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中学校で議論に関する講義を行いました(弁護士 畑 福生)
2026年3月12日 木曜日
2025年12月17日、一般社団法人 Omoshiro横浜市立寛政中学校内居場所において、『他人を「言い負かす」 「論破する」ではなく「最大多数の最大幸福」を目指す「話す力」を学ぶ』と題して、議論に関する講義を行いました。

「論破」や「言い負かす」という言葉が独り歩きしがちな昨今、言葉を使って市民の権利を守る弁護士として、議論というものはケンカをしないでみんなの納得を見つけるための人類の発明であることをお話ししました。
交渉においては独りよがりにならずに、相手のニーズをしっかりとつかんで「WinーWin」の関係を作ることが重要になります。
そのことを実感してもらうために、「オレンジゲーム」を取り入れてみました。二手に分かれて一つしかないものを取り合うというお題の中で、互いに交渉して自己の願いを達成してみようというゲームです。
このお題は、よくよく話を聞いていると双方実は欲しいものの部分が異なり、1つの物を分け合うことができる(例えば姉妹がオレンジを取り合う場面で姉はマーマレードジャムを作るために皮がほしい、妹はジュースを作るために果肉がほしいというもの)ようになっており、「WinーWin」の状況を体験することができるようになっています。
ただ、お互いに写真のようなお題の書かれたついたてを用いて、相手の要望は分からないようになっているのがポイントです。

中学生たちは熱心に取り組んでくれて、作戦会議では「このように交渉してみよう」と考えていたことがいざ交渉の場になると前提からひっくり返ってしまい、一から相手の要望を真摯に聞いてみようと努力する姿が見られるなど、盛り上がっていました。
弁護士というと法律の問題の講義も多く依頼されますが、今回のように弁護士としてのスキルに関する講義も新鮮で面白かったです。
弊所では幅広く講義のご依頼お受けしておりますので、是非ご検討ください。
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【2026年4月施行】離婚後の親子関係はどう変わる?~「共同親権」の基礎知識~【選択的共同親権が導入されます!】(弁護士 中瀬奈都子)
2026年3月9日 月曜日
2024年5月に成立し、今年(2026年)4月1日から施行される改正民法。これにより、約80年ぶりに「離婚後の単独親権」という原則が見直され、「離婚後の共同親権」が選択肢として導入されます。
つまり、これまで、離婚後は必ず父か母の【どちらか一方】に親権を定める必要があったものが、今回の改正により、離婚後も「共同親権」を選択できるようになるのです。すでに離婚しているケースでも適用され、単独親権から共同親権へ変更することができるようになるため、いま子育て中の、既に離婚した方、現在離婚を検討されている方にとって大きな変更と言えるのではないでしょうか。
- 改正のポイント:選択制の導入
新制度では、離婚時に以下のいずれかを父母の話し合いで決めます。
- 共同親権: 父母双方が親権を持つ。
- 単独親権: どちらか一方が親権を持つ。
もし父母間の話し合いや調停がまとまらない場合は、裁判所が「子の利益」を最優先に考え、どちらにするかを判断します(新民法819条2項、5項、7項参照)。共同親権とするか、単独親権とするかについて、原則・例外の関係があるものではないとされています。
- 「共同」とはどこまで協力するのか?
「共同親権になったら、日常のささいなこともすべて元配偶者の許可が必要なの?」という不安の声をよく耳にします。
実務上の運用は以下のようになると整理されています。
|
事項 |
決定の仕組み |
具体例 |
|
身上監護の 重大行為 |
父母が共同で決定 |
転居、進路の決定(私立小・中学への入学、高校進学・退学、就職、長期海外留学など)、大きな手術など心身に重大な影響を与える医療行為 |
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財産管理 行為 |
父母が共同で決定 |
子ども名義の預貯金口座の開設、子どもに対して債務を負担させる契約の締結、子どもの所有する財産の処分など |
|
日常 行為 |
子どもと同居している親が単独で決定可 |
日々の食事、習い事の選択、軽微な病気の受診など |
|
急迫の 事情 |
子どもと同居している親が単独で決定可 |
緊急手術、虐待からの避難など |
- DVや虐待がある場合はどうなる?
