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行政不服審査法シンポジウム-5年後見直しの課題-のご報告  (弁護士 小林展大)

2021年6月29日 火曜日

 小林展大弁護士については、こちらをご覧ください。

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1 2021年5月17日(月),日本弁護士連合会主催の「行政不服審査法シンポジウム-5年後見直しの課題-」にパネリストとして登壇し,情報公開の分野における審査請求の問題点について報告するとともに,パネルディスカッションもしてきました。

2 この情報公開請求は,マイナンバー違憲訴訟の中で判明したものですが,マイナンバーを取扱う業務については,委託元の許諾を得なければ再委託してはならないこととなっているにもかかわらず(番号法10条1項),委託元の許諾を得ずにマイナンバーを取扱う業務を再委託して,マイナンバーが大量漏えいするという事故が続発したことから,その事故について事実関係を確認するために行っていたものです(現在もまだ情報公開請求の手続は続いています。)。

3 情報公開請求の分野における審査請求の問題点については,主に地方自治体における審査請求手続の問題点を報告しました。具体的には,審査庁において,弁明,反論という形で一通り主張させてから情報公開・個人情報保護審査会もしくは行政不服審査会に諮問している自治体もあれば,弁明書が提出されるとすぐに審査会に諮問してしまい,審査会において反論をさせている自治体があるという手続上のばらつき,行政不服審査法31条1項に基づく口頭意見陳述及び審査会での口頭意見陳述の案内をしている自治体もあれば,同案内をしていない自治体もあるという問題,審査会への諮問後に意見書等の提出の機会を与えている自治体とそうでない自治体があるという手続のばらつき,審査会で口頭意見陳述をしたときの審査会の委員の姿勢の違い等を報告しました。
  また,地方自治体の情報公開請求の審査請求手続については,情報公開条例により,2014年の法改正で導入された審理員による審理制度を適用除外としている自治体が多いですが,審理員による審理制度がなされた自治体については,その審理の経過も報告しました。
  そのほか,審査会の答申と裁決の傾向,審査請求手続における対象文書の追加特定についての問題点,当初不存在とされた文書が実は存在していて後に部分公開決定がなされたという実例等も報告しました。

4 パネルディスカッションにおいては,行政不服審査における論点をいくつかピックアップして,その各論点につき,ディスカッションをしました。

  具体的には,弁明書・理由説明書の記載が不十分ではないかと考えられること,処分庁の主張を基礎付けるような証拠,資料等があまり提出されず,物件提出要求申立(行政不服審査法33条)をすることになることもあること,口頭意見陳述の実情,口頭意見陳述の活発化等といった各論点について,コーディネーター及びパネリストでディスカッションをしました。

5 シンポジウムに向けた準備をするために,自分自身で行っていた情報公開請求及び審査請求を振り返ってみて,手続の相異として興味深い点もあれば,改善が必要ではないかと思う点も見つかり,行政不服審査の実務上の問題点を見つめ直す良い機会となりました。

  特に,口頭意見陳述の活発化,口頭意見陳述を有意義,有益なものとするための努力は,制度を利用する者としての今後の重要課題であろうと考えられます。

以上

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首都圏建設アスベスト神奈川1陣訴訟、最高裁で勝訴しました!!(弁護士山口毅大)

2021年5月18日 火曜日

 2021年5月17日、首都圏建設アスベスト訴訟(神奈川訴訟1陣)において、最高裁判所で、国と建材メーカーの責任、更に一人親方等の救済を認める勝利判決を勝ち取りました。

 

 首都圏建設アスベスト訴訟は、建築現場における作業を通じて石綿粉じんに曝露し、中皮腫や肺ガンなどの石綿関連疾患を発症した被災者及びその遺族が、国と建材メーカーを相手に訴えた訴訟です。当事務所からは、神奈川訴訟の弁護団団長である西村隆雄弁護士、藤田温久弁護士、小野通子弁護士、星野文紀弁護士、川岸卓哉弁護士、中瀬奈都子弁護士、山口毅大弁護士、小林展大弁護士、畑福生弁護士が弁護団に加わっています。

 

 2008年、国と建材メーカーに損害賠償を求める首都圏建設アスベスト訴訟(東京・神奈川)を提起し、これ続き、2011年には北海道、京都、大阪、福岡の全国各地で、同様の訴訟が提起されました。
原告は、大工・保温工・電工・左官・配管工・解体工などの建設作業に従事し、肺がん・中皮腫・石綿肺などの石綿関連疾患に罹った被害者であり、被告は、国及び石綿含有建材を製造販売した40数社の企業です。
いずれの訴訟においても、国に対しては、石綿の危険性を知りながら、防じんマスクの着用義務付けや製造・使用禁止措置などの規制を怠ったこと、建材メーカーに対しては、危険な石綿建材を製造販売し続け、製造販売にあたり適切な警告表示を行わなかったことなどの責任を追及してきました。

 

 国、メーカーの責任、更に一人親方等の救済を認めた最高裁での勝利判決は、建設アスベスト訴訟の被害補償基金制度の創設に向けて大きな武器となりました。特に、一人親方等についても、国の責任を認めたという点で、世論、政治に訴える力は極めて大きいものです。

