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勝英自動車学校事件・14年目の亡霊(弁護士 藤田温久)

2020年2月10日 月曜日

藤田弁護士の紹介は、こちらをご覧下さい。
                                             

1 「退職届を出さない者は営業譲渡先の会社に雇用しない」として19年前に解雇され14年前に解雇の無効が最高裁において確定・全面勝利したあの閉鎖解雇争議の金字塔:大船自動車学校解散解雇事件(以下「勝英自動車学校事件」)で、再び亡霊が動き始めた。

2 事案
(1) 全株式の取得
    株式会社勝栄(岡山県)は、2000年10月、大船自動車学校(「湘南センチュリーモータースクール」に変更)を経営する大船自動車興業株式会社(以下「大船興業」)の100%株主であるA社が所有する大船興業の株式を全部取得した。

 

(2)突然の解雇予告と退職届

 新経営陣は全従業員に対し、11月16日、「11月末日までに退職届を出さない者は12月15日をもって大船興業を解雇する。11月末日までに退職届を出した者は、勝栄に正社員または契約社員として雇用し大船興業に出向させる」旨を通告した。
  しかし、退職届を出すことは、勝栄の劣悪な労働条件への切り下げ(労働時間の大幅延長、大幅減給)、「全員課長」(名目だけの1人課長、残業代不支給、組合脱退を図る)などを認めることに他ならず、神自教大船自校支部(以下「大船支部」)は退職届を提出せず団交を求めた。

(3) 営業譲渡と解散
    大船興業は勝栄と、同年12月15日、「湘南センチュリーモータースクール」の営業全部を譲渡する契約を締結した(以下「本件営業譲渡契約」)。
    また、大船興業は、前同日、臨時株主総会で、本件営業譲渡を承認し、同社の解散を決議し、大船支部員らを全員解雇した。
    12月16日、退職届を出した従業員は勝栄に雇用されたが、大船支部員らは雇用されなかった。9人の大船支部員は、地位確認などを求め提訴した。

3 横浜地裁判決(2003年12月16日・福岡右武裁判長)
(1) 解雇の効力

 ① 大船興業と勝栄は、遅くとも本件営業譲渡契約締結時までにa「営業譲渡にともない従業員を移行させることを『原則』とする」、しかしb「相当程度の労働条件切下げに異議のある従業員を個別に排除する『目的』達成の『手段』として、退職届を出した者を勝栄が再雇用し、退職届を出さない者は解散を理由に解雇する」と合意した、
 ② ①の合意は、aは有効だがbは民法90条(公序良俗)に反し無効である。
 ③ 本件営業譲渡契約中の「勝栄は大船興業の従業員の雇用を引き継がない。但し、11月30日までに再就職を希望した者は新たに雇用する。」との規定は、①bの『目的』に沿うように符節を合わせたものであり、同様に民法90条(公序良俗)に反し無効である、
 ④ 以上、原告らに対する解雇は、形式上解散を理由にするが、①bの『目的』で行われたものであり解雇権の乱用として無効である。

(2) 労働契約の承継の有無
     原審判決は、営業譲渡契約に伴う「当然承継」は否定し、譲渡人と譲受人の特別の合意を要するとした上で、(1)④により原告らは解散時に大船興業の従業員としての地位を有することになり、(1)①の合意aの『原則』通り営業譲渡の効力が生じる2000年12月16日に労働契約の当事者としての地位が勝栄との関係で承継される、とした。

(3) バックペイも全面的に認容された。

4 東京高裁判決(2005年5月31日・西田美昭裁判長)
(1) 解雇の効力・労働契約の承継の有無
   本判決は、原審判決のうち、(1)解雇の効力(2)労働契約の承継の有無についての判断は、全面的に支持した。

(2) バックペイ
   他方、会社側が、控訴審で本格的に主張し始めたバックペイの減額を図る主張について、新たに正当な判断を下した。すなわち、会社は、バックペイ算定の基礎としての平均賃金額算定に当たって、①現実的に勤務して初めて認められるものである時間外手当及び休日手当、②教習内容、時間により支給される路上教習手当、高齢者教習手当、③実費補償的手当である食事手当等の控除を主張した。しかし、本判決は、①②③各手当の意義を分析した上で、会社の責めに帰すべき事由により労務の提供という債務の履行が不能であることから、会社は民法536条2項本文により賃金支払義務を負うのであり、労働者らが現実に労務に従事することができないことは民法536条2項本文が適用される場合に当然に予定されているところであるから、現実に勤務しないことを理由に①②③各手当を平均賃金額算定の基礎から控除することはできない、としたのである。

(3) 弁護団は、直ちに、会社取引銀行等に仮執行をかけ、本判決確定までのバックペイ全額を確保した。

5  最高裁判決(2006年5月16日)
   最高裁は、平成18年5月16日、会社の上告を棄却し、上告受理申立を受理しない旨の決定を下した。

6 その後の経緯
(1) 勝栄は控訴審係属中(和解継続中)に㈱湘南センチュリーモータースクールという会社を設立し、「湘南センチュリーモータースクール」を再び営業譲渡した。勝栄に対する勝訴が確定しても支部員らを職場へ復帰させないため、更には遠方へ配転するため(この間、勝栄は続々と傘下の自動車学校を分離し独立法人化しており、現時点で勝栄直営の自動車学校は岡山の本校のみとなっている)の悪辣な策謀だった。