改正にあたって最も議論された点です。
新民法819条7項は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係、その他一切の事情を考慮しなければならないと定めつつ、以下に述べる事由にあたる場合のように共同親権と定めることによって子の利益を害すると認められるときは、単独親権とし、父母の一方を親権者と定めなければいけないと定めています(必要的単独親権)。
単独親権にしなければならない場合は、以下のとおりです。
- 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき【親子の関係性に着目した必要的単独親権事由】
- 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれのある場合など、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき【父母の関係性に着目した必要的単独親権事由】
つまり、裁判所が「DVや虐待のおそれがある」と判断した場合には、共同親権を認めてはならないとされているのです。
4.裁判所はどう判断する?
改正後は、父母の協議や調停がととのわない場合、裁判所が「子の利益」を基準に判断することになります。単に「親がそうしたいから」ではなく、子どもにとってどちら良いのかがポイントです。
改正法施行後の事案の集積が待たれますが、裁判所は、主に以下の要素を総合的に見るものと考えられます。
- 父母と子との関係性
・子の面前で父母間で口論を繰り返していたり、子に対して他方の親の悪 口をことさらに言ったりと子どもを紛争に巻き込まないための配慮に欠けていないか
・養育費をきちんと支払っているか
・年長の子どものケースは、子どもの意思を尊重する観点から、子どもに父母双方の関わりを求める意向があるか、一方の親に対する拒否的感情があるかなども重要視される
- 父母の関係性:親権の共同行使のために最低限な意思疎通が可能か(頻繁な連絡や友好関係までは不要)。
5.具体的なケースを考えてみましょう
- ケース1
☛性格の不一致で離婚することになったが感情的な対立が低く、いわゆる円満離婚。別居中も父は定期的に子と面会しており、母ともLINEで習い事についてや体調についての報告をやり取りできている。父・母ともに「子どもの進路については二人で話し合いたい」と考えている。
- 裁判所の判断ポイント:
- 父母間に最低限のコミュニケーションが可能である。
- 双方が養育に関わる意欲があり、対立が激しくない。
- 結論: 子の健全な成長のために、共同親権が妥当とされる可能性が高いと考えられる。
ケース2:
☛婚姻中、父から母への身体的暴力(DV)があった。現在、母と子はシェルターを経て避難中。父は「反省している、親権は譲らない」と主張している。
- 裁判所の判断ポイント:
- 上述のとおり、改正法では、DVや虐待の恐れがある場合は、必ず単独親権としなければならない。
- 父母が対等に話し合える関係になく、共同親権にすると母子の安全が脅かされる。
- 結論: 父の意向に関わらず、母の単独親権となる。
ケース3:
☛DVなどはないが、離婚の経緯で激しく対立。母は「顔も見たくない、一切関わらないでほしい」と主張し、他方で、父は「養育費も払うし、教育にも関わりたい」と主張。話し合いが全く成立しない。
- 裁判所の判断ポイント:
- 意思疎通の困難さがどの程度かが焦点。
- 単に「嫌いだから」という理由だけで単独親権になるわけではありません。他方の親に暴力等のおそれや協力関係を阻害する言動があり、協力関係を構築できない理由があるかがポイントになります。
- 結論: 暴力等のおそれや協力関係を阻害する言動がないにもかかわらず、あえて協力関係の構築を阻害しているような場合、そのことだけで協力関係の構築が期待できないとするのは、子の利益の観点から見て慎重に検討が必要とされています。より具体的な事情次第というところでしょう。
まとめ
共同親権導入後、単独親権か共同親権かという争いや、共同親権にした場合に何が日常行為で何が身上監護上の重大行為かといった争いが生じ、紛争が増える、あるいは紛争が複雑化することが予想されます。
親権について問題になりそうな時には、是非、お気軽に弁護士にご相談ください。
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調停? 弁護士を入れて交渉? ―あなたの離婚に適切な方法選択―(弁護士 川口彩子)