 

 テレビ、新聞等、各メディアで大きく報道されました。

 提訴してからすでに13年が経過しました。この間、全国各地で建設アスベスト集団訴訟が提起され、原告の総数は、今回最高裁判決を受けた4事件を含め、被災者単位で900名を超えていますが、そのうち7割を超える者が亡くなっております。もはやこれ以上の解決の引き延ばしは許されません。

 2020年12月14日、東京1陣訴訟における最高裁判所第一小法廷の上告受理決定により国の法的責任が確定し、同年12月23日、田村憲久厚生労働大臣は、原告代表者を大臣室に招いて謝罪するとともに被災者救済のための協議の場を設けるとの考えを示しました。

 

 国は本最高裁判決を真摯に受け止め、全国の建設アスベスト訴訟を速やかに和解によって解決すべきです。

 

 また、建材メーカーらも徒に訴訟を引き延ばすことなく、早期解決のため、和解のテーブルに着くべきです。

 

 さらに、アスベスト関連疾患による労災認定者はこれまでに約1万8000人に上り、建設業がその半数を占め、石綿救済法で認定された被害者の中にも相当数の建築作業従事者が含まれています。また建設アスベスト被害者が今後も毎年500~600人ずつ発生することが予測されています。

 そこで、これらの被害者が裁判などしなくとも早期に救済されるよう、「建設アスベスト被害者補償基金」を創設することが喫緊の課題となっています。現在、与党建設アスベスト対策PTにおいて協議が進められていますが、国及び建材メーカーは、与党PTと連携し、基金創設に向け最大限の努力をすべきです。

 

 私たちは、「建設アスベスト被害者補償基金」の創設まで、全力を尽くして参ります。

 

 

 

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台風19号多摩川水害川崎訴訟 提訴の報告(弁護士 川岸卓哉)

2021年4月23日 金曜日

川岸卓哉弁護士については、こちらをご覧ください。

水害提訴行動  

1 提訴の概要

 2019(令和元)年10月12日、多摩川流域に台風19号が襲来した。同台風は、日本各地に大雨をもたらし、多摩川の河川水位も、大雨により大きく上昇した。市内の住家被害は、全壊38件、半壊941件、一部損壊167件、床上浸水1198件、床下浸水379件に及んだ。市内の浸水被害の多くは、市内から多摩川へ注ぐ5か所の排水樋管のゲートが閉じられなかったため、多摩川から市街地へ逆流した泥水が原因で、110haもの広範な地域を浸水させた。
 2021年3月9日、横浜地方裁判所川崎支部へ、川崎市を被告として、原告72名が、慰謝料共通100万円、家屋、家財、休業損害等の損害賠償合計約2億7000万円を求めて提訴した。

2 水害の実相

 雨が降りしきる中、自宅や職場の周囲に濁った泥水が迫り、あっという間に建物内への浸水が始まった。停電による暗闇の中、水に浸かって、あるいは救助隊のボートに乗って、命からがら避難した者。一晩中、自宅が倒壊して流されるのではないかという不安を抱えながら自宅内にとどまった者。いずれも、生命身体への危険に直面し、恐怖した。水が引いた後も、平穏な日常生活に戻るまでに長期間を要した。

 大量の泥水による悪臭の中、室内から泥をかき出し、水没した家財を処分しなければならなかった。その一つ一つに家族の歴史や思い出が刻まれていた。
 一時避難した者は、公民館や体育館などの避難所や仮住まいで不便な生活を強いられ、自宅にとどまった者も、トイレや風呂を利用できない、食事や寝る場所を充分に確保できない、衣類が水没して着るものもままならないといった衣食住にかかる不便に耐えねばならなかった。このように、本件水害は、原告らの財産のみならず、生活環境、家庭生活や職業生活を含む生活基盤を毀損した。憲法13条で保障されている人格権の一内容である、平穏生活権を侵害したのである。

3 川崎市の責任

 川崎市は、「ゲートの「操作手順」に従って、決められた水位の時点では降雨のおそれがあり、ゲートを閉めた場合には住宅地の雨水、汚水が氾濫する可能性があったため、閉めなかった」と説明していた。
そもそも、台風19号は、事前から、その勢力が相当強いものとして警戒呼びかけられていた。当日12日は早くから洪水警報、大雨警報が発令、多摩川上流の小河内ダムも放流が繰り返され、多摩川の氾濫注意情報も発表されたいた。多摩川の水位が度上昇し、ゲート周辺の地盤高に達し、逆流の危険性があることは予測可能の状況であった。
 川崎市の各排水樋管ゲートの「操作手順書」には、ゲートの閉鎖を総合的判断すること、「適宜河川水位を観測し、総合的にゲート開閉を判断する」と明記された。水位が周辺地盤高に達すると逆流の危険性が高まるので、そのような水位に至った場合には、「操作手順」に従って、ゲートを閉めるべきであった。さらにはその後刻々と変化する多摩川の水位と具体的な溢水の状況に応じて、ゲートを閉めるべきであった。にもかかわらず、川崎市当局は、ゲート閉鎖による内水氾濫を恐れるあまり、多摩川の水位の上昇という重大な事実を考慮せず、甚大な被害が拡大したのである。
 他方、同じ多摩川の対岸の東京側の自治体、狛江市、世田谷区、大田区などでは、ゲートを閉めており、川崎市のみゲートを閉めなかった判断のおかしさが浮き彫りになっている。川崎市の新たな操作手順書案も周辺地盤高に達した時点でゲート閉める旨の記載に変更され、「逆流による被害をなくすため、管内水位が付近最低地盤高に達した時点で、排水樋管ゲートを全閉とする」となったことは、責任を自ら認めているに等しい。川崎市の責任は免れない。

