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大船自動車学校 解散解雇事件最高裁で判決確定 全面勝利 /藤田温久
2016年8月17日 水曜日
1、本事件につき、東京高裁第14民事部は、今年5月31日、原審に続き再び、労働者側の全面勝利判決を言い渡しました。
2、事案
(1)(株)勝英(岡山県、以下「勝英」)は、2000年10月31日、大船自動車学校(「湘南センチュリーモータースクール」に名称変更)を経営する大船自動車興業(株)(以下「大船興業」)の株式を全部取得しました。
(2)突然の解雇予告と退職届
新経営陣は、全従業員に対し、11月16日「11月末日までに退職届を出さない者は12月15日をもって大船興業を解雇する。退職届を出した者は、勝英に正社員として雇用し、大船興業に出向させる」旨の通告しました。
しかし、退職届を出すことは、勝英の劣悪な労働条件への切り下げ(労働時間の大幅延長、大幅減給)、「全員課長」(全く部下のいない名目だけの一人課長にして残業代不支給、組合脱退を図る)などを認めることに他ならず、自交総連神自教大船自校支部(以下「大船支部」)は退職届を提出しませんでした。
(3)営業譲渡と解散
大船興業は勝英と、12月15日、「湘南センチュリーモータースクール」の営業全部を譲渡する契約を締結しました(以下、「本件営業譲渡契約」)。
また、大船興業は、前同日、臨時株主総会で、本件営業譲渡を承認し、同社の解散を決議し、解散にともない、大船支部員らを全員解雇しました。
勝英は、退職届を出した従業員を雇用し、大船支部員らは雇用しませんでした。
3、原審判決
9人の大船支部員は、勝英に対し、地位確認、未払賃金支払などを求め提訴し、2003年12月16日、横浜地裁第7民事部は、以下の通り、原告ら勝利の画期的判決を言い渡しました。
(1)解雇の効力
1.大船興業と勝英は、遅くも本件営業譲渡契約締結時までにa「営業譲渡に伴い従業員を移行させることを『原則』とする」、しかしb「相当程度の労働条件切り下げに異議のある従業員を個別に排除する『目的』達成の『手段』として、退職届を出した者と勝英が再雇用し、退職届を出さない者は解散を理由に解雇する」と合意した、
2.1の合意は、aは有効だが、bは民法90条(公序良俗)に反し無効である。
3.本件営業譲渡契約中の「勝英は大船興業の従業員の雇用を引き継がない。但し、11月30日までに再就職を希望した者は新たに雇用する。」との規定は、1bの『目的』に沿うように符節を合わせたものであり、同様に民法90条(公序良俗)に反し無効である、
4.以上、原告らに対する解雇は、形式上解散を理由にするが、1bの『目的』で行われたものであり、解雇権の濫用として無効である。
(2)労働契約の承継の有無
原審判決は、営業譲渡契約に伴う「当然承継」は否定し、譲渡人と譲受人の特別の合意を要するとした上で、(1)4により原告らは解散時に大船興業の従業員としての地位を有することになり、(1)1の合意aの『原則』通り営業譲渡の効力が生じる2000年12月16日に労働契約の当事者としての地位が勝英との関係で承継される、としました。
(3)バックペイ(賃金未払いの支払い)も全面的に認容されました。
4、控訴審判決(本判決)
(一)本判決は、原審判決のうち、(一)解雇の効力(二)労働契約の承継の有無についての判断は、全面的に支持しました。
(二)他方、会社のバックペイの減額を図る主張について、新たに正当な判断を下しました。すなわち、会社は、バックペイ算定の基礎である平均賃金額算定につき、1.現実に勤務して初めて認められる時間外手当、休日手当、2.教習内容、時間により支給される路上教習手当、高齢者教習手当、3.実費補償的手当である食事手当等を、控除するよう主張しました。しかし、本判決は、会社に責任のある事由により労務の提供という債務の履行ができない場合、会社は民法の規定により賃金支払義務を負う。つまり、労働者らが現実に勤務しないことを理由に1.2.3.各手当を平均賃金額算定の基礎から控除することはできない、としたのです。
本判決は、本判決確定までのバックペイを認め、かつ仮執行宣言を付しました。
5、本判決の意義
今、わが国では、労働条件の大幅切り下げ、リストラ・合理化に抵抗する労働者の排除の手段として、「法人格」が悪用されています。A社の「解散」B社への「営業譲渡」により、実態は何も変わらないのに、A社の労働者は、「別法人」であるB社に対し「採用」される権利を主張できない、とする「手法」はその典型的なものです。本判決は、かかる「法人格の悪用」を、営業譲渡についての実態に則した明快な意思解釈によって断罪した画期的な原審を一切の後退なく支持した高裁判決として極めて重要な意義があります。
