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『増改築禁止特約』のある借地契約で増改築を認めさせたケース (弁護士 篠原義仁)
2016年11月24日 木曜日
1 借地契約
借地契約は、川崎区内の土地153.05㎡(約46坪)を非堅固建物所有目的で、契約期間を20年と定めて締結されました。
依頼者は、その借地上に昭和24年に自己居住用の木造2階建建物を、昭和36年に賃貸用の木造2階建共同住宅を建築し、土地利用を継続してきました。
この間、地主(賃貸人)も、借地人(賃借人)も死亡し、それぞれ相続手続が行われ、賃貸人、賃借人の地位が承継されるに至りました。
2 増改築を申し入れたところ地主が拒否
長年の建物利用の結果、現在2つの建物は古くなり、依頼者(借地人)は、共同住宅入居者には協議の上、退去して頂き、その上で、2棟の建物を取壊して全体の床面積としては、それより小さく、1階を63.36㎡、2階を49.54㎡とする軽量鉄骨ステンレス鋼板葺2階建居宅を建築するため、適正額の承諾料の支払の用意があることを伝えて、地主に建物改築の申入を行いました。
しかし、地主は、当初契約には増改築禁止特約が存在している、そして、隣地も含めこの土地を一体的に利用する計画を持っているとして、この改築の申出を拒否してきました。
そこで、依頼者は、困ってしまい、冒頭のような相談をしてきました。
3 裁判所に「改築の許可」を申し立て
私の方で、地主に対し、借地借家法17条2項には地主の承諾に代わる裁判所の許可が定められているが、しかし、この規定を利用した裁判所の借地非訟手続によらず、円満に話し合って自主交渉で解決できないかと再度申入れたのですが、やはり、承諾はできないと、申入は断られてしまいました。
そこで、裁判所に申立を行うこととして、依頼者に借地契約の内容と事実経過を聞きとり、また、「地代の推移」について、整理してもらいました。
同時に、建物改築の予定建築業者には、既存建物の配置図、改築建物の配置図、平面図、立面図を作成してもらうこととしました。
約1カ月の準備期間を経て、資料が整い、裁判所に「改築の許可」の申立を行いました。
4 改築許可申し立ての裁判所の審理手順
改築許可申し立ての裁判所における審理は、「借地非訟事件」という、通常の裁判とは違う手続で行われます。借地非訟事件の手順は、①双方の言い分の整理、②鑑定委員の選任(3人)、③鑑定委員会の鑑定作業(許可の存否、その場合の承諾料及び、地代の算定)、④鑑定結果をうけての和解打診、⑤和解不成立の場合、決定、という手順を踏んで、概ね1年メドの審理となります。
この事例でも、上記手順のとおり、裁判手続は進み、但し、鑑定結果をふまえての和解の成立を見込めず、裁判所による決定が言渡されることになりました。
5 裁判所は改築を承諾
決定の結論です。
裁判所は、本件土地が既存住宅地域で、2~3階の低層住宅が多く、建築規制としては、第2種住宅地域、建ぺい率60%、容積率200%、準防火地域、第3種高度地区に指定されているところ、改築予定の軽量鉄骨造2階建一般住宅は、現行借地条件の非堅固建物に当り、そして、本件周辺地域の通常の利用状況に合致するとして、許可が相当と判断しました。
その上で、改築の承諾料については、鑑定が導き出した更地価格の3%が相当であるとして、借地面積を考慮の上「111万6000円」が相当であるとしました。
改築後の地代については、「地代は公租公課の3倍程度が標準的であるといわれているところ」(注、私は2~3倍メドで、通常は、2.5倍程度と判断していて、また、それに対応する、もしくは、それ以下の判決、決定もとっているので、3倍は少し高いと思っています)、本件では「現行地代は1㎡当り117円で、公租公課と比較すると約3.1倍」で、建物の改築という事情に至っても地代を増額する必要性はないので、現状維持でよいと判断しました。
6 借地上の建物の増改築の課題はまずは弁護士にご相談を
この決定をうけて、依頼者は、建築業者との間で正式に請負工事契約を締結して、工事に着手し、最近に至り、工事の完成をうけて、改築建物での居住を開始するに至っています。
一般の人にとっては、裁判は、大変なものと思われがちですが、借地非訟事件は、その名のとおり「訴訟にはあらず」ということで審尋期日は法廷で行われることはなく、平場の場所(会議室のような審尋室)で行われ、鑑定費用も、通常の民事訴訟手続では意外と高額な鑑定費用が必要となりますが、借地非訟では無償で、そして、裁判手続の期間も比較的短期なので、借地非訟手続は飲み込みさえすれば、使い勝手のいい手続となっています。
但し、銀行融資手続の関係とか契約期間満了間際の申立には、それ固有の問題点があるので、予め、弁護士との間で法律相談で問題点をにつめておいた方がよいでしょう。
ともあれ、要は相談からです。借地上の建物の増改築の課題をかかえている人は、気軽に弁護士と相談してみて下さい。
(なお、例えば、高齢化に伴い、財産上の価値のある借地権を第三者に譲渡し、隠居したいと考えている場合も、借地権譲渡に禁止特約が付いているのが通常ですから、まず、第一に地主の承諾の問題、第二に承諾が得られない場合には、地主の承諾に代わる裁判所の許可ということで、借地借家法19条1項の規定を活用することになります。)
以上
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