4 本件の意義

 多摩川は、古来から「あばれ川」であり、周辺地域は水害に見舞われてきた。
 1914年には、多摩川・川崎側の無堤防地帯での度重なる洪水に耐えかねて、住民数百名が「編み笠」をかぶって神奈川県庁に大挙して押し寄せ、当時の神奈川県知事に直談判をした「アミガサ」事件が起こった。この事件を発端に、住民は、神奈川県、さらには国をも動かし、多摩川築堤が進んでいった。
 多摩川堤防の整備が進む一方、堤防より低い地域では、内水氾濫の被害を受けるようになった。1960年代の急激な都市化とともに、川崎の上丸子山王町地区では、「雨が3粒降れば水たまりができる」と言われるほど氾濫が頻発していた。住民は、地域一体となって運動をおこして川崎市を動かし、1964年に設置されたのが、本件排水樋管の一つ、山王排水樋管であった。設置後、山王排水樋管は、地元の消防団がゲートの開閉をおこない、台風が来る度に多摩川からの逆流を防ぐ役目を全うした。やがて、排水樋管のゲート操作は地元住民から川崎市へ、その責任の所在を移していった。多摩川に沿って広がる川崎市にとって、治水は、市民の生命身体、財産を守るための、最も重大な責務であるにも関わらず、これを怠り、本件水害は引き起こされた。
 多摩川周辺に住む者にとって、治水は、平穏な生活を営むための基礎的な願いであり、要求であり続けてきた。本件訴訟も、原告ら被災者が、「川崎を水害なく安心して暮らせる街」とするため、川崎市の責任を明らかにし、被災者の生活再建と、再発防止を求め提訴したものである。

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日本通運川崎支店無期転換逃れ訴訟 控訴声明(弁護士 川岸卓哉)

2021年4月12日 月曜日

川岸卓哉弁護士については、こちらをご覧ください。

【プレスリリース】

日本通運川崎支店無期転換逃れ訴訟 控訴声明

2021年4月12日 
日本通運川崎支店無期転換逃れ訴訟弁護団

 本年3月30日、横浜地方裁判所川崎支部(飯塚宏裁判長)において、日本通運無期転換逃れ訴訟について、原告の雇止めを有効とする不当判決が言い渡されました。これに対して、本日4月12日、東京高等裁判所へ控訴したことをご報告するとともに、以下控訴にあたっての声明をお送りします。

1 本件の概要

 原告は、日本通運川崎支店において、派遣社員を経て、2013年より、1年契約更新の有期労働契約で直接雇用された。その後、契約更新は4回され、無期転換申込権が発生する通算契約期間5年のわずか1日前、2018年6月末日をもって、期間満了による雇止めされた。これに対し、原告は、雇い止め無効を主張し、横浜地方裁判所川崎支部に提訴したものである。
 無期転換ルールは、我が国において増え続ける非正規雇用労働者を、会社が「雇用の調整弁」として差別し使い捨てることへの歯止めをかけ、労働者の雇用の安定を図ることを目的として、立法されたものである。しかし、日本通運の本件雇止めは、無期転換ルールの法の趣旨を真正面から否定し、無期転換を阻止することに目的があった。そのため、本件雇用契約書には、派遣を経て最初の直接雇用契約当初から「当社における最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない」という、いわゆる不更新条項が挿入されていた。

 