2026年3月5日 木曜日
1 離婚するときに決めるべきこと
(1)離婚にあたり,最初の壁は「離婚をするかどうか」です。お互いに離婚を望んでいる場合もあるでしょうし,片方は離婚を決意していても,もう片方の気持ちが追いつかない場合もあります。条件次第では離婚してもよいという気持ちはあるけれども,条件が折り合わない場合は合意できません。
(2) 次に問題となるのは「親権者」です。20歳未満(2022年4月1日からは18歳未満)のお子さんについては,父母のいずれかを親権者に指定しなければなりません。
※なお、民法の改正に伴い、2026年4月1日からは、離婚届を提出する際に、親権者に関して協議がととのっていない場合(単独親権にするか、共同親権にするか、単独親権にするとして父母のどちらを親権者にするかについて合意できていない場合)であっても、裁判所に対して親権者の指定を求める家事審判または家事調停の申立てをしていれば、離婚届を受理してもらえるようになります(新民法765条1項2号)。
(3) 上記(1)(2)については,離婚の前に必ず決めなければなりませんが,養育費,慰謝料,財産分与,面会交流,年金分割などについては,何も取決めをせずに離婚することも可能です。とはいえ,離婚してしまうと夫婦は他人となるわけですから,あらかじめ離婚前に決めごとをしておくのが望ましいでしょう。
2 離婚の方法
「離婚届」を提出して離婚することを「協議離婚」といいます。3組に1組が離婚をする時代などと言われていますが,国内の大部分の離婚は協議離婚です。
当事者間で協議が整わないとき,あるいは当事者が家庭裁判所調停での解決を望むときは,家庭裁判所に調停の申立てをすることができます。調停で離婚についての合意が成立したときは「調停離婚」(場合により「審判離婚」)となります。
調停での合意ができなかったときは,離婚の成否について裁判で決着をつけることになります。判決で離婚が認められた場合は「裁判離婚」,裁判を進めるなかで当事者が合意し,裁判手続を利用して離婚を成立させることを「和解離婚」といいます。離婚の裁判は「調停前置主義」といわれ,調停での話合いを試みてからでないと提訴することができません。ただし,例外的に,相手方が行方不明の場合や,収監中であるなど,調停における話合いが不可能な場合には,調停を経ずに裁判に進むことができます。
3 協議離婚か調停離婚か
(1) 当事者間で話し合いが進められそうな場合
法律相談で解決水準を知る
当事者間の話し合いで決めごとができそうな場合は,協議離婚でよいと思います。ただし,協議離婚の場合,法的に決められるのは,離婚するということと親権者をどちらに指定するかということだけになります。
特に,養育費など,今後も支払いが続く場合には,公正証書を作成するなどして,万一,不払いがあった場合に速やかに財産の差押えができるよう,備えておいた方がよいでしょう。
取決めをしたい内容について,弁護士がご相談に乗ることが可能です。調停や裁判の事例をもとに,どこまで請求ができるのか,どの水準で解決するのが妥当かなどアドバイスをいたします。
(2) 弁護士を代理人に選任して,協議離婚を目指す場合
弁護士は中立な第三者ではない
ご相談を受けるなかで,「第三者に入ってもらって話し合いをしたい」と言われることがあります。ただ,弁護士は中立な第三者とはなりえず,ご相談を受けた方の立場に立ってしか行動できません。双方の言い分を聞いて,弁護士がジャッジするということはできませんので,そこはご理解をいただいています。
協議離婚で弁護士が前面に出てくるのは,ご相談を受けた方の「代理人」として,相手方と離婚の協議をする場合です。
話合いでの解決が可能そうか
ただ,相手方が離婚を頑なに拒んでいる場合,あるいは双方が強く親権を主張している場合など,弁護士が話をしたところで到底合意が得られなそうなケースでは,この過程を省略し,最初から調停を申し立てる場合も少なくありません。つまり,これまでの相手方の言動から,協議離婚が可能かどうかを見極め,可能そうだったら代理人として交渉にあたるということになります。
どこまで条件にこだわるか
離婚,親権では合意ができそうでも,金銭面等のその他の条件での合意が難しそうな場合は,ご相談者がその条件にどこまでこだわるかによります。こちらにも譲歩の余地があるのでしたら,弁護士を代理人として粘り強く交渉していくという道もありますが,交渉の余地が一切ない場合は,弁護士を立てたとしても協議離婚を目指すのは難しいということになるでしょう。
公正証書の作成が必要か
