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建設アスベスト訴訟、補償基金制度創設で全面解決めざす(弁護士 西村隆雄)
2020年9月16日 水曜日
8月28日の神奈川2陣東京高裁判決、9月4日東京2陣東京地裁判決と、連続で大きな勝利をおさめた建設アスベスト訴訟。
これで国には14連勝、建材メーカーにも5高裁含む8勝、さらに懸案であった一人親方をめぐる国の責任でも7連勝と、大きな前進を勝ちとることができました。
しかし1陣訴訟の提訴から12年が経過する中で、原告、被災者の既に7割以上の方が命を奪われる状況となっており、一刻も早い解決が望まれるところとなっています。
こうした中、原告とこれを支援する組合では、国と建材メーカーの負担で、全ての被災者に、裁判を起こすことなく簡易迅速に損害の補償を実現する補償基金制度の創設を求めて運動してきました。これに対して国は、いたずらに控訴、上告をくり返し、仮に最高裁で敗訴したらその判決に従って、いちいち被災者にあらたに裁判を提訴してもらって、その上で和解して補償を行う司法解決方式を標榜してきました。
しかし、これまでに建設関係のアスベスト被災者は7000人を超えており、発病までの潜伏期間が30~40年と長いことから、今後もさらに被災者は増え続け、2万人以上にものぼると予想されています。こんな大変な数の被災者に、いちいち裁判を起こさないと救済しないなどというのはとんでもない話です。また一方の建材メーカーは和解などもってのほか、裁判で争い続けるとみられ、国民の血税で国が負担をしながら直接の加害者の建材メーカーは負担を免れる、そんないびつな解決が許されるはずもありません。
今すでに5つの事件が最高裁に上がっていますが、いよいよその先陣を切って、私たちが代理人をつとめる神奈川1陣訴訟について、来たる10月22日に最高裁で弁論が開かれることとなり、早ければ年内、遅くとも来年初めには、最高裁判決が下される見通しとなっています。
これを最大のチャンスとして、何としても補償基金制度を創設し、事件の全面解決を図っていくため、私たち弁護団としても全力を尽くす決意でのぞんでいるところです。
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|かわさき市民ミュージアム問題-住民訴訟の提起(弁護士 篠原義仁)
2020年9月10日 木曜日
1 かわさき市民オンブズマンの第23回定期総会が、2019年5月18日に開催された。その総会において、角田英昭(自治体問題研究所)さんをお招きして「指定管理者制度」について講演をして頂き、その運用実態と問題点について議論を深めた。
神奈川における具体的事例として、津久井やまゆり園や川崎市市民ミュージアム、そしてツタヤ図書館の事例が取り上げられ、質疑が行われ、その討議結果をうけて、かわさき市民オンブズマンとしても、指定管理者制度について検討を深めることを確認した。
そして、その後の幹事会で、関係者からの意見聴取を踏まえ、前記市民ミュージアム問題の検討に入ることとした。
2 市民ミュージアムは、博物館機能、美術館機能と映像機能を併せもつ総合文化施設として1988年11月に開館した。
その財産管理は、数度の組織改編を経たのち、2003年の地方自治法の改正で指定管理者制度の導入が定められたのをうけて、川崎市においても2017年度から指定管理者制度を導入するため2016年2月川崎市市民ミュージアム条例を改正し、2017年7月にアクティオ・東急コミュニティ共同事業体を指定管理者に選定した(同年10月市議会の議決)。
川崎市と前記共同事業体との間で締結された基本協定書では、収蔵品の保管、管理につき、善管注意義務が規定され、その上で、収蔵品が川崎市の所有に係る場合は重過失が、収蔵品が第三者の所有に係る場合(寄託)は軽過失を要件として損害賠償義務が課されるところとなった。
3 かわさき市民オンブズマンは、市民ミュージアムの収蔵品の管理状況は、指定管理者への移行後にあっては、「川崎市市民ミュージアムにおける資料等に関する要綱」で定められている管理台帳が不整備で、その上、ハザードマップで想定浸水深が「5~10m」とされている湿地帯(等々力緑地)の建物の地下に収蔵されていることに着目し、その問題点をえぐり出すため、2019年6月21日に情報公開請求を行った。