(2)会社は、最高裁判決確定後の分の賃金支払いを拒否したが、労働者側が先取特権に基づく差押等の法的手段を講じることで任意支払の協定締結に応じた。にも拘わらず、繰り返し賃金支払を懈怠し、その度に謝罪して支払を再開してきた。
 他方、会社は「湘南センチュリーモータースクール」への復職は拒否し続け,予想通り、原告らに対し岡山への就労請求を何度か行い解雇の脅しをかけてきた。しかし、労働者側は新たな提訴も辞さない構えで臨み、会社は原告らの反論に抗することができずいずれも撤回してきたものである。

(3)こうして、会社は13年間の長期にわたって原告らに賃金を支払い続け、定年となった労働者には退職金規程に基づく退職金を支払ってきた。

7 本件提訴
(1) 解雇当時9人(男7,女2)であった労働者のうち男性6人は既に定年退職していた。最後の男性が定年を迎えたとき、会社は、教習指導員としての資格が更新されていないから、教習指導員としての退職金は支払えないので一般事務職としての退職金のみを支払うとして大幅に減額した退職金を支払ってきた。また、残る2人の女性に対しては、岡山への就労請求を行い、就労の実態がないとして賃金の支払を拒否してきた。

(2)労働者側は、これまでの実績と協定の趣旨並びに高裁判決の趣旨からして退職金減額はあり得ないし、前述の就労妨害の法人格濫用により就労不能の状況にしておきながら就労がないことを理由に賃金を支払わないことも許されないとして、未払退職金と未払賃金の支払を求める本訴訟を提訴するに至った。

(3)会社側は、大半が定年となり「弱体化」した労働者側が屈すると考えたものであろう。しかし、「どっこい、生きていた」のである。悪辣な亡霊は最後まで叩ききらねばならない。

 弁護団は、高橋宏(横浜合同法律事務所)、藤田・畑(川崎合同法律事務所)である。

 

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故現状回復請求訴訟控訴審結審(弁護士 渡辺登代美)

2020年2月7日 金曜日

渡辺弁護士の紹介は、こちらからご覧下さい。

1 生業訴訟結審
 2017年10月10日、福島地方裁判所で言渡された判決に対して、原告ら、被告国、同東電ともに控訴し、舞台は仙台高等裁判所に移っていた。
 2019年中に原告15名の本人尋問と、浜通りの現地進行協議を実施し、2020年2月20日、結審を迎える予定だ。1月末に最終準備書面を提出し、4000名の控訴委任状を取り付け、50名の死亡原告の承継手続きを行なった。

 

2 判決は如何に 
 生業訴訟の原告は、大多数が福島市・郡山市等の滞在者である。滞在者の被害は、区域外避難者の避難の合理性と裏腹の関係にある。生業訴訟は、国の責任を追及することにがっぷり取組み、一審では、全国に先駆けて国の責任を断罪する役割を果たした。が、損害認定には課題を残した。
 控訴審においては、避難指示区域の原告本人尋問に重点を置き、損害立証にも力を入れた。
 判決は、2020年夏頃か。

 

3 避難指示は解除されても復興とは程遠い
 現地進行協議に際しては、東京電力から、「富岡町は復興しているのだ!」を立証趣旨として、さくらモールとみおか、富岡町小中学校、県立ふたば医療センター付属病院の申請がなされた。いずれも立派な建物が完成しており、東電は移動過程で外観を確認することを求めた。
 しかし、東電の思うとおりにはさせないのが生業弁護団である。外観は立派であっても、その内実は復興とは程遠いことを示さなければならない。
 さくらモールとみおかには、ヨークベニマルやダイユーエイトがあり、フードコートも充実している。ショッピングセンターのフードコートといえば、家族連れや友達どうしの子どもたちで賑わう様子が目に浮かぶだろう。ところがさくらモールとみおかは、昼食前後の時間帯だけ、車で続々とやってくる作業着姿の男性たちで大賑わいという異様さ。フードコートもそのためにあり、午後3時には閉まってしまう。現場指示は、当然、昼の時間帯だ。
 富岡小中学校は、広々とした立派な校舎内の教室に、ぽつんと机が2つ3つ置かれている。複式学級にしても、そのくらいの生徒数しかいないのだ。弁護団は、事前に校長先生に会いに行き、校舎内に立ち入る許可を求めた。

 

4 ふるさとに戻ってはみたものの
 南相馬市小高区で70年暮らし、避難指示解除を待ち切れずに戻った原告は、本人尋問において、以下のように語った。
「朝、目が覚めたときは、放射能ということから始まって、それで、自分は汚れた空気の中のお魚ではないか、みたいな、そんな感じで毎日います。」
「解除になって帰った年に、うちの夫は、やぶの中にコシアブラとタラの芽が一杯あったので、喜んで、こんなに採れたぞって抱えてきて。それで、自ら区役所に検査に行ってもらったら、コゴミは1900いくらベクレル、タラの芽は600何ぼあったので、もう、それからは、山に入ることはしなくなりました。もう、食べられないと思っています。」