2 大企業日本通運に忖度し非正規労働者の切り捨てを容認 法を死文化させる不当判決

 判決は、労働契約法19条の雇用継続への合理的期待について、直接雇用当初から5年の更新上限を認識、合意していたことだけを重視し、同条が定めた考慮要素に該当する事実による期待の合理性を一切否定した、契約書への署名押印のみを重視する形式的判断となった。
 原告が派遣から直接雇用へ切り替わる際に熟慮期間なく5年の更新上限に同意をさせられた経緯から、不更新条項の同意を無効とすることは、本件の特殊性であり、最大の勝負所と考えていた。この点について、判決では、山梨県信用組合事件最高裁判決の射程ではないとしつつも、「自由意思を阻害するか」について判断したうえで、非正規労働者の置かれた立場「労働者としては署名を拒否して直ちに契約関係を終了させるか、署名して次期の期間満了時に契約関係を終了させるか」二者一択を、「短期の登録型派遣か、比較的長期の有期雇用契約か」の二者一択にすり替えて、5年の更新上限に合意しても自由意思を阻害するものではないと認定し、有期雇用契約労働者の置かれた立場に対する理解・共感を欠く判断となった。
 また、判決は、更新上限の公序良俗違反性についても,「次期更新時で雇止めをするような、無期転換阻止のみを狙ったものとしか言い難い不自然な態様で行われる雇止めであれば無効となる」としながら、本件は、労働組合との労使協議を経た一定の社内ルールが「経営理念」を示したと評価され、5年直前の雇止めでも労働契約法18条の潜脱とはいえないと判断した。しかし、その「経営理念」の実態が、正社員組合を共犯関係に非正規使い捨ての合意であり、しかも結果として実態にあわず崩壊している点について、判決は目をつむった。
 本判決は、大企業日本通運に忖度をし、非正規労働者を軽視し、差別的扱いを是認する裁判官の固定観念ともいうべきものが根底にあることが見て取れるものであった。本件のように、当初より不更新条項が契約書に記載されていた内容でも、契約締結せざるを得ない立場の弱い労働者は潜在的に多数存在する。本判決は、労働契約法18条の無期転換ルールを不更新条項によって死文化を是認するもので、原告のみならず同様の立場に置かれた多くの非正規労働者の将来を閉ざす極めて不当な判決である。  
 支援共闘会議は、勝訴判決を勝ち取るべく、川崎駅頭での毎月宣伝や、同じく日本通運を相手に東京で無期転換逃れを闘う原告及びユニオンネットおたがいさまの闘いと連帯し、日本通運の法をないがしろにする暴挙へ、批判の声を広げる運動を積み上げてきた。裁判所宛に早期・公平な判決を求める約1万筆を超える署名を全国各地から集め、提出して要請を行ってきた。また、判決直近には140の労働・市民の団体署名を基に各団体が訴え、幾度にわたり裁判所要請も展開したが、裁判所はこれに応えなかった。控訴審である東京高裁では、原告、弁護団、支援共闘会議のみならず、同じく日本通運を相手に無期転換逃れを争い東京地裁で不当判決を受けた日本通運東京ベイエリア支店事件の弁護団とその支援とも共同し、逆転を目指して闘っていく決意を固めている。

3 2021年度見直しの年を迎える無期転換ルール 改正の方向性

 労働契約法18条の改正附則3項で、「同施行後8年を経過した場合に、施行状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとされたものであること。検討の対象は、法第18条、すなわち無期転換ルール全体であること。」とされ本年2021年4月がその8年目を迎え、国民的世論を作り、無期転換ルールを前進させる絶好の契機となる。

(1)法改正の方向 ① 不更新条項の無効化

 この間、無期転換逃れ事件についての各勝訴判決、契約更新の途中から法改正に対応して不更新条項が挿入されたものがほとんどであり、裁判所はその同意への有効性を慎重に判断し、雇止めを無効とした。他方、今後は、本件日通事件のように契約締結当初から更新上限が設けられるものが主流になってくると、裁判例からは、その無効を主張するのは困難となる。立法で、解雇濫用法理を脱法する目的の更新上限を無効化することが、労働契約法18条を死文化させないために不可欠となると思われる。

(2)法改正の方向 ② 無期転換申込権が発生するまでの期間の短縮化 3年へ変更

 労働契約法18条の立法過程では、政府の労働政策審議会で、無期転換申込権発生までの期間を、労働側は3年、使用者側は7年を主張し、政治的妥協として5年と決まった経緯があると聞いている。しかし、日本通運ですら3年で正社員化の新制度を採用しているとおり、無期転換申込権発生には3年で十分と考える。また、多くの企業で、近年は更新上限を脱法意図の強いぎりぎりの5年から、3年に変更している傾向もある。2021年度の見直しでは、あらためて、3年での無期転換を容認する法改正の機運を高めることが求められる。

4 結語

 支援共闘会議及び全国の支援者、原告・弁護団は.約三年間の闘争を支えられたご家族の労苦に敬意を表すると同時に、本不当判決を乗り越え、2000万人ともいわれる非正規労働者の権利を前進させ、本争議の一日も早い解決に向け、全力で闘い抜く決意である。

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子どもが自分で弁護士をつけられる!~子どもに対する法律援助について~(弁護士 畑 福生)

2021年1月25日 月曜日

 親から辛い目にあわされてやっとの思いで家から逃げてきた。代わりに親と話してほしいけど、お金がないから弁護士なんて頼めないよね?

 そんなことはありません。

 「子どもに対する法律援助」という制度があります。
(※以下結論をいち早く知りたい方は「☆」の付いた太字の部分だけでも読んでみてください。)

 

1 「子どもに対する法律援助」とは

 日本弁護士連合会という日本の全ての弁護士が登録している組織が、人権救済のために、弁護士から徴収した会費を主な財源とし、法テラスによる民事法律扶助制度や国選弁護制度等でカバーされていない方を対象として弁護士費用等を援助する法律援助事業を行っています。日弁連は、総合法律支援法に基づき、この事業を2007年10月1日から法テラスに委託して実施しています(日弁連委託援助業務)。
 この事業の中に「子どもに対する法律援助」があります。
 なお、日弁連は「子どもに対する法律援助」以外にも様々な法律援助事業を委託しています。こちらをご参照ください。
https://www.nichibenren.or.jp/activity/justice/houterasu/hourituenjyojigyou.html

 

☆ 要は、子どもが自分で弁護士をつけるための費用を出してもらえる制度があるということです。

 