「解散」「解雇」になっても、頑張ることができる。あきらめなくても良い。
それを支える判決なのです。
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|神奈川でも進行する「日の丸・君が代」の強制 /川口彩子
2016年8月17日 水曜日
卒業式・入学式の国歌斉唱時、教職員が起立しないと処分される―。
2004年の卒業式から2005年の入学式に至るまで、東京都で、不起立や君が代伴奏拒否によって処分を受けた教員はのべ300人を数える。1回目の不起立は戒告処分でも、2回目以降は減給となり、4回目には停職となる。定年後に嘱託となった教員は、たった1回、わずか40秒の不起立で解雇され、翌年度の教壇から追われた。最近では、在職中に1回でも不起立を行った教員は、嘱託員として採用しないという事態となっている。
石原都政の下、極めて強権的に行われてきた日の丸・君が代の強制であるが、神奈川県でも東京都の後を追うように、事態が進行しつつある。
昨年、神奈川県教委は教育長名で、全ての県立学校長に対し、「入学式及び卒業式における国旗の掲揚及び国歌の斉唱の指導の徹底について(通知)」と称する通知を発令し、県立学校における日の丸・君が代の強制を強めてきた。
2005年は、東京と同じような懲戒処分こそはなされなかったものの、卒業式・入学式には、監視役の県会議員の「招待」が行われ、初めて、学校ごとの不起立者の人数を具体的に問うアンケートが行われた。不起立を貫いた教員に対しては、校長・教頭が狙い撃ち的に呼び出しを行い、今後は起立するようにという強い「指導」がなされ、なかには教員に対し、なぜ起立しなかったのかという理由を問い質す学校や、立ったか立たなかったかの自白を求めるアンケートを実施した学校もあった。こうした具体的な動きは、昨年のレベルを遥かに上回るものであり、教員の意思決定の自由、思想良心にしたがった行動の自由を奪う「強制」であることは間違いない。
今年9月20日、神奈川県教育正常化連絡協議会なる団体から「卒業式・入学式における国歌斉唱についての請願」が県議会に提出された。この団体は、新しい歴史教科書をつくる会の神奈川県の代表である小関邦衛氏が同じく代表を務める右翼的な団体である。その請願の要旨は、不起立の教員は処分しろ、君が代斉唱には指揮を行いピアノで伴奏でしろというものであり、請願の理由の中には次のようなフレーズがある。
「国歌斉唱時に起立しないことは、国歌に対する最大限の侮辱であり、露骨な冒とく行為で、決して許されないというのが世界の常識です。公人である教職員が、このような非常識な行為を授業の一環である式典において生徒の面前で行うことは、生徒の学ぶ権利を侵害し式を混乱させるものといわざるをえません。こうした事態を放置すれば、教育委員会の指導は無視され、混乱が拡大することは必至です。」
実は、この神奈川県教育正常化連絡協議会は、昨年も神奈川県議会に対し請願を提出した。その請願は、東京と同じような形式(壇上正面に日の丸を掲揚、君が代斉唱時は日の丸に向かって起立して斉唱、君が代斉唱はピアノ伴奏による、舞台壇上で卒業証書を授与、教職員が校長の指示に従わない場合や式典を妨害した場合は服務上の責任を問う)でやれというものであり、自由法曹団神奈川支部や青年法律家協会では対抗する陳情も提出して、請願採択阻止をねらったのであるが、神奈川県議会は、この請願を賛成多数で採択した。現在の状況では、教育のことも憲法のことも世界の常識も何も分からない議員たちによって、今年の請願も採択されかねない。
教育基本法10条1項は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と定めている。このような請願を採択して、県教委に対し教員の処分を迫る県議会は「不当な支配」そのものである。
今年7月27日、神奈川県立高等学校、神奈川県立養護学校の教職員107名が原告となって、神奈川県(神奈川県教委)を相手に「国旗国歌忠誠義務不存在確認訴訟」を提起した。
国歌斉唱時に起立するか否かは、個人が国家とどう向き合うか、君が代をどのように評価するかという問題であり、憲法で保障される思想・良心の自由の内容そのものである。このような自由が教職員に保障されることはとても大事なことで、教職員の自由なくして児童・生徒の自由はありえない。いま、学校内の自由が脅かされている。原告107名という数に、教職員の危機感が表れている。卒業式・入学式は、国家のためのものではなく、生徒のためのものである。学校内の自由をまもり、生徒が思い出いっぱいに学校を巣立っていく卒業式、期待に胸をふくらませて門をくぐる入学式を全力でまもっていきたい。
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