その他の判断要素としては,公正証書の作成までもっていけるかどうかということもあります。公正証書の作成には,相手方の協力が不可欠です。不払いのときに強制執行を受けることを了承する書類ですから,相手方によっては,応じてもらえないこともあります。公正証書までの作成はしなくとも,現時点では合意書が作成できればそれでよしとするのであれば,交渉による協議離婚の道も見えてきますが,強制執行を可能とする法的な効力を持たせたい,けれども公正証書作成につき相手方の協力を得ることが難しそうな場合は,やはり調停の申立てを選択することになります。調停で合意ができれば,裁判所が作成する調停調書をもとに将来強制執行をすることが可能となります。
公正証書を作成せずとも,相手方が最後まできちんと支払ってくれるだろうという信頼がある場合は,合意書の作成で終わらせてもよいと思います。また,そもそも将来にわたる支払いの約束がない場合(たとえば一括払いで既に支払いを受けた場合)は,あえて公正証書にする必要はないと言えます。
合意書に反して支払いがなされなかった場合ですが,未払金を強制的に回収するには,まず民事裁判を起こし,そこで勝訴判決を得てから強制執行手続に進むことになります。
(3) 調停離婚に適した場合
相手方の同意がすぐには得られないと思われる場合
離婚することに同意が得られず,あるいは親権での対立がある場合は,最初から調停を申し立てることになります。必ずしも調停で解決がはかられるとは限りませんが,時間をかけて話し合いをしていくことで,相手方との合意が形成できる場合もあります。調停では,「第三者」である調停委員が,交互に双方の話を聞いてくれますので,その中で気持ちの整理をつけていただくことが期待できます。
相手方と話をすることが難しい場合
調停の場では,原則として,個別に話を聞かれます。あなたがお話しした内容は,調停委員を通じて相手方に伝わり,相手方の考えは調停委員を通じて聞かされます。相手方の前では委縮して話をすることができない場合や,どちらかが一方的に話し続け口を挟む余地がない場合など,冷静かつ建設的な話し合いができない場合には,裁判所に間に入ってもらって,決めるべき内容に向かって話を整理してもらうことになります。
妥当な解決をはかりたい場合
相手方が離婚や親権について一応は同意してる場合でも,養育費を極端に低く設定することや,お子さんにとって過負担となる面会交流を条件としてくるなど,一般的な水準からかけ離れた要求をされることがあります。逆の立場では,法外な養育費を請求されているというような場合もあります。
調停離婚の場合には,裁判所が間に入って解決をはかることになりますので,一般水準とはかけ離れた要求を排除することが可能となります。
決めごとに法的効力を持たせたい場合
相手方との話し合いが可能な場合は,協議離婚及び公正証書作成でもよいのですが,公正証書を作成するには通常2万円前後の費用がかかります。弁護士をつけなければ,調停の申立て費用は郵便切手代を含めても2000円程度ですから,大きなご負担なく,将来強制執行が可能となる書類を作成してもらうことが可能となります。
4 弁護士をつけるメリット
交渉で協議離婚を目指す場合
概ね着地点は見えているにもかかわらず,当事者同士だとどうしても感情的になって決めるべきことが決められない場合があります。そのような場合,弁護士を入れることによって,淡々と決めるべきことを決めていくことができます。
また,法律の専門家が提案することで,こちらの提案の妥当性,正当性について信用してもらいやすくなるという効果もあります。
こちらが弁護士をつけることで相手方にも弁護士がつく場合があり,専門家同士で妥当かつ迅速な解決をはかることが可能となります。
調停での解決を目指す場合
調停ではその場その場で判断を求められることが多くあります。内容によっては次回までに検討してきますとして回答を留保することもできますが,当事者にはその判断が難しいことがあります。一人で調停に臨むと,裁判所の意図を汲みきれずに,表面上の言葉で一喜一憂し,思うように調停が進められなかったという話をよく伺います。弁護士をつけておらず,当事者一人で調停をしていると,紛争解決を優先するあまり,調停委員から不利な結論を押し付けられることがあります。もちろんこれは調停委員の良し悪しによるのですが,必要以上にあなたの権利が削られないように防御するのが弁護士です。
