働契約における債務の本旨に従った履行の提供ができない状態になったこと」を休職事由として主張するに至った。このような主張は、会社が休職制度を悪用し、実際は労働法の解雇規制を潜脱しようとする本音が表れたものである。
  発達障害は、その要素は「どんな人でも」持っており、「特性の濃い人から薄い人までグラデュエイション」があるという特徴がある。このため、「発達障害」の診断基準を満たさないため、「疾病」とは診断出来ない場合でも、その「特性」故に、病気が再発する恐れがある等として、元の職場に復帰させることを拒絶することが容認されるようなことがあれば、使用者は、脱法的に、好ましくないと考える労働者を、事実上、解雇することが出来るようになる。そのようなことが黙認されるなら、企業は好ましくないと考える労働者に対して、意図的に、業務上、人間関係上、高ストレスの負荷を与えることで、労働者をメンタル疾患に陥れ、後は、誰もが有する発達障害の特性を問題とすることで、脱法的に、労働者を事実上解雇出来ることになる。かかる新たな解雇規制の潜脱の手法は、到底許されない。

第2 横浜地裁判決の要旨 
  弁護団の「休職制度を悪用した解雇規制の潜脱は許されない」という訴えに対して、横浜地裁判決は、正面から答え、労働者の保護のため休職制度を悪用した解雇規制潜脱の手法を断じ、地位確認を認容した。

1 判決文要旨
 「復職の要件とされている「休職理由が消滅した」とは、原告と会社との労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい、原則として、従前の職務を通常程度に行える健康状態になった場合をいうものと解するのが相当である。」
 「もっとも、職務を通常の程度に行える労働能力を欠くことは、いわゆる普通解雇の解雇理由ともなり得る」
「従業員が私傷病により休職したときに、その復職の要件である「従前の職務を通常の程度に行える健康状態」を、当該従業員が私傷病により労働能力を欠くことになる前のレベル(以下「私傷病発症前の職務遂行のレベル」という。)以上の労働が提供できることになったことを意味する」
「私傷病発症前の職務遂行のレベル以上のものに至っていないことを理由に休職期間満了により自然退職とすることは、いわゆる解雇権濫用法理の適用を受けることなく、休職期間満了による雇用契約の終了という法的効果を生じることになり、労働者の保護に欠けることになる。」
 「原告の休職理由である適応障害から生じる症状とは区別されるべき本来的な人格構造又は発達段階での特性が含まれており、休職理由に含まれない事由を理由として、いわゆる解雇権濫用法理の適用を受けることなく、休職期間満了による雇用契約終了という法的効果を生じさせるに等しく、許されないというべきである」

2 判決の評価
  我が国において、労働者の闘いに応え、裁判所が判例として確立してきた解雇規制法理は、労働契約法で実定法化されるに至っている。これに対して、企業は、正面から解雇規制法理を突破するのは困難であるため、潜脱目的では新たな首切り手法を生み出してきた。
  解雇規制潜脱の手法は、電機・情報ユニオンに寄せられた相談等からは、以下の3類型がみられると考える。まず、①組織的に計画された退職強要面談等を繰り返して精神的に追い込み自主退職に追い込む手法(同じく電機・情報ユニオンの組合員が原告として当弁護団が担当した日立製作所退職強要事件令和2年3月24日横浜地裁判決等 判例時報2481号75頁)、②業務で高いストレスを加えて精神疾患を発症させ、休職、そのまま退職に追い込む手法、③そして、休職事由となった精神疾患が寛解し復職可能な状態にもかかわらず、会社の意を受けた産業医・指定等が精神疾患とレッテル張りをし退職・障害者雇用に追い込む手法である(神奈川SR経営労務センター事件平成30年5月10日横浜地方裁判所判決 労判1187号39頁、当事件は「ブラック産業医」問題としてキャンペーンを行った)。本件は、第3類型に該当し、高いストレスの労働現場で、一度、メンタル系疾病に罹患した労働者については、障がい者である等の口実を設けて職場から排除し、最終的には休業期間満了で退職させるという精神疾患を利用した解雇規制潜脱の手法が、典型的に現れた事件である。本判決は、このような新たな手法の問題点を明らかにし、「当該傷病とは別の事情」を理由に「休職期間満了により自然退職とすること」は、「解雇権濫用法理の適用を受けることなく、休職期間満了による雇用契約の終了という法的効果を生じさせることになり、労働者保護に欠ける」として、脱法的手法を断罪し、休職期間満了による退職を無効としたものである。本判決は、裁判所として、長年労働者の闘いに応えた司法の確立してきた「労働者保護」のための「解雇規制」の潜脱を看過せず、法の番人としての職責を果たそうとする司法として矜恃を示した判決と評価できる。

 

第3 本件の社会的背景
1 急増するメンタル疾患者に対しての復職支援が社会的問題
  わが国において、精神疾患の急増と、休職者への復職支援は社会問題となっている。厚生労働省の労働安全衛生調査(2020年)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続1ヵ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所割合は、平均で9.2%、退職した労働者は3.7%もおり、メンタル不調は、労働者の休職・退職の原因となっている。休職する労働者の割合を産業別に見ていくと、情報通信業、電気・ガス・熱供給・水道業、学術研究、専門・技術サービス業、複合サービス事業が高くなっており、特に情報通信(休職24%・退職12%)とストレスが高く、休職後・退職する傾向がみられる。厚生労働省においても、「心の健康問題により休業した労働者の職場支援手引き」が制定され、各企業において復職支援が進められているところである。 