2 「子どもに対する法律援助」でできること

 援助の対象となる活動は以下のとおりです。

⑴ 行政手続代理等

・ 行政機関(特に児童相談所)、児童養護施設等の施設との交渉の代理
・ シェルターその他の施設等への入所へ向けた支援、入所中の支援、施設等から自立的生活への移行へ向けた支援
・ 虐待等を行う親との交渉に関する代理、親との関係調整活動
・ 児童虐待事件に関する刑事告訴手続の代理、刑事手続で証人として出廷する子どもの援助
・ 学校等において体罰、いじめ等の人権侵害を受けているが、保護者が解決しようとしない事件についての交渉代理
・ 少年法第6条の2第1項の調査に関する付添人活動

 

⑵ 訴訟代理等(⑶以外)

・虐待する養親との離縁訴訟、扶養を求める調停や審判手続等の法的手続の代理(親権者の協力が得られないため、民事法律扶助の申込みができない場合)及びこれに関わる法的手続の代理

⑶ 子どもの手続代理人

・ 家事調停手続、家事審判手続、ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の手続及び即時抗告の手続(ただし、除外事項あり)における手続代理又は当事者参加申出、利害関係参加申出、利害関係参加許可申立て及びハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の手続への参加申出の手続代理並びにそれらの支援

⑷ 以上に関わる法律相談

 

☆ これらの中でもとりわけ、親との交渉や裁判手続のために弁護士をつけられるのがこの制度の良い所です。

 

3 「子どもに対する法律援助」を利用するために

利用するためには以下の3つの要件を満たす必要があります。

① 虐待や体罰、いじめ等により人権救済を必要としている子ども(20歳未満)等の対象者に該当すること(※貧困、遺棄、無関心、敵対その他の理由により、その子どもの親等各申立権のある親族から協力を得られない場合に限られます)。

② 資力要件(例えば手取り月収が単身者で20万1,000円以下であることなど)。

③ 事件について弁護士に依頼する必要性・相当性があること。

 

☆ 以上の要件はありますが、親などから辛い目にあわされている子はこの要件を満たす場合が多いです。利用に当たっては弁護士を通じての申込みが必要となりますので、お気軽にご相談ください。

 原則として「子どもに対する法律援助」利用にかかる相談は、法テラスを利用して無料にて承ることができます。

 

4 よくある質問

Q1:本当に無料なの?

A1:原則として無料で、援助を受けた報酬、費用について、申込者の負担はありません(法テラスから担当弁護士に支払われます)。ただし、現実に利益が得られた場合などについて例外もあります。(詳細は次の法テラスウェブサイト参照。https://www.houterasu.or.jp/higaishashien/seido/kodomo_houritsuenjo/index.html

 

Q2:弁護士をつけるのに親の同意はいらないの?

A2:子どもに対する法律援助の利用に当たって、親などの法定代理人の同意を得る必要はありません。
 弁護士に事件を依頼する委任契約などの「契約」は、通常、民法5条1項本文及び同2項に基づいて、親権者の同意がない限り、取り消すことができます。しかし、親などの法定代理人を相手に交渉などを行う場合に、親などの法定代理人が、弁護士と子どもとの間の委任契約を取り消せるとしてしまうと、子どもは弁護士をつけられず、子どもに対する法律援助の意義がなくなってしまいます。そこで、子どもに対する法律援助では、子どもの金銭的な負担をなくすことによって、民法5条但し書き(「ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」)に基づき、委任契約の取消しを防いでいます。子どもは負担なく単に法律サービスを受けるだけという扱いです。

 

5 最後に

☆ 川崎合同法律事務所では、子どもが 「自分のことは自分で決める」ことを応援します。困っている場合はすぐにご相談ください。
 辛い立場に置かれた子どもを支援されている方も、子どもに対する法律援助の利用含めて、その子のために何ができるか一緒に考えて行けたらと思いますので、お気軽にご相談ください。
 原則として「子どもに対する法律援助」利用にかかる相談は、法テラスを利用して無料にて承ることができます。

 

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知る権利と情報公開請求(弁護士 小林展大)

2021年1月25日 月曜日

小林展大弁護士については、こちらをご覧下さい。

 

第1 知る権利

 憲法21条1項は,「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。」と規定していて,これは表現の自由を保障したものです。表現の自由は,個人が言論活動によって自己の人格を形成・発展させる自己実現の価値,言論活動によって国民が政治的意思決定過程に関与するという自己統治の価値があるので,極めて重要な基本的人権とされています。
 表現の自由は,思想・情報等の伝達の自由ですが,一方では思想・情報等の受け手を前提としているから,高度に情報化され,大多数の国民が情報の受け手に固定化されている現代社会においては,情報の受け手側から表現の自由を構成すべく,知る権利が保障されているのです。

 

第2 情報公開請求

1 知る権利を具体化するものとして,情報公開制度があります。

 国の行政機関に対する請求は,行政機関情報公開法,独立行政法人に対する請求は独立行政法人情報公開法,地方自治体に対する請求は地方自治体の情報公開条例に基づいて請求することになります。
 なお,裁判所については,行政機関情報公開法の適用はありませんが,司法行政文書開示申出という制度があります。