 

5 今年は、続々と高裁判決が
 3月12日に、仙台高裁で浜通り避難者訴訟の、3月17日には、東京高裁で小高に生きる訴訟の判決言渡しが予定されている。両高裁判決が、避難指示区域からの避難者に関する慰藉料の金額について、一定程度の基準となる可能性がある。
 生業の後は、千葉・群馬訴訟の東京高裁判決が続くだろう。本年は、原発被害者訴訟における大きな節目になりそうだ。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

Q採用内定取消-ある会社に採用されることが内定していたましたが、採用内定取消の通知を受けました。内定なので、仕方がないのでしょうか。

2020年2月6日 木曜日

A 採用の手続きはまちまちで、具体的に、いつの時点で労働契約が成立するかは、個別事案毎に具体的な検討が必要になりますが、一般には、採用内定通知が出された時点で労働契約が成立したと認められるケースが多いと思われます。

  採用内定取消は、労働契約の一方的な解約(解雇)ですから、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できない」事実が後に判明し、しかも、それにより採用内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当と是認できる場合(最判昭54.7.20、大日本印刷事件)」に限られます。具体的には、労働者が学校を卒業できなかった場合等が考えられます。

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川崎市市民ミュージアム副館長雇止め事件- 台風による全収蔵庫浸水という大被害をももたらした指定管理制度(弁護士 藤田温久)

2020年2月5日 水曜日

藤田弁護士の紹介は、こちらからご覧下さい。

1  収蔵庫への浸水
  昨年報告した「川崎市市民ミュージアム副館長雇止め事件」の川崎市市民ミュージアムの全収蔵庫が、台風19号の大雨により浸水した。市民ミュージアムの搬入口は、4メートル以上も水が溜まり、収蔵庫内まで2メートルもの浸水となったのである。 この結果、26万点の収蔵品の多くが補修不能となったか、補修不能になると思われる。収蔵品は、①川崎市が巨額の税金を投入し購入したもの、制作者や遺族、管理者から川崎市が②寄贈を受けたもの、あるいは③寄託されているものである。
  収蔵品には、① 文化勲章受章者の安田靫彦の「草薙の剣」(8千万)、ロートレック等、1890年代以降の欧州のポスター925点(4億9千万)、企業のポスター600点余り(1260万)、② 寄贈された「法隆寺観音像の下絵」や「大観先生」の試作等150点。江戸期の肉筆画帳や諷刺漫画家、清水崑等の原画、貴重な雑誌。藤原鎌足の筆など著名な書跡(国宝級)。膨大な数の昔の民具や生活道具等2度と収集できない民俗資料等。③ 寄託されている岡本太郎の母、岡本かの子の直筆原稿、父、一平の肉筆画等。写真界の芥川賞と言われる朝日新聞社主催の木村伊兵衛賞の受賞作品の写真全部(寄託)。ソビエト時代のドキュメンタリー映画(エイゼンシュタインの「メキシコ万歳」も)、日本映画美術監督協会の創立者の一人、黒澤明監督の美術を担当した久保一雄のスケッチ、映画セットの原画等、市民ミュージアムにしかない貴重なものが多数含まれている。

2  浸水・水没の責任
  川崎市は、指定管理者(代表アクティオ株式会社)に収蔵品管理ばかりではなく施設管理も任せている。市民ミュージアムが浸水区域にあることは中原区のハザードマップが事務室に掲示されていたのでアクテイオは当然知っていた。台風19号は河川の氾濫が相次いだ1958年の狩野川台風に匹敵する可能性があると気象庁は10月11日に厳重な警戒を呼びかけ、台風接近後は川崎市が避難指示まで出していた。
   ところが、アクティオも川崎市も、貴重な収蔵品を浸水から守るためにほとんど有効な行動を何もしていない。大雨が降る前に、地下収蔵庫の収蔵品を2階以上に運び上げる作業あるいは別の場所へ退避させる作業を何故行わなかったのか。道路沿いに土嚢とベニア板をブルーシートで覆って、堤防をつくり、その上に土嚢を積み上げていくことを、なぜ行わなかったのか。それ以前に、アクテイオは、これまでの市民ミュージアムの経験、東日本大震災等の経験に学び、いかに減災できるか水害対策を考えていたのか。
    そもそも、アクティオは大規模な博物館の運営経験がなく、本社の管理職は収蔵庫を見ることすらしなかった。アクティオの関心は、イベントと外部の企画による展示の数を増やし集客数を増やすことにしかなかった。つまりは、市民ミュージアムの収蔵品等には興味はなかったのであり、収蔵品の活用、維持管理、水害等に対する減災にも興味がなかった。だからこそ、学芸員らの給与を7割も減額し、大半の学芸員が辞めてゆくことを是とし、それに抗する副館長を「雇い止め」にしたのである。
    このようなアクティオを指定管理者として、収蔵品管理、施設管理を丸投げしてきた川崎市の責任も重大である。