 
2 精神医学が社会的抑圧の手段として濫用される歴史
  精神疾患の場合は、身体疾患と異なって、精神疾患の根拠となるような身体的異常が未だ見出されていないことや、そもそも病気なのかということが問題になってくるなど、未だ客観的・科学的には解明しきれていない分野という特性がある。その結果、精神医学が、社会にとって好ましくない者に対する社会的抑圧の手段として濫用される危険という問題が古くからあった。旧ソ連では、理想的な政治形態とみなされていた共産主義に反抗することは『狂気』の表れと考えられ、不活発型統合失調症(slggish schizophrenia)という診断の下に、政治犯の実に1/3が精神病院に強制的に収容され、抗精神病薬の投与などによって『治療』を試みられていたという歴史を経験している。
  このような労働問題と精神医療の問題については、わが国でも、1960年代の産業医制度の創設時点から、会社にとって好ましくない労働者を病気であるとして排除する制度になる危険性が指摘され、「治療とはいいつつ、精神科医は不調者を結局は排除する役割を担い、企業の経営合理性に利するものにしかならないのではないか。さらに、むしろ企業にとって不都合な人員を恣意的な診断によって放逐するようなことにさえ手を染めているのではないか」(荻野達史「産業精神保健の歴史ー1950年代~現在まで」)という批判が、盛んに行われてきた。
  特に、現代も、「我々は現在、『ブラック企業』『追い出し部屋』という言葉に象徴される現象として、一定数の企業が人員削減をとくに『自己都合退職』の形で進めるために様々な“手法”を用いていることを改めて知るようになった。こうした状況のなかで、産業精神保健に関わる活動やその知識・情報が、不適切に利用される、もっといえば“悪用”される危険性について考えないとすれば、それも楽観的に過ぎるだろう。」(萩野達史 同論文)と指摘されているところである。
 ところが、2006年の安衛法改正とメンタルヘルスに関する新ガイドラインの制定により、職場の安全衛生確保の徹底が社会問題となり、その担い手としての産業医の役割が大きく位置づけられるなど、産業医に対する役割・期待が増大する一方で、会社にとって好ましくない労働者を病気であるとして排除する制度になる危険性という問題が忘れられ、資本の論理に飲み込まれないよう職務を全うすべきことの緊張感が薄らぎ、産業医制度創設時に盛んに議論された危うさの問題がそのまま表面化してきているといわざるを得ない。

3 急速に広がる「発達障害」の病名を利用しての職場からの排除
  以上のような労働問題に対する精神科医の関わりの問題状況にあって、とりわけ、慎重でなければならないのが、発達障害に関わる問題である。発達障害は、それまでは精神疾患とはとらえられていなかったものが、近年、精神医学的に疾患と捕らえられるようになったものであり、かつ、治癒を前提としない障害として、一時的な疾病とは異なった位置づけを与えられるからである。発達障害有病率は、三十年ほど前までは、一万人に数人と言われていたが、調査が行われるたびにその数が増え、2000年頃には、1000人あたり7~8人と言われるようになり、さらに最近の調査では、百人に、1.4人と、ついに1%を突破しており、数十倍にも増えた急増している傾向にある。急上昇の原因として、定型発達からはずれれば、すべて「発達障害」に見えてくるため、競うように「発達障害」の診断が下された結果、濫用的な過剰診断がなされている。「発達障害」の病名の広がりの一方で、それぞれの「発達の個性」まで「障害」であり社会的に排除される風潮が危惧されている。そのため、「発達障害」の診断を的確に実施すべく、近年では、診断アセスメントツールが開発されている。
しかし、本件において、指定医は、必要な検査や診断をほとんど行わずに、原告を「発達障害」という障害者とし、会社の職場排除に加担した。本件では、今、急速に社会にひろがっている「発達障害」の病名を悪用し、労働者を障害者扱いにし、退職に追い込む手法が用いられたものである。

4 指定医の責任
  前述のとおり、メンタル疾患を契機とする脱法的解雇には、会社の意向を汲んだ会社の産業医や指定医の関与が散見され、問題とされてきたため、本件では指定医の注意義務違反についても、正面から責任を追及した。しかし、指定医の責任について、横浜地裁判決は、「就業規則上、原告の復職の可否を判断するのは被告会社であり、主治医として患者の復職が認められず退職に至らせる蓋然性のあるような医学的意見を述べてはならない旨の義務が一般的に存在するものとは解されない」「当該患者を退職又は障害者雇用に追い込む目的で殊更偏頗又は著しく不合理な意見を述べるといったような事情がない限り、主治医の診療情報提供書の記載に注意義務違反が認められることはないと解される」と、指定師の注意義務違反の立証について高いハードルの定め、指定医の義務違反を認めなかった。横浜地裁判決は、精神科医療が差別に悪用されてきた歴史の中での本件の位置づけを正解せず、安易に医師を免責しており、問題のある判決である。

第4 最後に
  横浜地裁判決に対して、会社は控訴をせず、現在復職条件についての団体交渉が会社と電機・情報ユニオンの間で進められている。電機産業界では、 2011年ころから電機リストラの嵐が吹き始め、既に64万人にも及ぶ正規労働者がリストラされているが、未だに終息を見ることがない。対象とされた労働者は、組織的に強い精神的負荷をかけられて、退職を迫られている。原告と弁護団は、原告が所属する電機・情報ユニオンと共にその実態を告発し、本判決を梃子に、原告の職場復帰を実現すると共に、脱法的手法による不当なリストラのない社会を目指して奮闘したい。 

弁護団:藤田温久、川岸卓哉、畑福生(川崎合同法律事務所)、高橋宏(横浜合同法律事務所)

(本原稿は「季刊・労働者の権利」2022年7月号に寄稿した原稿です)

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改めて遺言について考えませんか?(弁護士 小野通子)

2022年9月6日 火曜日

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