2 情報公開請求をするにあたり,請求書の書式をホームページ等に掲載している地方自治体,行政機関もありますので,案内にしたがって,請求書の必要事項を記入することとなります。
 請求する情報,文書の名称等の欄には,どのような文書の開示を受けたいかを書くことになります(場合によって,問合せがあったり,補正を求められたりすることもあります。)。
 請求書に必要事項を記入したら,手数料分の印紙を貼付して郵送すれば手続ができます(FAX送信を受け付けているところもあります。)。
3 請求後は,一定の期間内に請求者に開示・部分開示・不開示の決定がなされます(決定が延長されることもあります。)。
  開示の実施の方法は,閲覧,写しの交付等の方法があります(コピー代等の費用負担を求められます。)。

4 開示・部分開示・不開示決定につき,不服がある場合には,一定期間内に不服申立をすることができます。

  ⑴ 審査請求という不服申立をする場合には,審査請求書という書面を提出して,不開示処分の取消しを求めたり,対象文書の追加特定を求めたりします。
    行政機関,地方自治体からは,弁明書,理由説明書等の書面が提出されることがあり,それに対して,請求者は反論書,意見書等の書面を提出することがあります。
    そして,情報公開・個人情報保護審査会,行政不服審査会に諮問され,その後,情報公開・個人情報保護審査会,行政不服審査会が答申を取りまとめて提出すると,これを受けて諮問庁が裁決することとなります。

  ⑵ 不服申立として訴訟をする場合には,不開示処分等の取消しの訴え等を提起することとなります。そして,裁判所で審理がなされます。

 

第3 マイナンバー違憲訴訟と情報公開請求

 マイナンバー違憲訴訟が進行するにつれて,次々とマイナンバーが漏え いする事故が発生しています。
 マイナンバーを取扱う業務については,委託元の許諾を得なければ再委託してはならないこととなっています(番号法10条1項)。しかし,委託元の許諾を得ずにマイナンバーを取扱う業務を再委託して,マイナンバーが大量漏えいするという事故が続発したことから,マイナンバー違憲訴訟弁護団は,知る権利を行使して,その事故が発生した地方自治体,行政機関に対し,情報公開請求及び審査請求をして,口頭意見陳述も行って攻勢をかけています。
 マイナンバー違憲訴訟は,このようにして情報公開請求を駆使して,知る権利運動を展開しているのです。

以 上

 

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

大気汚染公害調停のニュース(特集)がYouTubeにアップされました。

2020年12月9日 水曜日

2020年11月28日,大気汚染公害調停のニュース(特集)がYouTubeにアップされました。

これまでの経緯,被害の現状などわかりやすく特集されています。

ニュース(特集)動画はこちら↓↓

https://bit.ly/3lbj2RL

大気汚染公害は,いまなお続いており,公害患者の方々は,ぜん息等で苦しんでいるだけでなく,医療費負担等で大変苦しんでいます。

川崎を含め,全国の大気汚染公害患者約100名は,現在公害調停の手続で国及び自動車メーカーらに対し,医療費救済制度の創設を
求めています。

当事務所の篠原義仁弁護士(団長),西村隆雄弁護士(副団長),川口彩子弁護士,山口毅大弁護士が公害調停弁護団に加わっております。

医療費救済制度創設のためにも,ぜひニュース(特集)動画をご視聴頂いて,いいね,シェア,高評価,チャンネル登録等してください。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

新型コロナウイルス感染症を理由とする解雇等の解決(弁護士 山口毅大)

2020年10月29日 木曜日

 山口毅大弁護士の紹介は、こちらをご覧下さい。

 

 新型コロナウイルス感染症を理由に解雇される等の相談が数多く寄せられております。

 実際に,2020年10月27日の厚生労働省の発表によれば,新型コロナウイルス感染拡大に関連する解雇や雇止めが2020年10月23日時点で,見込みを含み,6万8140人となっております。
 会社から新型コロナウイルス感染症を理由に解雇すると言われた労働者の方々の中には,「なにかがおかしい」と様々な違和感を感じながらも「新型コロナウイルス感染症だから仕方がない」と思っている方もおられます。
 ですが,「新型コロナウイルス感染症だから」解雇するという理由によっては,違法,無効になります。
 この間,新型コロナウイルス感染症関連の解雇事件を多く担当してきている実感としては,従業員が新型コロナウイルス感染症防止に反する行動を行ったことを理由に解雇した,あるいは,会社の経営が悪化した等の理由を述べて解雇していても,その客観的に具体的な根拠がないため,客観的に合理的がない理由がなく,社会通念上相当を欠く場合,

 

整理解雇の四要件(①人員削減の必要性,②解雇回避努力義務,③人選の合理性,④手続の相当性)

 

を満たさない場合が多いです。
 実際に,交渉,労働審判手続等で解雇の撤回による復職が認められたケース,解決金を支払ってもらって会社都合による合意退職をしたケースがあります。
 交渉や法的手段を採ることで泣き寝入りを防ぐことができ,労働者の権利を実現できる場合もあります。

 お一人で悩まれることなく,ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

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台風19号多摩川水害 被害の回復求め集団訴訟を呼び掛けるキックオフ集会を開催(弁護士 川岸卓哉)