3  川崎市市民ミュージアム副館長雇止め事件と「水害」の関わり
    昨年の報告で、本訴訟の意義は、第1には「雇い止め法理」(労契法19条)を適用し違法無効な雇い止めを許さないことを求める点にあるが、第2には、利益至上主義により、市民の財産であり貴重な文化資源である市民ミュージアムの担う博物館機能を危機に陥れた被告のごとき企業を指定管理者に選任した元凶である指定管理者制度の見直しを本件訴訟を通じて訴えることにある旨を述べた。
  今回の「浸水」は、第2の意義を最悪の形で浮き彫りにしたのである。

4 訴訟の展開
   被告は、「本件雇用契約には更新の期待権は生じる余地がない」「(雇い止めにした理由は、)勤怠、就業規則違反」と主張してはいたが、被告が主張立証責任を負う原告に対する雇止めが本件雇用契約書所定の「雇用期間の更新可否の判断基準」(ⅰ雇用期間満了時の業務量、ⅱ 勤務成績、態度、ⅲ 能力、ⅳ 会社の経営状況、ⅴ従事している業務の進捗状況、ⅵ その他が記載されている。)のいずれに該当するのか具体的事実を主張すらしようとしなかった。しかし、裁判官から、そのまま主張しなくていいのかと強く言われて、様々な「事実=遅刻、通勤に規則違反の自動車を利用等々」を主張し始めた。
    これに対し、原告はことごとく事実をもって反論し大半の被告の主張は論破されている、いずれにせよ双方の主張はほぼ出そろった。あと2期日ほどで尋問手続に入ろうかという段階に来ている。
    アクティオによる違法な雇い止めが断罪されることで原告が救済されるとともに、今回の収蔵品被害により美術館、博物館史上空前の被害をもたらしたアクティオと川崎市、指定管理者制度が見直されるまで奮闘する決意である。              

以上

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

建設アスベスト訴訟の到達点と今後の戦い(弁護士 西村隆雄)

2020年1月31日 金曜日

 西村弁護士の紹介は、こちらをご覧下さい。

1 この間の前進

 この間、昨年11月に、福岡高裁1陣判決が下された。

 同判決では国の責任に関して、防塵マスクの着用、警告表示・掲示、特別教育の義務付け懈怠の違法を認めた。そして懸案の一人親方の責任について、安衛法の保護対象はあくまで「労働者」であるが、国が適切に規制権限を行使していれば、被害の発生を防ぐことができたと評価しうるのであれば、一人親方の関係でも国賠法上の違法を認める余地があるとしたうえで、①曝露の危険性は一人親方を含む労働者全体に及ぶこと、②規制によって享受する利益は労働者と一人親方で変わるところはないこと、③一人親方と労働者の就労実態の同一性から、一人親方に対して賠償責任を負わないと解するのは、正義公平の観点から妥当でないと断じた。

 一方建材メーカーらの責任に関しても、1975年時点での予見可能性、警告表示義務違反を認めたうえで、マーケットシェアが20パーセントを超える場合にはその建材が被災者に到達したと認めることができるとして、被告企業4社の賠償責任を認めた。

 国の責任に関しては、なんと地裁、高裁合わせて11連勝となり、一人親方の責任についても、東京高裁、大阪高裁京都ルート、同大阪ルートに続いて4連勝、また建材メーカーの責任についても、神奈川東京高裁判決、大阪高裁ダブル判決に続いて高裁段階で4勝目の判決となった。

 一方1月30日、神奈川2陣訴訟が結審を迎えた。

 建材メーカーの責任をめぐっては、民法719条1項後段の類推適用による共同不法行為の成立に関し、この間各地で出された高裁判決を踏まえ、メーカーの加害行為の到達については相当程度以上の可能性で足りること、その立証についてはマーケットシェアを活用すべきことを明らかにした。

 最大の焦点である一人親方の責任について、岩手県立大の柴田先生の証人尋問をかちとり、一人親方の就労実態につき、労働者との対比で歴史的かつ実証的に解明して、一人親方勝訴に向け、大きく道を開くところとなった。

 判決言い渡しは、8月28日午後3時と指定された。

 

2 国の対応

 こうした中で、原告を先頭に、一貫して、基金制度の創設による全面解決を求める運動が取り組まれてきた。

 これに対して被告の建材メーカーらは、ほぼすべての企業が交渉に応じ、主要企業のうち11社が、国から制度提案があった場合、前向きに検討することを表明している。

 しかし一方の国は、大阪高裁4民、3民での結審に際しての和解打診、和解勧告を拒否したのをはじめとして、その後もいたずらに控訴、上告を重ねるばかりで、解決に向かう兆しは一向に見られない。

 これは国が司法解決方式を念頭に置いているためであるとみられる。すなわち、国は、仮に来るべき最高裁判決で敗訴しても、当該訴訟で判決に従って支払いを行うのは当然として、2陣以降、さらにはその余の被災者についても、制度を創設して行政対応で救済するのではなく、いちいち提訴をさせ、訴訟上の和解に従って支払いを行う方式を念頭に置いていると考えられる(泉南アスベスト方式)。しかし泉南型被害との決定的違いは、本件建設アスベスト被害はまさに現在進行形の被害で、今なお新た被害者が続々と生まれており、今後の被害者は2万人とも3万人とも言われている。