弁護士は,現在,裁判所がどのような方向性を目指して話を進めようとしようとしてるのか,言外にある意図を汲んでこちらの対応を組み立てます。こちらが検討すべき点,やっておかなければならない点を的確に把握し,しっかり対策をして,調停に臨みましょう。
また,財産分与については計算が複雑になる場合も多く,専門家の助言があるに越したことはありません。その他,対立点が多く, 論点が多岐にわたる場合や,たくさんの条件を決めなければならない場合,弁護士は豊富な事例をもとに,あなたの立場を最大限まもりながら,着地点を見つけます。
既に調停が始まってしまっている方,調停の申立てを考えている方,相手方から調停を申し立てられそうになっている方,ぜひ一度ご相談に見えてください。あなたの現在の状況に応じたアドバイスをさせていただきます。
(2026年1月改訂)
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高市首相 「馬車馬」発言について(弁護士 川岸卓哉)
2026年3月5日 木曜日
二〇二五年十月、 自民党の高市首相は 就任会見でこう述べた。
「もう全員に働いていただきます。 馬車馬のように働いていただきます。私 自身も『ワークライ フバランス』という 言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります。」
この言葉が流行語大賞を受賞した裏で、過労死で家族を亡くした遺族たちは憤り、「命を軽んじている」「この言葉のために 私の家族は亡くなった」と訴えた。
この首相の言葉は、単なる個人の決意表明ではなく、 労働時間規制の緩和という明確な政策目理念に基づくものであったと考えざるを得ない。
首相はその後も国会答弁等において、現行の規制により「残業代が減り、生活費のために無理な副業をして健康を損ねる人が出るのを心配している」「企業が過剰に反応し、本来ならもう少し働けるのに乖離がある」などと述べ、緩和の必要性を説いている。
しかし、この論理は極めて欺瞞的である。労働者が生活のために残業を望まざるを得ない状況があるならば、 解決すべきは賃金水準の低さであり、労働時間の延長ではない。健康を守るための規制を、健康を理由に破壊するという論理矛盾は看過できない。
すでに、現行法の下でも三六協定を締結すれば、一か月百時間未満、年九百六十時間までの時間外労働が可能である これは実質的に「過労死ライン」すれすれを法が容認している状態だ。
長時間労働が健康を害する医学的・科学的知見は明快である。
週五十五時間ないし六十時間、 あるいは一日十一時間以上の長時間労働は、脳・心臓疾患の重大な健康阻害を引き起こす。一日五~七時間未満の睡眠では、脳心臓疾患などの過労死が発症するリスク領域にある。健康を確保するためには最低限七時間程度の睡眠が確保できていたかどうかが重要であり、日本人の生活実態を踏まえると、最低でも十二時間から十三時間の勤務間インターバルが必要となる。政権の考える規制緩和は、過労死を防ぐための科学的根拠を無視した暴挙なのは明らかである。
そもそも、日本社会には過労死を生み出すという構造的問題が根深く存在する。
使用者の指揮命令下で残業を命じられる立場にある労働者は自らの生命や健康を管理する主体性を奪われやすい。また、個の都合より組織を優先する会社本位主義や滅私奉公の精神 、そして人間を単なるコストと見なす市場原理が、私生活や睡眠までも成長の資源として消費し尽くしている。この過労死を生み出す前近代的な現実を無視して「労働者の選択」という美名のもとで規制を外すことは、極めて危うい論理である。
労働法は、過酷な労働環境に抗った先人たちが、団結して勝ち取ってきた闘いの歴史の結晶である。過労死弁護団や遺族たちが長年闘い、ようやく勝ち取ってきたのが、長時間労働規制帰省であり、「長時間労働は人の心身を壊す人災である」という法的・社会的な共通認識だ。首相の発言は、この歩みを否定し、前近代的な精神主義へと時計の針を巻き戻すものである。
文化の享受や創造の基盤となるのは、 個人の自由・自律性だ。一人の人間が自らのリ ズムを取り戻し、おかしいことには明確に「ノー」と言える知識と感性を研ぎ澄すこと。私たちが守るべきは、非人間的な規制緩和によって実現する企業の成長効率ではなく、一人の市民が自由な時間を謳歌し、文化に親しむ権利である。馬車馬の如き「使い捨て」を許さない 社会を創るのは、他ならぬ私たち一人ひとりの意志と行動である。
(この原稿は「ミュージック・マガジン」2026年2月号に寄稿したものです)
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