2020年10月14日 水曜日

2019年台風19号による水害から一年。一周年にあたる本年10月12日、「台風19号多摩川水害を考える川崎の会」主催で、「台風19号多摩川水害 被害の回復求め集団訴訟を呼び掛けるキックオフ集会」を、200名近い参加で開催しました。

 

1 100年前に川崎で起きた「アミガサ事件」の教訓
集会では、最初に、中原区在住の落語家、寝床屋道楽師匠が、100年前の多摩川の水害にまつある「アミガサ事件」の落語を披露しました。古来より、多摩川は暴れ川といわれており、川崎の住民は水害に苦しんできました。他方で、住民たちは命や生活を守るため、声を上げて、水害を防ぐ対策を行政に対し求め、実施させてきた歴史があります。大正時代には、御幸村(現在の中原区平間)の住民が、多摩川の水害に耐えかねて、200名以上が編み笠をかぶって蜂起、横浜の神奈川県庁へ押し寄せ対策を直訴した事件がありました。結果、神奈川県知事を動かしてて堤防「有吉堤」(当時の有吉忠一知事から命名)をつくらさせました。この100年前の話は、水害をなくすためには「市民が声を上げ、行動をしなければならない」という、今にも通じる貴重な教訓になるものです。

2 多摩川は安全か 
次に、国土交通省職員OBの中山幸男さんから、現在の多摩川の治水対策の現状について、報告がありました。近年、地球温暖化の影響によって豪雨が顕著に増加傾向にあるなかですが、多摩川の洪水対策は、計画より大幅に遅れ、深刻な洪水とは背中合わせの状態にあります。仮に、多摩川が決壊した場合には、川崎市の注南部地区全域の浸水被害が想定されており、川崎で住み、働く私たちにとって、多摩川の万全の治水対策なくて平穏な生活はありません。中山さんは、国の多摩川の治水対策を前進させるためにも、今回の裁判を通じて、市民が水害対策を求める声を上げ続けることが大切だと訴えました。

3 政策形成訴訟を通じて求める全体救済と再発防止
当事務所の西村隆雄弁護士は、台風19号多摩川水害訴訟弁護団長として、川崎市の責任が明らかであり、裁判を通じて、川崎市に責任を認めさせ謝罪させるとともに、被災者の生活再建と、再発防止を求めていく重要性を訴えました。特に、西村弁護士は、本件が、裁判の原告のみならず、被災者全員の救済と再発防止策を行政に求める政策訴訟と位置付けました。西村弁護士が関わった川崎公害訴訟、東京大気訴訟、さらには現在最高裁で争っている建設アスベスト訴訟等の歩みに学び、裁判と運動の両輪で短期での決着を図り、川崎市を動かして、全体救済と再発防止の政策の実施を求めていく必要性を訴えました。
最後に、集会を主催した「台風19号多摩川水害を考える川崎の会」からは訴えがありました。最大の被災地上丸子山王町の被災者である川崎晶子さんからは、原告になることを呼びかけました。また、同じく被災地の宮内地区で被災を免れた長谷川淳さんからは、原告になれない方も、裁判の支援と再発防止の運動を広めるため、支援の会への参加を訴えました。

4 水害なく安心してくらせる川崎にするために
原告申込者は集会時点で、約50名に達しました。しかし、2600世帯以上の被災者のなかでは、まだまだ少数です。提訴へ向けて、被災者が誰一人泣き寝入りしないためにも、原告団をさらに大きくしていかなければなりません。
 当事務所からは、西村隆雄弁護士をはじめ、多くの弁護士が弁護団に加わっています。この裁判に勝利し、被災者を救済するとともに、多摩川の水害と隣り合わせの川崎が安心して暮らせる街とするための政策を前進させるため、闘い抜く決意です。

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【原発訴訟】仙台高裁で、国と東電に勝ち、賠償対象域の拡大や賠償水準の上積みを認める勝訴判決を勝ち取りました!(「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟)(弁護士 中瀬奈都子)

2020年10月6日 火曜日

中瀬奈都子弁護士については、こちらをご覧下さい。

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(勝訴の旗を掲げる弁護士・原告)

 

 2020年9月30日、渡辺、川岸、中瀬が弁護団に参加している「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(以下、「生業訴訟」)の控訴審判決が仙台高裁で言い渡されました。表記のとおり、国と東電に勝ち、賠償対象域の拡大や賠償水準の上積みを認める勝訴判決でした。

nariwai2 (3人で記念撮影しました。※マスクは撮影時のみ外しました)

 

 生業訴訟は、2011(平成23)年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所事故の被害者である福島県及び隣接県の住民ら約3600名が、事故を引き起こした国と東京電力を被告として、その責任を追及するとともに、事故当時の居住地の地域環境(空間線量)を事故前の水準に戻すこと(原状回復)及び損害賠償を求めることを目的として提起した裁判です。

 