 これだけの被害者を前に, いちいち訴訟を提起しないと救済を受けられないというのは,救済にとって重大なハードルとなること疑いない。この点、NHKの報道番組『時論公論』でも, 「司法は本来、双方に争いがあるときに紛争の解決を目指すもので, 行政が迅速に救済を行うのが望ましい。司法は行政の補助機関ではありません。」としているとおりである。

 さらに本件被害に対する直接的な加害者である建材メーカーについては、最高裁の判断が出てもこの基準に従ってその余の被災者についても和解解決することは予想できず、結局、建材メーカーの負担を欠いたまま、国のみがその負担部分について国民の血税から被害救済を行うことになる司法解決方式は、あまりに不合理であり、到底国民の理解を得られるものではない。

 

3 今後のたたかい

 現在最高裁には神奈川1陣訴訟をはじめ5件の各地1陣訴訟が係属しており、遅くとも今年中には判決が見込まれている。最高裁に向けては、メーカー責任、一人親方責任に関する学者意見書を提出するのをはじめ、公正判決要請署名を積み上げての要請行動が取り組まれている。

 そしてこの3月には、全国一斉に3陣提訴を行って、被害の広がりをさらにアピールしていくことが予定されている。

 こうした中で、4月17日の東京地裁東京2陣判決とこれに続く8月28日の神奈川2陣東京高裁判決を大きなチャンスとして全面解決を迫り、来るべき年内の最高裁判決に際しては、なんとしてもこれを契機に補償基金制度の創設による全面解決をはかるべく運動、取り組みを飛躍的に強化していくことが求められている。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

Q 試用期間中の解雇-ある会社に入社したのですが、試用期間中に、もう会社に来なくてよいといわれました。どうすれば良いでしょうか。

2020年1月30日 木曜日

A 会社との間で試用期間の合意がある場合でも、労働契約自体は、入社時から、期間の定めのない労働契約として成立しています。試用期間中に、労働者の勤務状態により、能力・適格性が判定され、雇用を継続することが適当でないと判断されると、解雇または本採用拒否という方法で、解約権が行使されることになります(解約権留保付労働契約説)が、この解約権行使は、無制限に認められるものではなく、解雇権濫用法理(労働契約法16条)同様、「客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当」な場合という非常に厳格な要件を満たした場合にのみ認められるものです。

  使用期間中に解雇・本採用拒否をされた場合にも、諦めず、まずは会社に対して、解雇・本採用拒否の理由を、書類等で確認してください。

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日本通運川崎支店-無期転換逃れ地位確認訴訟(弁護士 川岸卓哉)

2020年1月23日 木曜日

川岸弁護士の紹介は、こちらからご覧下さい。 

1 事案の概要
 本件は、労働契約法18条「無期転換ルール」逃れに対する裁判である。原告は、日本通運川崎支店で派遣社員の事務職を経て、2013年より、日本通運株式会社に、1年契約更新の有期労働契約で直接雇用された。その後、契約更新は4回されましたが、無期転換申込権が発生する通算契約期間5年のわずか1日前、2018年6月末日をもって、期間満了による雇止めされた。これに対し、雇い止め無効を主張し、横浜地方裁判所川崎支部に提訴した。
 無期転換ルールは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的として、立法されたものであるが、本件雇止めは、無期転換ルールの法の趣旨を真正面から否定し無期転換を阻止することに目的がある。

2 雇止め法理の形成・発展に逆行する不更新条項
 本件雇用契約書には、派遣を経て最初の直接雇用契約当初から「当社における最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない」という、いわゆる不更新条項が挿入されていた。そもそも、労契法19条において制度化された雇止め法理は、有期労働契約は合意された期間の満了によって当然に終了するという契約法理に対して、解雇権濫用法理という重要な労働法理を尊重して法定更新制度を設けたものである。つまり、合意原則よりは雇用関係の存続保護という要請を重視して、形成された法制度であり、それについて不更新条項による潜脱を認めることは、雇い止め法理の形成・発展に逆行することになる。
 本件訴訟の3つの争点①そもそも更新上限規定が労働契約法18条を逸脱し公序良俗に反して無効②更新上限規定への同意が自由な意思に基づくものではなく無効、以上の論点を前提に、③本件件雇い止めが、雇い止めの無効について定めた労働契約法19条に反して無効であるかである。
 特に、争点①については、国会答弁で示されてきた労働契約法18条の立法趣旨を法解釈に斟酌すれば、使用者が、有期雇用契約に5年以内の更新上限を付して利用することについて、公序良俗違反といえる場合には、更新上限は違法無効と解釈される。意見書をお願いした立正大学准教授高橋賢治先生は、労働契約法は、5年以内の有期労働契約の利用はいずれの場合も許されるという趣旨で濫用防止規定があえて設けなかったのではなく、「解釈は後の判例により論理的に決せざるを得なくなる」と指摘している。