そして、7月17日に公開された資料によれば、オンブズマンが予想したとおり管理台帳は不十分で、収蔵状況も地下収蔵が中心で防水壁等の設置もなく、災害対策上問題があると判明した。
そこで、オンブズマンは、2019年9月2日に川崎市へ改善要求のための申入を行い、10月11日にその回答を得た。
その回答につき、オンブズマンとして検討に着手しようとしたときに、台風19号が襲来し、収蔵品の浸水被害が発生した。
台風19号は、10月8日時点で狩野川台風並みかそれを上回る大型台風であることが、国民に周知され、その危険回避のため、十二分な台風対策をとるよう注意報が発せられた。
その台風19号は、10月12日19時前に伊豆半島に上陸し、関東地方を通過して、翌13日未明に東北地方の東海上に通り抜けた。
この降雨により、市民ミュージアムの地下1階には推定16,000㎥の水が流入し、地下フロアにある第1から第9までの収蔵室 は、床上1.95m~2.55mの浸水を蒙り、地下収蔵の約22.9万点の収蔵品が水没した。
市民ミュージアムの収蔵品は、約26万点で、そのうち約22.9万点が被害を受けるところとなった。
一方、1階から3階の展示室等にあった収蔵品は、被害を免れた。
4 オンブズマンは、地下収蔵の収蔵品の被害について、川崎市長において、川崎市の関係職員と指定管理者である前記共同事業体に、収蔵品被害に係る損害賠償請求を行うよう求めて、2020年6月19日に住民監査請求を行った。
責任追及の論点は、3点に要約できる。
(1)収蔵品管理上「ハザードマップの確認」が義務づけられているなかで、ハザードマップで想定浸水深が最大10mとされている低湿地で、防水壁の設置等予防対策を講じることなしに地下収蔵したことの誤り
(2)台風襲来時における応急的対策として地下の収蔵品を地上階に移し替えることは当然の手立てであるところ、全くその垂直移動の措置をとらなかったことの誤り
ちなみに、市民ミュージアムには、館長、副館長、学芸員を含め常勤職員は31名いて、そして、会館内には超大型エレベーター2台、超大型台車2台、中型台車6台が常備されている。従って、職員を早期から現場配置し、エレベーター等の機材を利用して、収蔵品を地下から上層階へ移動することは、人的にも機材的にも、時間的にも十二分に可能であった。しかし、川崎市と指定管理者は、一切、移動の措置をとらなかった。
(3)管理に係る「大雨・強風等に係る自衛消防対策」のうち、「日常の大雨・強風対策、被害の未然の防止対策」として、「土のう・排水ポンプの定期点検」が義務づけられているところ、会館では、地上部に土のう(三段積みが必要)を積み上げるためには、660俵の土のうが必要なところ、何と15俵しか常備されておらず、その結果、地上部に三段積みで土のうを積み上げることができず、水害被害を発生させた、という誤り
5 以上の事実は、指定管理者として善管注意義務に反し、かつ、その責任は重過失に該るものとなっている。
川崎市も、当然、川崎市の財産を管理すべき責任があるところ、市民文化局所管の市民ミュージアムにつき、市民文化局長は、その行政財産を管理する責任を有し、具体的な管理責任は、市民文化振興文化施設担当課長が担っているのであり、そして、川崎市長は、地方自治法149条6号に基づき、市の財産を管理する権限を本来的に有しているものであり、これら川崎市長及び関係職員も、この責任を怠ったものというほかない。
オンブズマンは、前述したとおり監査請求を行ったが、川崎市監査委員は、2020年8月17日、川崎市長及び関係職員に係る部分は棄却し、指定管理者に係る部分は不適法として却下した。
そこで、同年9月2日、住民訴訟を提起した。
今回の裁判は、全国各地で行政主体が丸投げに近い形で、各種公共施設に指定管理者制度の導入を行っているなかで、指定管理者制度のもつ問題点を解明し、この制度自体の有り様をも問うものとして、提訴されたものである。
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