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医療事故調査制度について(弁護士 小林 展大)
2019年5月7日 火曜日
1 医療事故調査制度とは
2015年10月1日から,医療事故調査制度が始まっています。この制度は,医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い,その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで再発防止につなげるための医療事故に係る調査の仕組み等を,医療法に位置づけ,医療の安全を確保するものです。
この制度の目的は,医療事故の再発防止,医療安全の確保にあります。
2 医療事故調査制度の対象案件
⑴ 医療事故調査制度の対象となる案件は次のとおりです(医療法第6条の10第1項)。
① 医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる
② 死亡または死産であって
③ 当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして
④ 厚生労働省令で定めるもの
また,医療法第6条の10第1項に規定する厚生労働省令で定める死亡又は死産(上記要件③④)は、次のいずれにも該当しないと管理者が認めたものとされています(医療法施行規則第1条の10の2第1項各号)。
ア 病院等の管理者が、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該医療の提供を受ける者又はその家族に対して当該死亡又は死産が予期されることを説明していたと認めたもの
イ 病院等の管理者が、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該死亡又は死産が予期されることを当該医療の提供を受ける者に係る診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの
ウ 病院等の管理者が、当該医療を提供した医療従事者等からの事情の聴取及び同施行規則第1条の11第1項第2号の委員会からの意見の聴取(当該委員会を開催している場合に限る。)を行った上で、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該死亡又は死産を予期していたと認めたもの
⑵ そして,医療事故調査制度の対象案件に該当するとして調査が開始されるかは,医療機関の管理者(院長など)の判断によります。
また,医療機関,医療従事者の過失の有無は,医療事故調査制度の対象案件となるかの判断とは関係がありません。
3 医療事故調査制度の対象となった場合
⑴ 医療事故調査制度の対象となった場合,ⅰ事故発生について,遺族に説明し,第三者機関である医療事故調査・支援センターへ報告する,ⅱ原因を明らかにするために必要な調査を実施する(院内調査),ⅲ調査結果について,遺族に説明し,同センターへ報告することが義務付けられることになります(医療法第6条の10,第6条の11)。
⑵ なお,遺族等から医療法第6条の10第1項に規定される医療事故が発生したのではないかという申出があった場合であって,同医療事故には該当しないと判断した場合には,遺族等に対してその理由をわかりやすく説明することとされています(厚生労働省通知医政総発0624第1号平成28年6月24日)。
4 その他
医療事故調査制度については,他に,厚生労働省・医療事故調査制度について(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html),
日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)(https://www.medsafe.or.jp/)のページもご参照下さい。
5 今後について
医療事故調査制度は,上記のように,医療事故の再発防止,医療安全の確保を目的とした制度です。
それぞれの医療事故につき,医療事故調査制度の対象なのか,事案解決のためにどのような手段・手続を選択するか等は,検討を要するものですので,弁護士にご相談下さい。
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|労働者追い出しに加担するブラック産業医 客観性、中立性を担保する制度導入を(弁護士 川岸卓哉)
2019年5月7日 火曜日
パワハラや過重労働によるメンタル疾患によって休職を余儀なくされる従業員は近年、増加の一途を辿っている。メンタルヘルス問題への対応が、社会的にも重要な課題となっている。
2015年12月より企業で労働者に対するストレスチェック制度が始まり、強いストレスを抱えた労働者の面談指導に関与することなど産業医の果たす役割が重要性を増している。
しかしその職責を裏切り、企業のクビ切りに露骨に加担する「ブラック産業医」の問題がクローズアップされている。
1 ブラック産業医問題とは
産業医の重要な仕事の1つに、職場復帰の支援がある。休職した従業員の復職可否の判断に当たっては産業医の判断が重視されているが、従業員の復職を認めず、休職期間満了で退職に追い込む「クビ切りビジネス」に手を染める産業医も存在する。すなわち、メンタル疾患に罹患する労働者の増加に伴い、産業医に期待される客観的・中立的・専門的立場に反し、専ら会社に迎合して労働者を退職に追い込む「ブラック産業医」が増加している。この問題について、実例とともに厚生労働省申し入れ、その後の法改正について報告する。
2 産業医によって2人が退職に追い込まれた神奈川SR事件
復職不可の産業医意見を正面から争った事件として、神奈川SR経営労務センター(以下「SR」という)事件をめぐる裁判がある。
SRの職員だったAさんは、職場のパワハラやいじめに悩まされ、うつ症状を発症。2014年5月に休業に入った。その後体調が回復したので、復職を可能とする主治医の診断書を添えて復職を申し出たが、SRは復職を認めなかった。産業医がAさんの復職を否とする意見書を出したからであった。Aさんは2015年6月、休職期間満了で退職扱いにされた。
産業医はAさんと30分ほどの復職面談を1回しただけであった。主治医に対して問い合わせをすることは一度もなく、心理検査もしないで「統合失調症」「混合性人格障害」など、Aさんがこれまで一度も受けたことのない病名をつけて復職不能の進言をした。
同じくSRの職員であるBさんも、この産業医の「復職不可」判断によって2015年、SRから退職させられた。AさんとBさんがSRを相手に提起した地位確認請求訴訟は、一審横浜地裁、二審東京高裁ともAさんBさんが勝訴し、復職が認められた。裁判では、産業医の意見の信用性は完全に否定された(現在、SRが最高裁に上告中)。