3 契約書の形式的文言を突破する必要
 2018年以降、全国で、本件と同様の無期転換逃れを争う裁判が提訴・係争され、今後、各地の裁判所の判断により、労働契約法18条に関する、新たな労働法理が創出されていくなか、本件裁判の帰趨も、日通のみならず広く非正規労働者の将来も左右する結果となる。非正規労働事件の運動展開は困難があるが、全川崎地域労働組合及び国民救援会神奈川支部を中心に支援共闘会議が結成され、署名5000筆を裁判所に提出するなど、運動を広げている。
 本件のように、当初より不更新条項が契約書に記載されていた内容でも、立場の弱い労働者は契約締結せざるを得ない労働者は潜在的に多数存在する。契約書の形式的契約文言の壁を事実と道理に基づく主張で突破してきた歴史が、有期契約の労働者を救済する判例法理形成の歴史である。これにならい、労働契約法18条の趣旨に適った新たな判例法理を作り出すため、全力を尽くす決意である。

投稿者 川崎合同法律事務所 | 記事URL

電気リストラと日立製作所における退職強要・不当査定事件(弁護士 川岸卓哉)

2020年1月22日 水曜日

川岸弁護士の紹介は、こちらをご覧下さい。

 本件は、2018年4月、日立製作所の課長職であった原告に対する面談による退職強要、それを拒否した原告に対する退職強要終了後のパワハラ行為、及び査定差別に対し損害賠償をもとめ横浜地方裁判所に提訴した事件であり、本年3月24日に判決日を迎える。

1 電気リストラと日立製作所における退職強要・査定差別
 日本の電機産業は、輸出競争力を低下させ,事業の撤退や縮小海外資本への売却が目立つようになった。また、残った事業分野においても、今後の成長は不確かとなっている。このような中で、2008年のリーマンショック以降、2017年3月1日までに、公表されただけでも36万378人が人員整理の対象となった。しかも、これらの人員削減は、実態は労働者への押しつけであるものの、希望退職という形式を取って行われるため、社会問題化しにくく、殆どの国民の知らないところで大量のリストラが敢行されている。
 赤字や倒産の危機を理由にリストラをしていた企業が、経営危機を脱して、黒字に反転した後も、リストラを継続し続けているというのが実態である。これは、日本の大手電機メーカーが、多角的に事業展開する企業複合体(コングロマリット)から、事業の選択と集中により、少数の事業に注力するという方針に変化し、少なくない事業から、次々に撤退していることに伴って生じているものである。
 日立製作所は、高い利益目標をかかげ、それを達成するために「常時リストラ」「黒字リストラ」とでもいうべき政策を強引に進めている。日立製作所の原告に対する退職強要も、全社的な組織的意思決定に基づいて行われた脱法的なリストラである。原告が電機情報ユニオン労働組合に加入して抗議したことにより、日立製作所は、原告に対する退職強要面談は終了させたものの、その後も、原告に対して業務遂行に対する注意を、晒し者状態で行うなどパワハラ行為を行ったり、さらには、一時金査定において低評価を行い続けて、原告に転職を決意させようとし続けている。

2 違法な退職強要
 本件退職面談は、面談の機会に、圧倒的な労使の力関係の下で、労働者の権利を否定し、労働者保護法体系に明らかに反する不合理な考え方を一方的に押しつけて、原告に退職を迫ったパワハラ行為が行われている。すなわち、侮辱的言辞・仕事の取り上げ・名誉感情の不当な侵害、退職表明を行うまで継続される絶望的な繰り返しの面談等、様々なパワハラ的手法を重畳的に用いた退職(転職)の強要が行われた。

3 退職強要としての査定差別
 日立の人事評価制度であるGPM面談及びキャリア面談の名もの下行われた退職面談を境に、同じ原告に対する評価が、明らかに大きく下がっている。
 GPM評価制度は、成果目標と行動目標から構成され、いずれも、上司と共に予め設定した目標に対する達成具合の主観的評価で賃金・一時金査定が行われるものである。それは、自己評価を前提としているとはいえ、最終的・実質的には、上司の主観的評価に依拠するものとなっている。そして、客観的検証が困難な、抽象的評価のため、上司の恣意的評価の余地が大とならざるをえない。原告自身は、一貫して、同様に仕事をしているのであり、本件面談における退職強要を拒否した以外には、本件面談の前後で、他に大きく評価が下がる合理的理由がない。
 そして、本件面談における退職強要の拒否は、日立製作所会社を含む電機産業が業界ぐるみで行っている電機リストラに対する抵抗を意味することになる。したがって、日立製作所会社にとってはあってはならない事態であり、だからこそ、原告が、本件面談による退職強要に必死に抵抗し、屈しなかった時点を境として、判りやすく、本件査定が極端に下げられている。したがって、本件減額査定は、不当な退職強要の中止を訴えて、会社に残ることになった原告に対し、形を変えた「退職強要」が行われていというべきである。

4 変容する日本型雇用に対する抵抗
 日立製作所出身の日本経団連中西宏明会長は、「終身雇用は制度的疲労している」等度々発言し、2020年の経団連春闘方針でも、既存の日本型雇用の見直しを示している。この経団連の示す方針の意味するところが、企業を雇用責任から免れさせ、無法図なリストラを許容し、労働者の権利を侵害する方向であることは、本件においてすでに日立製作所が行っていることからも明らかではないか。
 判決を機に、社会に対して電気リストラの実態を明るみにし、雇用の破壊に対する歯止めとしたい。 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Q 退職金未払 -会社が退職金を支払ってくれません。どのようにしたら良いでしょうか。