1.国と東電の責任について
 仙台高裁判決では、一審・福島地裁判決に続き、今回の原発事故についての東京電力及び国の法的責任を明確に認めました。
 まず、本件事故の予見可能性に関しては、いわゆる「長期評価」について、「相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かし難い」「遅くとも平成14年末頃までには、10mを超える津波が到来する可能性について認識し得た」として、予見可能性を明確に認めました。
 また、結果回避可能性についても、重要機器室やタービン建屋の水密化等の対策により本件事故の発生を防ぎ得る可能性があったとして結果回避可能性を肯定し、国と東電の過失責任を認めました。
 さらに、「『長期評価』の見解等の重大事故の危険性を示唆する新たな知見に接した際の東電の行動は、当該知見をただちに防災対策に生かそうと動いたり、当該知見に科学的・合理的根拠がどの程度存在するかを可及的速やかに確認したりせず、新たな防災対策を極力回避しあるいは先延ばしにしたいとの思惑のみが目立つものであったといわざるを得ず、東電の義務違反の程度は、決して軽微といえない程度であったというべきである」とし、東電の重大な過失を断罪しています。国の責任についても、「不誠実ともいえる東電の報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかった」として、強く断罪しました。
 仙台高裁判決が、国と東京電力の責任を明確に認めたことは、事故の再発防止や被害者の全面的な救済のみならず、被災地の復興にとっても大きな意義があります。高等裁判所においてかかる司法判断が下されたことを受け、国及び東京電力は、自ら本件事故についての過失責任を認め、これを前提とした各種の施策を実行するべきです。

 

2.被害・損害について
 仙台高裁判決は、上記のとおり認定した国と東電の過失を慰謝料の算定にあたって考慮すべき重要な要素としました。
  さらには、国の責任割合について、東電と比較して低いとした一審判決を取り消し、国と東電が同等の責任を負うと判断しました。
  その上で、①避難指示等の対象区域に居住していた原告については、一審判決が事実上否定した「ふるさと喪失損害」を認め、賠償額を大幅に上積みしました。また、②避難指示等の対象区域外に居住していた原告については、一審判決よりも広い範囲について損害賠償を認めました。
 各地域の基本的な認容額は以下のとおりです(中間指針や東電の自主賠償の金額を差し引いた金額です。但し弁護士費用を除く。)。

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※1 子ども:賠償対象期間内に満18歳以下の期間があった者.

        妊婦:賠償対象期間内に妊娠していた期間があった者。

※2 福島市、二本松市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、川俣町、大玉村、郡山市、須賀川市、田村市、鏡石町、天栄村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町、相馬市、新地町、いわき市)のうち避難等対象区域を除く区域。
※3 白河市、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村

 

 原告らが居住していた全ての地域について救済の対象せず、また金額についても求めていた水準に達していない部分があり不十分な点は残りますが、原告ら被害者に対する権利侵害を認め、中間指針や東電の自主賠償の金額・対象地域から、賠償の対象地域を拡大し(中間指針等で賠償対象とされていなかった県南・丸森地域の成人、会津地域・栃木県那須町の妊婦・子どもについて被害認定)、全体として賠償水準の上積みを認めたは、原告らのみにとどまらず広く被害者の救済を図るという意味において、前進です。

 

 さらに、一審判決が「居住地の汚染が社会通念上受忍すべき限度を超えた平穏生活権侵害となるか否か」とした点について、本件には「妥当しない」とした点も評価できます。仙台高裁判決は、「本訴において一審原告らが受けたと主張する被害は、福島第一原発の正常な稼働によって生じたものではなく、前示のとおり一審被告東電の義務違反及び一審被告国の違法な規制権限不行使の結果として福島第一原発が本件事故を起こしたことによるものであって、社会にとって公共性ないし公益上の必要性がある施設等の正常な運用・供用等による侵害行為が生じているという場合ではないから、上記判断枠組みは本訴において妥当するものであるとはいえない。したがって、原判決の用いた上記判断枠組みが相当でないとの一審原告らの論旨は理由があるというべきである。」と判示しています。

 

 原告団・弁護団は、国及び東京電力に対し、法的責任を断罪する司法判断が再び示されたことを真摯に受け止めた上で、
 ①上告を断念すること
 ②二度と原発事故の惨禍を繰り返すことのないよう、事故惹起についての責任を自ら認め謝罪すること
 ③中間指針等に基づく賠償を見直し、強制避難、区域外(自主的)避難、滞在者など全ての被害者に対して、被害の実態に応じた十分な賠償を行うこと
 ④被害者の生活・生業の再建、地域環境の回復及び健康被害予防等の施策を速やかに具体化し実施すること
 ⑤事後の賠償では回復することができない被害が生じる原発を即時稼働停止し、廃炉とすること
を強く求めています。

 

 仙台高裁判決は、全国でたたかわれている裁判の中でも国を相手にした裁判として、初めて高等裁判所の判断が出されたことから、大きな注目を受け、NHK持論公論( https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/436789.html)で取り扱っていただくなど、マスコミ各社に大きく報道していただきました。

 

 最後になりましたが、仙台高裁に対し公正判決を求める署名は、「146,774筆」を提出することができました。当事務所にも署名を多数お寄せいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

今回の仙台高裁の判決は、みなさんのご支援の賜物です。これからも、原発をなくし、被害の完全救済を求めて取り組んで参りますので、引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。

※過去の記事はこちら ☛ https://www.kawagou.org/blog/2017/10/post-31-528350.html

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