その後、AさんとBさんはさらに2018年12月、産業医及びSRに対し①違法な復職妨害②「人格障害」「統合失調症」「自閉症スペクトラム障害」という根拠のない病名を付されたことなどによる名誉棄損に基づく損害賠償を求めて提訴。「ブラック産業医」問題の責任の追及を続けている。
3 ブラック産業医が生まれる温床と厚生労働省申し入れ
医師にとって産業医への参入障壁は低い。医師であれば専門分野を問われず、わずかな時間の講習を受けるだけで産業医の認定を受けることができるからである。
大企業では専属産業医の選任が義務付けられている。しかし専属産業医を選任する義務のない中小企業では、嘱託産業医が多数の企業を掛け持ちすることによって、手軽に高額の報酬を受けることもできる。
産業医の職務については客観性、中立性、専門性を担保する制度が事実上ない。産業医個人の自覚に拠るしかない。こうした現状が、高額な報酬につられて使用者への安易な迎合に走る「ブラック産業医」が生まれる温床になっている。
AさんBさんを始め、主治医の復職可能判断が産業医によってひっくり返され復職を拒否された3人の労働者が2017年4月、厚生労働省や関係機関に対し、産業医の客観性・中立性の担保を求める申し入れを行った。
申し入れたのは、(1)復職の可否について、産業医と主治医の判断が異なる場合、産業医が主治医に十分な意見聴取を行うことを法令で義務化すること、(2)法令による産業医に対する懲戒制度の創設、(3)メンタルが原因による休職の場合、精神科専門医でない産業医が復職の可否を判断できないようにすることなどであった。
厚生労働省への申し入れは、メディアを通じて「ブラック産業医」の存在を広く社会に問題提起するきっかけになった。産業医関連団体へのインパクトは大きく、問い合わせも多く受け、その後の法改正にも影響を与えたようである。
4 労働安全衛生法改正と産業医の在り方
近年、産業医に関する労働安全衛生法の改正が進められている。労働者の健康管理における産業医の義務の強化として、労働安全衛生法第13条と14条で、産業医は知識と能力の維持向上に努め、誠実に職務を行わなければならないという項目が追加された。他方、産業医の権限強化として、事業者は、労働時間に関する情報やそのほか必要な情報を産業医に提供しないといけないこととなった。このほかに産業医の権限を担保するため、産業医の勧告と地位の確保、健康情報管理の構築なども定められた。
かつて労働災害の発生原因は、製造工場などでの危険作業等が主であったが、最近は、オフィスでの長時間労働や人間関係のトラブルが心理的負荷となって精神疾患を発症するという労働災害が急増傾向にある。法改正による産業医の権限の強化は、これらの変化を背景としている。
産業医は、労災予防のため、職場巡視で外見からわかる職場の危険だけでなく、職場の内実に迫り危険性を把握する必要がある。法改正の趣旨に則って産業医の的確な権限行使がなされれば、現代の職場における精神疾患発症を防ぐことに役立つ可能性はある。
しかし残念なことに産業医が十分に機能していないというケースは少なくない。機能していないどころか、職務の客観性、中立性を曲げて、労働者の不当な追い出しに加担する「ブラック産業医」まで散見され、多くの労働者が泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくないと考えられる。
本来、産業医には、労働災害を防ぐ「番人」としての役割が期待されている。産業医には、長時間労働の実態など職場状況をしっかりと把握し、会社に対して臆することなく意見を述べ、是正を求める姿勢が求められる。
産業医の職務の中立性は、これまでは職業倫理に支えられてきたものの、それだけでは不十分である。産業医の職務怠慢や会社への不当な迎合を制度的に防ぐため、産業医の客観性・中立性を担保する懲戒制度などを設けることも課題である。
(以上は公益社団法人自由人権協会の会報に寄稿した内容です)
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|Q パワハラ-会社で、上司や同僚から、「仕事だから」と理不尽な仕事を押し付けられて、いじめを受け続けており、うつ病になりました。どのようにしたら良いでしょうか。
2019年5月2日 木曜日
A いじめが業務として行われる(長期間の自宅待機や過大なノルマの押し付け等)は、もちろん、業務以外の理由で発生するいじめ(いわゆる村八分やセクハラ等)であっても、違法性が認定されれば、会社に対して債務不履行責任ないし不法行為責任の損害賠償責任を請求できます。あなたの場合、いじめが業務命令を理由としてなされていますので、違法性については、(1)業務上の必要性、(2)違法目的の有無、(3)労働者の被る不利益を基準にして考えることになります。いじめの実態を把握する必要がありますので、つらい作業になりますが、録音、ビデオテープ、写真、その場その場で日付を書いて詳細なメモをとる等して、いじめの事実をできる限り詳細に集めておくの良いでしょう。
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|Q 配転命令-営業職として、東京で10年以上にわたって働いています。会社から、地方に技術職として勤務するように、配転命令を受けました。会社の命令に応じなければならないのでしょうか。
2019年5月1日 水曜日
A 配転命令は、配転を命じる労働契約上の根拠があり、かつ、その配転命令権の範囲内でなければ、無効です。そして、配転命令が有効であるためには、
(1)労働契約上、配転命令権の根拠があり、その範囲内であること、
(2)法令違反等がないこと、
(3)権利濫用でないこと(労働契約法3条5項)、
が必要です。
(3)の判断要素として、当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無、人員選択の合理性、配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされているか否か、当該配転が労働者に通常甘受すべき程度を超える不利益を負わせるものか、その他上記に準じる特段の事情の有無(配転をめぐるこれまでの経緯、配転の手続)があげられます。あなたの場合、(3)の基準からして、権利濫用により、無効になると考えられますので、配転命令の撤回を求めつつ、会社が撤回しない場合に備えて、労働審判、仮処分、訴訟等の法的手段を検討すべきでしょう。
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