2020年1月16日 木曜日

A 退職金の請求が認められるためには、就業規則、労働協約、労働契約などの法的根拠が必要ですので、まずは、会社に退職金規程があるか確認してください。もし、退職金規程がない場合でも、慣行や労働者との個別の合意、会社と従業員代表との合意などにより、支給金額の算定が可能な程度に明確に定まっていれば、退職金請求権があるといえます。退職金が支払われない場合は、根拠となる就業規則等を示して請求しましょう。

  懲戒解雇の場合には、退職金が不支給・減額となる場合もありますが、懲戒解雇の場合にも、退職金規程等に、不支給・減額の規程を明確に規定していなければ会社が勝手に不支給・減額にすることはできませんので、退職金規程を確認してください。

  なお、退職金請求権の時効は5年間ですので、注意しましょう。

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公害調停-全国の大気汚染被害者の救済を目指して-(弁護士 篠原義仁)

2020年1月16日 木曜日

篠原弁護士について、こちらをご覧下さい。

1 2019年2月18日、前日に公害調停申請人団の結団式を文京区民センターで開催し、全国公害患者の全連合会と東京、神奈川(川崎、横浜)、千葉、埼玉、名古屋、大阪のぜん息患者90人が、環境省と自動車メーカー7社(トヨタ、日産外)を相手方として、総務省の下に設置されている公害等調停委員会に公害調停の申立を行った(その後、第2次の申立が行われ、現在、申請人団は104名)。
    申立の趣旨は、①国は、大気汚染公害医療費救済制度を創設すること ②自動車メーカー7社は、前記制度につき相応の財政負担をすること、ということで医療費救済の制度創設を本来的要求とし、これに加えて ③国と自動車メーカー7社は申請人らに対し、各100万円を支払え、というものである。すなわち、せめて医療費救済を、ということで、要求をしぼった形で申請を行った。

2 従前の制度としては、固定発生原(工場排煙)中心の大気汚染(SO2、NO2、SPM外)を念頭において、1970年2月1日から医療費救済の特別措置法が施行され(当時、環境省は存在せず厚生省管轄)、1973年9月には、1972年7月24日の四日市ぜん息判決を基礎に公害健康被害補償法が成立し、74年9月1日から、医療費救済はもとより、生活補償や健康回復事業を含め被害者を全面的に救済することを目的として同法が施行された。
    同法の財源は、固定発生源が8割、国(自動車重量税から拠出)が2割で、当時は工場排煙を中心として制度設計がなされたため、自動車排ガス(移動発生源)をも視野に入れた制度とはならず、 自動車メーカー及びその関連企業(石油関連会社外)からの財源拠出はなかった。
    まさに、固定発生源中心の大気汚染に対応しての救済制度の発足となった。

3 その後、オイルショック等の発生で、前記救済制度は経団連や加害企業からたびたび制度の縮小や廃止の策動にさらされてきたが、患者会の圧倒的運動の展開の下で、これを阻止し、制度を維持、発展させてきた。
    しかし、加害企業の財源拠出が年額1000億を超える頃から、経団連・加害企業からの攻撃は激しさを増し、他方、東京、川崎、大阪等々の革新時自体の下での大気汚染物資の総量規制の実施、公害被害者の要求に押されての加害企業の公害対策の前進の結果、SO2汚染については、環境基準を達成する状況となるに至った(しかし、NO2、SPM汚染は、未だ深刻な状況であった)。
   加害企業は、SO2汚染のみの改善に焦点をあて、政府、環境省に対し、公害補償法の骨抜きを図るため、全国41に及び大気汚染系の公害病認定地域の指定地域解除の画策(既認定患者の救済は存続させるが、新規認定患者の認定を行わないという画策)を進めるに至った。
     その結果、政府は中曽根内閣の下で臨調行革路線の一環として、補償法についてこれを改悪して指定地域を解除することとし(97年9月国会)、1988年3月1日から補償法に基づく新規認定患者の認定打切りを強行した(当時の認定患者は、約10万人で毎年、9600人が新たに認定申請)。

4 SO2汚染の一定の改善はみられたものの、NO2、SPM汚染の改善がないなかで、新規発生の患者は長期にわたって未救済のまま放置された。
   しかし、この指定地域解除が誤りであったことは環境庁自らの施策の展開ですぐに明らかとなった。
   88年12月21日、環境庁は「環境白書」を公表した。マスコミは一斉に「大気汚染、10年前に逆戻り」とし、NOX、SPMは一向に改善のきざしを見せていないことを報道した。環境庁は、87年の「環境白書」でも、依然、大気汚染が進行していると認めたが、その要因は、「気象現象の変化」にあると強弁した。しかし、87年、88年と2年つづいた大気汚染の悪化を前に環境庁も,自動車公害対策等で抜本的な公害対策を考慮せざるをえないとした。
   すなわち、環境庁は88年3月に「大気汚染改善論」を振りかざして指定地域を解除したのにもかかわらず、88年10月には、大気汚染の悪化という深刻な事態に直面して、すなわち、87年度の三大都市地域のNO2 環境基準未達成局が91%と過去最悪を記録したことに関連して、従来、固定発生源を対象として東京、神奈川、大阪の三大都市地域で実施していたNOX の総量規制対策に、移動発生源の自動車を加える方針を確認した。
  補償法の財源との関係で固定発生源を念頭におき、そして、SO2 汚染の改善に着目して指定地域の解除に踏み切った環境庁が、移動発生源をも総量規制の対象にして大気汚染の軽減化と被害の防止に踏み出すことになったのである。
   そうだとすると、補償法の制度の枠組みは維持した上で移動発生源、すなわち自動車メーカー等にも財源の拠出を求め、PPPの原則に基づいて、88年以降の新規患者等についてもその救済が図られるべきことは当然のことである。

5 公害調停で、被害者が求める医療費救済制度は、環境省がこの歴史的誤りを猛省して、88年以降の大気汚染の実態とこれに起因して毎年数千人規模で発生している新規患者等について、せめて医療費救済制度を創設せよと求めるものである。
 指定地域解除後、90年代から2000年代にかけて、NO2 、SPMそしてPM2.5に係る深刻な大気汚染は継続し、必然的に気管支ぜん息をはじめとする新規患者は発生しつづけた。
  指定地域解除後に斗われた自動車排ガスに係る道路公害裁判は、
     95年7月5日    西淀川二次~四次判決
                   国・公団の道路公害の責任を認める
     98年8月5日    川崎二次~四次判決
                   国・公団の道路公害の責任を断罪し、大気汚染と被害の発生が「現在進行形」であることを認める。
     00年1月31日   尼崎判決

             国・公団の責任を認め、大気汚染被害が「現在進行形」で自動車排ガスの排出は直ちに差止めるべき深刻な 事態となっていると断罪し、差止認容の判決       

  00年11月27日  名古屋南部判決
                     尼崎判決と同様に差止認容。

という内容の判決を勝ちとった。
   一連の判決、とりわけ、尼崎・名古屋の2つつづけての差止認容判決は、国と自動車排ガスの責任主体、自動車メーカーに速やかな公害防止対策と緊急な被害救済を要求した。それは、補償法水準の救済制度の創設を要求した。同時に「公害は終った」と喧伝する政・官・財に対する、司法を土俵としての痛烈な継続的反撃となった。
 いずれにしても、裁判制度に基づく反撃は、国として、道路公害=自動車公害に対応する新たな被害者救済制度の創設を行うこと、そのためにも自動車メーカー等に財源拠出を含めた関与を強く要求するものとなっている。
  他方、02年10月29日の東京の1次判決とその後の和解の成立によって、少なくとも医療費救済制度に係る国と自動車メーカーの責任関与の枠組みは、すでに示されるところとなっている。

 

6 今回の、公害調停は、以上の経緯をふまえて申立てられた。
   以来、すでに公害調停は4回開催された。相手方となった国の対応は、一見誠実な態度を示しつつも、救済制度の必要性と重要性につき、きちんとこれを理解し、制度設計に向けて真摯に向き合うという体制に至っていない。国としてもっと積極的にイニシアティブを取り、制度の早期達成をめざすという姿勢に欠けている。
  申請人団としては、国への働きかけを強める必要がある。
  他方、自動車メーカーに至っては、もっと後向きの姿勢に終始している。自動車メーカーは ① 立法に関わる要求は、公害調停の土俵外  ② 制度内容につき国からの働きかけがなく不明。したがって、調停の土俵に乗れない ③ 財源は、国の外、自動車メーカー、石油業界、運輸、物販業界と(申請人は)言いながら、自動車メーカーのみを被申請人とするのは論外 ④ 東京大気訴訟で自動車メーカーは勝訴している(責任なし)。そのなかで高裁和解には一定の財源を拠出し、協力している、と主張し、さらには法的責任の枠組みは置いておくとして、医療費救済で「社会的責任」を果せと言われても、自動車メーカーは低公害車の開発で社会的責任は果している、として開き直りの対応を示し、公害調停は早期に打ち切り、調停不調にしろと、公調委に迫っている。

7 公調委は、被申請人、とりわけ、自動車メーカーの強硬な開き直り姿勢のなかで、申請人側からみて、若干、自動車メーカーに迎合的という姿勢を示しつづけていたが、第4回調停(11月27日)において、調停を早期に打ち切れという自動車メーカーの「言い分」を拒絶し、年明け以降の調停期日では大気汚染とぜん息等の発病・増悪の因果関係、いわゆる一般的因果関係につき、申請人側のプレゼンテーションをうけるとして、調停内容に一歩踏み出すことを宣明した。
   申請人としては、これにつづき、公調委がまだ乗り気を示していない責任論(国との関係では、規制権限不行使論、自動車メーカーの関係では、不法行為に係る過失論)について、申請人主張の認否、反論を迫り、一気に調停手続を軌道に乗せたいと考えている。

 また、公調委として大気汚染の現場、申請人の生活の場を直接見分する必要があるとして、東京(2ヵ所)、名古屋、大阪の「現場検証」申請につき、早期に採用すべきであると迫っている。
    いずれにしても、調停手続き自体、裁判と異なり、そう長期にわたるものではなく、本年度がまさにそのヤマ場、正念場となっている。

(2020.1.15記)

   

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